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 やはり、その日も寄生根を発見することはできなかった。


 昨日の衝撃は未だにクラスの生徒達に影を落としてはいたが、生徒達の間では事件性は低いらしいとの噂になっているらしい。たまたま運が悪かった二人が火災に巻き込まれて死亡したということで落ち着きそうだった。

 ニュースも昨日火災について報道したものの、それは単なる火災によって生徒が死亡したと伝えたのみで、続報は一切なかった。

 学校と警察の情報操作がうまくいっているってことなんだろうか。

 警察が学校に残っているのは火災原因がはっきりしないということで念のために調べているらしい。


 警察や先生に見つからないように気をつけて校内を捜索することは思った以上に辛い作業だった。そしてそれはすべて徒労に終わったことから、心底ぐったりとしてアパートに帰りつく。

 王女には今日も成果が無かったことを伝えると、想定通りとでもいうように頷くだけだった。


 時間だけが無為に流れていく気がした。でも何もないということは犠牲者は出ていないと言うことだから、それはそれで喜ばしいと言うことでもあるんだけど、何か落ち着かないいいようのない焦りが日々募っていく感じだった。

 何か終わりへのカウントダウンがすでに始まっている、そんなとてつもなく厭な感覚があったんだ。


 さすがにコンビニ弁当ばかり食わすわけにもいかないから、王女を連れて外食に行くことにしたんだ。……といってもファミレスに連れて行っただけなんだけどね。

 王女の好みがよく分からないし、ファミレスでメニューを見て決めてもらった方がいいかなって思ったんだ。ずっと部屋の中に閉じこもりっきりだから、少しは気分転換にもなるかとも思ったんだ。

 実際、久しぶりのお外なので、王女はいつもより少し、はしゃいでいた気がする。

 ファミレスに入ると彼女はワイワイはしゃぎながらメニューを選び出した。

「何を頼んでも良いのか? お前、お金はあるのか? ドリンクバーって何だ? シュウは何を頼むの。何が人気なんだ」

「うん、好きな物を選んで良いよ。お金だって姫が頼む分なら全然大丈夫だから気にしなくていいよ。好きなだけ頼んで。それとドリンクバーはあそこのものが飲み放題だ。ここの一番人気はハンバーグだよ」

 矢継ぎ早な質問に答える。

 メニューを見ながらあれやこれやと話しかけてくる王女はとても楽しそうだ。それを見て俺も思わず微笑んでしまう。

 ひとときの安らぎなんだろうか、これは。


 結局、食べられない数の物を頼み、残した分は俺に押しつけて満足げにダージリンティーを飲む王女を俺は恨めしげに見つめている。

「残したらもったいないから、全部食べるのよ」と残すことは許されなかった。頼んだのは王女なのに。

 完食はしたものの、お腹が破裂しそうなくらいぱんぱんにさせられてしまった。

「うー気持ち悪い……」

 会計をしながらも腹が痛かった。

「さあ、帰ろうか」


「ちょっとコンビニってところにも寄りたいんだけど……、あ、あそこだわ」

 と王女は言うとさっさと歩き出す。


「ちょ、ちょっと待って……」

 お腹を押さえ、猫背気味に彼女の後を追う。

 

 唐突に携帯が鳴り出した。

 ポケットから取り出しディスプレイを見る。

【漆多伊吹】

 俺は一瞬固まってしまった。

 どうして漆多から電話がかかってくるんだ?

 すこし前ならごく当たり前のことが、今は凄く違和感を感じるし、電話に出るのが鬱陶しい、面倒くさく感じる。

 ……いや本当は怖いんだ。

「もしもし」

 指が震える。声が震えるのが自分でも分かった。

 何をそんなに緊張しているんだ。


 少し離れて歩いていた王女が俺の異変に気付いたのか、慌てて戻ってきた。

「どうかしたのか、シュウ」

 俺は彼女に静かにするように目で合図をした。彼女も俺の意図に気付いたのか、頷く。


「つきひと……、俺だよ。聞こえるか」

 漆多の声だった。疲れ切った声だった。


「ああ、聞こえるよ。どうしたんだ」

 何故今電話してきたのか、その意図が分からず、俺は探るような口調で話す。


「すまない……。ちょっとお前に話したいことがあるんだ。……今から逢えるかな」


「……電話じゃダメなのか? 」


「ああ、直接逢って話したい……、いや聞きたい事があるんだ。いいかな? 」


「今からなのか……」

 と俺。


「……今からじゃダメか? 」

 と返してくる漆多。

 俺はとっさに断る理由が見つからない。


「それは、日向の事か」

 俺はおそるおそる問う。


「……そうだ」

 一呼吸置いて、漆多がはっきりと答えた。

「寧々のことでお前に聞きたいことがあるんだ」

 ついにこのときが来てしまったのか。ずっとずっと避けてきた事。それがついに来てしまった。それでも俺は来るべきものがついに来たということである意味ほっとしていた。


「分かった。じゃあ今から会おう。どこに行けばいい? 」

 俺の問いかけに漆多はある場所を告げ、唐突に切られた。


 それは、俺がこの【通称】学園都市に来てから一度も行ったことの無い場所だった。


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