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 奇声が地下室に響く。

 それは人が発したとは思えないような音。


 蛭町の頭頂部は左右にバックりと割れ、そこからは二股の真っ赤な舌がうねうねとはい出している。口の上下には2本づつの長い牙。そして耳の直ぐ側に大きな眼がいつのまにか形成され、俺のほうを睨み付けている。

 そう、顔は明らかに蛇のそれだ。


 鎌首をもたげ、俺を見下ろそうとする。

 体はムカデで頸から上は蛇……。

 なんとアンバランスな生き物だろうか。

 しかも体型は寸胴で芋虫みたいに見える。芋虫のようにでっぷりした体に何十本もの脚が生え、頸から上だけが蛇というのが正確な描写なのかな。

 どっちにしてもかなりグロテスクな生き物だ。

 鎌首をもたげたそれの喉元を見ると、そこには蛭町の顔が人形のように無表情な表情で張り付いていた。

 まるでお面、デスマスクのようだ。


 気持ち悪い……。だけどその程度の存在にしか思えない。

 顔は蛇で体はムカデ。

 確かに全長は3m近くまで伸びて無数の脚が伸びている。その形態は家の中でムカデを見つけた時とは比較にならないほどの驚きと嫌悪感を感じさせた。でもなんかムカデにしては寸胴すぎる。なんか脚の生えたナマコみたい。


 シャー!


 威嚇するような音を立てて、かつての蛭町、いまは蛇ムカデが俺を睨み付ける。二股に別れた舌がシュルシュルと伸び縮みする。

 喉元に張り付いた蛭町の眼がゆっくりと開かれる。

 

 そして、ニヤリと笑った。


 次の刹那、奴は飛んだ。

 蛇の口を思い切り開き、俺に噛みつこうとした。

 すんでのところで俺は左へと飛び退いてその攻撃をかわす。転がりながら直ぐに立ち上がり、奴を見据える。

 飛んではいなかった。ムカデの体はそのままで、頸から先が一気に伸びたんだ。長さにして2m超。


 シュルシュルと音をさせて蛇の頸が縮み、もとに戻る。

「奇妙な生き物だな。でもそんなんじゃ俺を捕まえることなんてできないぜ」

 挑発するような言葉を吐く。はたして人としての意識がまだ残っているか? 

 俺はゆっくりと移動していく。王女と漆多がいる出口のと反対側へ。そして眼をこらしながら奴を見たんだ。


 よく見える。ハッキリと見える。

 蛇ムカデの体に無数の死のラインが。破滅の瘤が。

 確実に殺れる。


 距離をとりながらタイミングを計る。

 現状ではまだ奴がどんな攻撃をするか予測できない。不用意な攻撃は危険な場合が多い。でも様子を見ながら闘っている余裕はない。

 漆多は怪我をしているようだし、ここは逃げ場が無い地下室。無為に戦いを長引かせれば彼らを危険にさらす可能性が高い。

 少々のリスクを冒しても一気にケリをつけるほうが無難だ。


 ねらいは奴の、かつての蛭町だった顔の上に見える瘤を潰すこと。……これで勝てる。


 そして動こう重心を前に移し始めたところに再び蛇が俺に向かって飛びかかってきた。今度はさらに早い。

 牙の先端から透明の液体を垂らしながら飛びかかってくる。

 先ほどと同じように左に回避し、立ち上がろうとしたところに再び大きく口を開いた蛇の頭が来ていた。

「な? 」

 俺は大きく後に飛び上がり連続でバク宙をして回避行動を取る。 

 床を擦るような音と何かが噛み合わさるような音を感じながらも必死で回避行動を取った。

 壁が近づいたところで俺はバク宙をやめ、目眩を感じながら立ち上がる。

 顔の直ぐ前に蛇の頭があった。

 何という速さだ。

 頸を伸ばすだけの攻撃はフェイクで、当たり前だけどあのムカデの体を動かして俺を追いながら攻撃してきてたんだ。しかもその移動速度は想像以上に速い。

 ……回避しようにも後は壁。

 蛇の目に感情が表れるかどうかなんてことは分からないけれど、確かにその時、奴の目は笑っていた。

 獲物を仕留めたという喜びに満ちているように見えた。


 でも俺の眼も笑っていた。

 この距離では俺も回避できないけれど、奴も回避できない。

 これを待っていたんだ。

 奴の喉元を狙うことはできないけれど、この位置なら奴の左頬を殺れる。

 頬に見える瘤めがけ俺は右腕を伸ばして突き入れる。



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