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 蛭町がとぼけたような顔でこちらを見る。

「きせいこん? なんだいそれ? よく分からないな。寄生とか何のことだ。俺にサナダムシでも入り込んだっていうのか。そりゃいいや。花粉症で困っていたところなんだな。これで免疫機構の暴走が無くなるよ」


「真性の馬鹿なのか、お前は」 

 相変わらず高飛車な口調で王女が言う。

「残念だけど、お前達が知っているような寄生虫ではないわ。とりつかれたが最後、もはやお前は【人】では無くなり、己が欲望のままに人を喰らい続けるだけの化け物になるのよ。化け物というくらいだから、外面もかつての【人】の姿を留めない醜悪なものになる。もっとも、その頃にはお前の意識というものも曖昧なものになっているでしょうから、外見の変化には拘泥しないんでしょうけどね。もう何のために生きているのかさえ分からなくなるでしょうから。……可哀想だけど自業自得よ。残念ながらお前に残された道はここで私たちに殺されるか、逆に私たちを殺して殺戮の限りを尽くしながら魂まで寄生根に食い尽くされるしかの二択しかないわ。…どちらの選択肢を選んだとしても、お前という存在は、この世から消えることになる」


「うお、そうなんだ。そりゃこまったな……って思うわけないだろ? 確かに俺はすばらしい力を手に入れた。この力は神様がくれたものに違いないんだよ。月人、お前は強い。助っ人に頼んだ連中があんなにボロボロだもんな。まあこれでこいつらにいらない金を払わなくてすんだんだけどな。……だが、お前など今の俺の敵じゃないぜ。へっへっへ。力の違いを見せつけてやるかんな。……わくわくするぜ」

 ぶるぶるっと体を震わせ、俺を睨んでくる。


「シュウ、さっさとやっちゃいなさい」

 と、王女。

 俺が身構えるより速く、蛭町の右手が動いた。

 直ぐ目の前に奴の手刀があった。

 シュッ。

 遅れて空気を切るような音。


 ぎりぎりまで引きつけて顔をわずかに逸らして手刀の突きをかわしつつ左足を前に踏み出す。

 蛭町が慌てて左手を繰り出すより速く、俺の拳が奴の顔面を捉えた。

 しかし、蛭町は拳が顔面に触れると同時に後ろに飛び退き、衝撃を最大限に殺す。

 再び反撃を繰りだそうとする奴の前に既に俺が立っていた。これは驚いたようで、一瞬フリーズした。すかさず右膝で蹴りこむ。

 背後には壁があり、奴は飛び退くことができない。

「ぐへん! 」

 妙な呻きを上げ、蛭町は壁に激突し、その勢いで跳ね返ってくる。左手で肩を掴むと、連続しての蹴りとパンチを打ち込む。攻撃しながら壁まで追い込み、さらに連続攻撃。

 蛭町は地面に倒れ込むこともできず、壁に貼り付け。


 確かな手応え。

 一撃一撃全てに殺意を込めていた。

 普通の人間なら、間違いなく5回は死んでいるところだ。……人間ならだけど。


「ククク、酷いな、……マジで殺す気だったんだな、お前」

 俺は危険を感じ、とっさに蛭町から飛び退いた。

 蛭町は体を左右に揺すり、めり込んだ壁から脱出した。首は変な角度に曲がり、両腕も関節じゃない場所で折れ曲がり、白いものが突きだしている。

「容赦ねえやつだな」

 そう言いながら腕を交互に引っ張ってはみ出した骨を格納する。ぶしゅぶしゅと音を立てながら割けた皮膚が治癒していく。

 腕が治ったと判断すると、今度は両手で頭を掴むと、折れ曲がった反対方向へとねじ曲げた。

「痛って」

 軽く呻くとゴキリと妙な音がした。

「ふう……。なんとか直ったようだ」

 そしてニヤリと嗤った。


「くそ、ホントに化け物だな……」

 俺はある意味あきれていた。

 余裕を見せてはみたけど、俺は本気で攻撃をかけた。実際に殺すつもりで殴ったんだ。確かにダメージを与えたようだけど、ものの数秒で復活、しかも完全復活した。……ありえない回復力だ。前回戦った如月の時と比べると、遙かにその回復力が高まっている。普通の打撃系の攻撃では奴の回復力を超えてダメージを与えることは無理みたいだ。


 仕方がない。

 俺は眼に力を込める……。左眼が熱くなっていくのが感じ取れる。

 左眼の視野が碧い光を帯びてくる。ひんやりとした風が頭の中に入ってくる感覚。脳内が一気にクールダウンされ、焦りが次第に消えていく。そして、目の前の世界にひび割れのような黒い黒いラインが這い回り出す。ラインを大小様々の瘤のようなモノが、あるものはゆっくりと、あるものは高速でそのライン上を行ったり来たりしている異様な世界が展開され始める。

 目眩と落下する浮遊感を感じる……。


 そう。

 今見えるものは【死】。

 動いているものも【死】。

 脆い脆い生物の、いや万物の死を暗示するもの。

 それは人には見えない。

 もちろん触れることなど絶対にできない。

 それどころか、視ることも、存在すら知ることのできないもの。


 【死】【死】【死】【死】【死】【死】【死】【死】【死】


 それを視ることができる。……否、それどころか触れることができる。

 そしてそれはあまりに脆いもの。少しでも乱暴に扱えばあっという間に、粉々に砕け散るんだ。


 粉々にね。何もかも。

 

 俺は死を操ることができる。死=万物の終焉。

 

 蛭町の体にもいくつものラインが這い回るように絡みついている。そしてその線の上をいくつもの奇怪な瘤がゆっくりと回遊するかのように漂っている。


 勝てる……。

 いかなる快復力をもってしても、その根源が絶たれてしまえば、復活はできないんだから。


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