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 蛭町は体勢を立て直そうと後退する。

 しかし、その速度はあまりに鈍い。

 直ぐに追いつくと数本の足を掴む。思った以上にこの足は硬く頑丈そうだ。掴んだ腕を振り払おうと暴れる。そして他の足で蹴ってこようとする。

 俺は握った手に力を込め、思いっきり引き抜いてやった。

 掴んだ足は根っこから引き抜かれ、ねっとりとした緑色の液が噴き出す。

 再び悲鳴が上がる。化け物と人間の悲鳴の混声だ。

 俺は吐き気がするが、俺の代わりに俺を動かす奴は興奮気味だ。

【楽しー。もっとわめけよ。泣いてくれ。たまらねえ】

 たとえ絶体絶命状態であっても、体を明け渡したのは間違いだったんじゃないのか? 本気で後悔を始めていた。


 しかし、残虐行為は続く。俺は手近なムカデの足を掴むと雑草でも抜くように引き抜いた。

 ぶちぶちぶっち。

 そのたびに悲鳴が上がる。

 俺はムカデの片側の足をすべて引き抜くと、今度は逆の足を引き抜き始めた。

 その空隙を縫って、背後から蛇の頭が再び俺に噛みつこうとしたが、まさに後に目があるかのようにその攻撃をかわすと二本の毒牙を両手で掴み、これも引き抜いた。

 抜いた二本の牙は奴の胴体に深々と突き立てられる。

【死ね死ね死ね〜。キメラは死ね。化け物死ね〜】

 奇妙な鼻歌で楽しそうに、俺はムカデの足をむしる。


 直ぐに全ての足は引き抜かれ、ボディがムカデ、ヘッドは蛇の蛭町のキメラ体は頭が蛇で体がミミズみたいになってしまった。

 うねうねと動くがうまく進めない。


 俺は指さして大笑いする。

【かっこわりー。ぎゃはははは!!! 】


「痛てええよ、助けてくれ」

 声がする。くぐもった声だ。

 見ると体の中に取り込まれた奴の一人だ。膨れあがった体なので中が透けて見える。ブクブクと泡を吹きながらこちらを必死に見ている。……たしかまだ小学生だった奴の一人だ。残虐な目をしていた奴が今では完全に怯えきって助けを求めている。

 しかし、もはや彼を救い出すことなど不可能だろう。キメラ化した蛭町の組織が彼の体の至る所に入り込み同化している。おまけに一緒に取り込まれた仲間の連中の腕は足がツタのように絡まり、それはもともと同じものだったかのように繋がっている。いかなる外科手術を持ってしてもそれらを綺麗に切り離し、それぞれの生命として生かすことなどできそうにもなかった。

 すまないな……助けられそうもない。おれは独りごちた。

 すると俺の直ぐ側で鼻で笑うような気配があった。


【安心しろ、助けてやるぜ】

 俺の体を使う奴は明言した。その言葉は慈愛に満ちた声に聞こえる。

 にっこりと笑う。表情筋が笑顔を形成している。


「ほんとでふか? 」

 藁にもすがる感じで少年が訴える。

【もちろん、今助けてやるよ】

 そう言って、俺はゆっくりと右手を差し出す。軽くムカデの皮膚に掌を載せる。続いて指に力を込めて押し込む。

 ずぶずぶと皮膚を突き破り手がめり込んでいく。

 次の刹那、一気に俺は腕を突き入れた。

 抵抗なく奴の体内に肘まで入り込む。

 少年の腕を掴んだと同時に、力任せに引き抜いた。

「ぎゃいやあああ!!! 」

 もの凄い悲鳴が聞こえた。それは少年のものか、それともそれ以外のものか、全員の者かは分からない。

 ただ、体液の中に入った人間から出たとは思えないくらい大きな音だった。

 考えれば蛭町に取り込まれた連中は体が接合されている。つまり痛みも共有しているってことなんだ。


 俺は右手を見る。

 そこには引き千切られた少年の腕があった。

 赤い血がタラタラと垂れ落ちる。


 ひえひえとくぐもった悲鳴が聞こえ続ける。


 俺は高々と千切った腕を持ち上げた。

 赤いものが俺の顔に落ちる。そして俺の口に滴が伝う。


 美味い……。


 気持ち悪いではなく、最初に感じたのがそれだった。

 なんだこの甘美な味は。


 俺は少年の腕を口元に近づける。繊維が引き千切られ血管や肉がむき出しのグロテスクな切断面。わき出す肉汁。

 だけどそれに俺は猛烈な食欲を感じていたんだ。


 喰いたい。

 生のまましゃぶりつくしたい。


 あり得ない欲望が俺の頭の中にわき出す。

 そんなのあり得るわけがない。肉はウェルダン。生食なんてありえなかったのに、なんでこんな事が考えてしまうんだよ。いやだいやだ。ありえねえ。

 だけど俺の体は俺の支配下にない。必死で否定する俺をあざ笑うかのように腕の切断面が近づけられる。

 嫌悪と渇望。其の二つが俺を引き裂こうとする。


 俺はゆっくりと切断面に口づけする。僅かな血が唇に触れ、中へと入り込んでくる。

 その瞬間、俺の正気が吹き飛んだ。


 全身が痺れるような感覚が俺を貫く。

 いままで押さえ込んでいたものが一気に復活したようにさえ思える。

 

 腕の切断面を嘗める。舌を皮膚や骨、筋肉繊維を丹念になぞるように。

 口中に広がる香り。味覚。そのたびに全身を嵐のような衝撃が走る。

 軽く歯を立てて、肉を食いちぎる。コリコリとした触感……。飲み込んだ。

 美味い!!


 もう制御不能となった。


 まるで飢えた獣だ。音を立てて腕に齧り付き肉を引き千切り、飲み込む。

 そのたびに電気が流れるかのように衝撃が走る。

 同時に傷ついていた部位が一気に回復していくのが分かる。

 弱々しい筋肉が、骨が、神経が、皮膚が活性化していく。

 骨すらかみ砕いて飲み込む。

【うお。うめー。たまらん】


 欲望は止まらない。

 再び腕を突き刺すと、無造作に中の人間の体を掴むと、一気に引き千切る。

 そのたびに悲鳴が聞こえる。

 蛭町は必死に逃げようとするが、足を全て切断されたから思うように動けないようだ。ウネウネと這い回る。

 

 俺の食欲は全く満たされないのか? 

 引き抜いた、……今度も腕だ。誰のかはよく分からない。こいつらたこ足配線みたいにこんがらがってくっついてるからな。

 まあいいや、そんなことを考えながら、がりがりと食い尽くしていく。

 こんなに美味いものがこの世にあったのか? そんな驚きでいっぱいだった。

 全身に活力がみなぎる感じ。何か分からないものが染み渡っていく充実感で喘いでしまいそうになる。


【しかし、いくら喰っても満たされねえ。長く閉じこめられていたからな。修行僧みたいだ。ふふふ、こりゃ食い尽くすぜ】


 今度は何を喰おうか?


【蛭町に脳みそに決まってるだろう? 脳みそが一番美味いんだぜ。喰えばそいつの能力を得ることができるって言われているしな】


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