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【……ふふん。神と悪魔にしか頼まないのか、お前は】

 突然、脳内に声が響き渡る。


「誰だ、お前は? 」

 この声には聞き覚えがある。王女と契約してから、時々聞こえてくる声だ。 

 単なる気のせいだと思って無視していたが、こんな状況でも聞こえてくるんだ。


【幻聴じゃない。俺はここにいる。ずっと側にいた。お前の直ぐ側にな……。ふふん、ずいぶんと厳しい状況だなあ。とってもお困りのようだ。何なら力を貸してやってもいいんだぞ】


「こんな状況でどうやって逆転できるっていうんだ? 毒のせいでまともに動けないっていうのに、四肢はばらばらにされ、目も潰されてるんだ。どうしろっていうんだ。回復するっていっても劇的に回復なんてできるはずない。そして回復したところで、勝機はかなり薄いんだよ」


【ははん。大丈夫。俺と交代すればちょちょちょいちょいさ。千切れた足や腕、潰れた目なんか直ぐに復活する。お前はお前の力の半分も使いこなしていないからな。ひゃひゃ。俺と交代しろ。そうすりゃ、あんなキメラ、瞬殺してやんよ】

 恐ろしい自信。しかしそれは全く根拠がないとは思えなかった。

 交代という概念がよく分からないが、もしかするとチャンスがあるのかもしれない。

【おいおい、悩んでる場合じゃないだろ? 早くしないとお前の大事な王女さまがばらばらにされちまうぜ。あんな化け物にチビちゃんがキメラに犯されまくってからバラバラにされちまって構わないのか? お前の親友も当然ぶち殺されるしな。それどころじゃねえぜ。お前の事を好いている紫音ちゃんもあのキメラにやられてばらされるぜ。……さっさとしねえか】


 混乱。

 どうしていいかわからない。どうしようもない状況なのに、俺は一歩踏み出せないでいる。こいつの言っていることは正しい。仮に間違っていても現状それ以外に選択肢なんて無いのは分かっている。だけど決断ができないんだ。

 こいつの誘いに乗ったら取り返しの付かないことになってしまう。……そんな恐怖があるんだ。

 どうしてだか分からない。だけど、俺の心の奥底のものが警告を発するんだ。


【早くしねえと、王女がやられるぜ。さっさとしろ……。奴は最終的に亜須葉をやるつもりだ。お前の大好きな妹をキメラの生け贄にするっていうのか? お前の一番大事な女なんだろう? 】


 その言葉になぜだか動揺した。


【他の女は殺されても、まあ仕方ない。だが亜須葉は死なせたくないだろう。お前の一番大事な女なんだからな】


「何を言ってる? なんで亜須葉が俺の女なんだ」


【俺はお前の中にあるものだ。だからお前の全てを知っている。お前は亜須葉を妹としては見ていない。一人の女として見ている。だからこそ、あの時、お前は……】


「うるさいうるさい! 黙れ黙れ。訳の分からない事を言って混乱させるな」

 こいつはなぜ訳の分からない事で俺を混乱させるんだ。亜須葉は今は関係ないのに。

 これもコイツの戦略なのか? 俺から冷静さを失わせ、奴の思うようにするための。


 突然体にのしかかっていた重みが消えた。

 同時に王女の悲鳴が聞こえた。


 俺と王女の心は繋がっている。だから彼女の恐怖が手に取るように分かった。

 蛭町が王女を次の攻撃対象として選んだのが分かった。

 彼女が武器として使っていた特撮ヒーローのフィギュアはさっきのトゲの乱射で盾となって大破している。もはや彼女の盾となって闘う戦士はいないんだ。

 王女の心に恐怖と絶望が広がっていくのが分かった。逃げようのない絶望感。それが暗黒のように彼女の心を浸食していってる。それでも彼女は漆多を何とか逃がせないか考えているようだ。


【さあ、早くしないとチビちゃんのレイプショーが始まるぞ】


「くそ、どうすれば」

 俺はそれでも踏ん切れない。コイツの言うことを聞いたら俺が俺でなくなる危険を感じていたんだ。


【さあさあ】

 直ぐ側にまでコイツの気配が近づいている。


「シュウ、助けて!! 」

 突然、王女の悲鳴が聞こえた。絶望の中、必死に俺に救いを求める声。

 死にたくないよ、こんなところで殺されるなんて嫌。シュウ、助けて。お願い!!


 王女の叫びが俺に覚悟を決めさせた。

 俺がどうなっても構わない。

 こんな異世界に、誰も知らない世界に来た王女。たった一人で絶望と闘う少女を死なすわけにはいかない。


「わかった。すべてお前に任せる。頼むから、王女を助けてくれ」


【ふひゃ。了解だぜ、派手に暴れてやる】

 コイツの手が俺の方に触れた気がした。

 ふっと体が宙に浮くような感覚がし、俺の意識は後に下がった気がした。

 まるで車の運転席を譲って、後部座席に移動した感覚だ。

 全ては見えるし感じられるけど、夢うつつな感じ……。


【始動する】

 俺では無い俺。

 起き上がる。



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