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 突然の反撃の真意を知った奴は噛みつく行動から回避行動へと意向させた。

 驚くべき反射神経。

 俺の手が奴の左頬にある瘤を掴む寸前で何とか回避し、顔面から壁に激突する。

 

 俺が触れることができたのはその瘤が前後に移動していた死のラインのみだった。

 触れただけでその糸はプッツリと切れた。


 軋むような、呻くような音を立てて、蛇ムカデが転がっていく。

 ムカデ様の胴体をくねらせる。

 壁に当たった衝撃や痛みではなく、俺が抉った左頬のダメージなんだろう。

 直ぐに起き上がった奴の蛇様の顔の左半分には巨大な鉈か何かで切られたような深い大きな傷が縦に刻み込まれ、赤い血がどくどくとあふれ出す。

 ピンクと白の混じったものが内側に見えるが、その傷口はゆっくりと重なり合い修復されているようだ。出血が瞬く間に止まった。


 化け物でありながらも血の色は俺たちと一緒。それが人間だからなのかは分からない。


 蛇ムカデは再び俺を睨む。ムカデの胴体も含めてさらに体を持ち上げる。まるで蛇が鎌首をもたげるかのように。その瞳には驚きと恐怖の色がしっかりと張り付いている。

 所詮生物である限り、死は訪れる。どんな化け物のような形状をしていたって死からは逃れられないんだ。そして、俺はその死を操ることができる。


 化け物でも恐怖を感じることがあるのかな? ふとそんなことを考えた。明らかに蛇の顔をした奴の眼には動揺が現れていたんだから。

 このまま押せば勝てるはず。

俺は奴に向かって一歩踏み出す。すると奴は押されるように少し後退し、距離を保とうとする。あと少しで俺の間合いに入ることがわかるんだろう。


 威嚇するように空気を裂くような音を立てる蛭町。


 ……必死だな。

 虚勢を張れば張るほどこちらに余裕が出てくる。爬虫類っぽい顔になったのになんだか汗ばんでいるようにさえ見える。


 ふっ、なんか軽くやっつけられそう。


 俺は笑みを浮かべてさらに一歩踏み出す。


 ビクンと蛇顔に蛭町の眼が大きく見開かれたように見えた。その眼は俺を見ず、自分の体の下を見た。

 つられて俺も奴の顔の下へと視線を向ける。


 奴の喉下。

 それはかつての蛭町本人の顔のある場所だ。

 土色に変色し、デスマスクのようになっていた奴の顔に生気が蘇っていく。ピタリと閉じられていた瞳がやがてゆっくりと開かれていく。

 その瞳の色はかつての人のものではなく、真っ赤な色の虹彩で、瞳孔は人間のような円形ではなく、スリット型しかもヤギみたいな水平方向の瞳孔で、その色は銀色だ。その眼で俺を見つけるとニッコリと微笑んだんだ。

 いまさらながら人間じゃないことを実感させられ、悪寒が走った。


「月人、まったくお前はつええな。ムカつくほどつええな。俺じゃあ、お前を倒せねえんじゃないかって思ってしまうよ、まじで。むむむん。腹が立つ。くそ。……でもな、何度もお前にやられてばかりなんていらないんだよ。


お前なんかにな。絶対仕返ししてやっからな……」

 浴びせられる言葉には深い深い呪いのようなものがまぶされているみたいに、聞くだけで何か気持ち悪さと嫌悪を俺に与える。

「お前はいいよなあ。そこまでの力を手に入れてよ。おまけにそんな可愛い女の子をものにしているようだし。お前の周りには可愛い女の子だらけだよな。そういや。ケヘヘヘヘ、……柳もそうだし、美里もいい女だな。それから下級生の些沙良ってのもお前に色目使ってたよな。お前が知っているかはしらないけど。それにお前の妹もすげー可愛いよな。へへへ。お前が死んだらその子たちの面倒は俺がみてやるから安心しろよ。……日向みたいにこんなの初めてってひーひー言わせて逝かしてやるからよ。へっへっへ」


「下種だな。……お前、3回は殺してやるよ」


「ふん。でもな、日向はヨガってただろ? お前は目の前で見てたんだからよ。ヒヒヒ、俺の、まああのときは如月流星君のイチモツだったけど、それをつっこまれたあの子のヨガリ声は最高だったよな。お前も血まみれになってたけど、なんやかんやでオッタテテたんじゃねーのか? このスケベくん。ふふん? 」 


 口角を引きつらせて笑う蛭町に明確に俺は殺意を覚えた。悪を倒すとかそんな格好いいもんじゃなく、明確にその対象を殺したいという怒りだ。

 ただただ、目の前のこのむかつく奴を殺したい。

「許さない。……殺してやる」


「ふほほほ。怖い怖い。でも俺だって殺されたくないからなあ。まだまだいろいろ楽しいことをいろいろしたいしなあ。だから月人には殺されるわけにはいかないんだ。そこのちびチャンや、柳や……それからお前の妹……亜須葉ちゃんだったっけ? と乳繰り合いながらじっくりとお話したいからなあ」


 刹那、俺は奴との距離を一気に詰めていた。

 左手で奴の蛇面の下あごを鷲掴みにすると、力任せに殴りつけた。何度も何度も。

 殺意をこめて、ありったけの殺意をこめて。


 俺の脳裏には蹂躙される寧々の記憶が甦らされていたんだ。化け物に犯されて殺された。

 そしてこいつは再びその惨劇を繰り返そうとしている。

 紫音を、王女を、そして俺の妹を同じ目にあわせようとしてやがるんだ!


 許さない。


 こんな奴、一秒足りと生かしては置けない。

 今すぐ殺す、すぐ殺す。

 存在の痕跡すらないぐらいに滅殺する。

 欠片すら残さない。

 意識の残滓さえ許さない。完全に消し去ってやる。


 死ね死ね死ね。


 死ね死ね死ね。

 

 俺はその呪詛の言葉を声に出して殴り続ける。


 ぶっ殺す。

 一秒たりとも地上に存在させない。

 どんどんとこいつに対する怒りが全身から湧き出して止まらない。


 亜須葉に指一本触れさせるか、この糞野郎!!

 滅殺してやる。

 肉片さえ残さない!! 消し去ってやる。


 自分の声とは思えないようなうなり声を上げると、身の力を込めた右拳を突き上げるように奴の胴体へと打ち込む。

 何度も何度も。抉るように。

 鈍く、重い音が地下室に響く。

「死ね死ね、死に腐りやがれ」

 俺は死を念じるように拳に力を込め、更にパンチを打ち込み続ける。



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