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 自分の部屋に帰り着いた時には7時を回ったところだった。

 余計な事に巻き込まれてずいぶんと遅くなってしまった。

 途中の弁当屋で二人分の弁当と豚汁を買っていた。王女が暖かい物を食いたいだろうと思ったんだ。

 ここの弁当屋は普通のチェーン店なんだけど、調理するおばちゃんの腕がいいんで、うまいって評判なんだ。店には普段以上に行列ができていたけど、また待つのも楽しみ。


 本当は外に連れて行ってあげるのが一番なんだけど、人の多いところに彼女を連れて行くのは危険な気がしたし、なにより彼女は肉体的にも精神的にも、相当疲れているように見えたから、まだ休ませてあげることが必要だって思っていたんだ。もう少し元気になったらとっておきの飯屋に連れて行ってあげようとは思っているんだけどね。

 ……もちろん行ける店は予算との相談も必要だけど。


 先ほどまで俺の意識の上に上がってきていた邪悪な何かはどこかに消え去っていた。


 ドアノブに手をかけて開けようとするより早く扉が開いた。

 そして、そこには王女が両腕を組んで立っていた。

「遅い! 今まで何をチンタラやっていたの!! 私はこの世界に来てまだ日が浅いのよ。何をするにもやり方がわからないっていうのに目が覚めたらお前はもういないし、外には出られないし。むさ苦しいお前の部屋で一日過ごさなくちゃいけなかったのよ! おかげで気が狂いそうになるくらいテレビを見せて貰ったわ。お前には本気で感謝してるわ」

 いきなりの剣幕に俺はただ嵐が通り過ぎるのを待つしかできなかった。確かに俺が悪いもんな。朝起きたときには寝ていたし、それに夜中に彼女が恐慌状態に陥った時、仕方なかったとはいえ彼女にキスをしちゃったせいもあってなんだか顔を会わせづらかったんだ。だから反論なんてしなかった。ただただ頭を下げてただけ。


「……もういいわ。これ以上お前を責めたところで何も変わらないし」

 王女はいろいろとまくし立てていたが、唐突に説教をやめた。彼女のお腹が可愛い音を立てたのだ。


「それよりお腹がすいた……」

 顔を赤らめながらつぶやいた。


「ちょうど良かったよ。弁当食べるか? 暖かい豚汁もあるよ」

 俺はにっこりと微笑み、包みを彼女に見せた。

 

 部屋に入ると早速弁当を広げての食事となった。

 一日中部屋でゴロゴロしてたわりには部屋は片づいている。ゴミもほったらかしになっていないや。ベッドそばのテーブルに飲みかけのペットボトルが一本おいてあるだけだ。

 何気なく冷蔵庫を覗いてみると、朝入れてあったコンビニ弁当やヨーグルトはそのままになっていた。

 もしかするとずっと寝ていたのかも知れない。……それほど疲れていたんだろうか?

 王女を見ると弁当の中身についていろいろ文句を言いながらも食べている。とりあえず元気にはなったんだろうと思うことにした。

 俺的には牛焼き肉弁当は、とっても美味かったんだけど。


「それで結局、寄生根は見つかったの? 」

 唐突に問われ、俺は言葉に詰まる。

「……そう。やっぱり見つからなかったのね」

 何も言わなくても態度でバレバレなんだろう。さも当然の事のように言われてしまった。


「でも、誰も寄生されたようじゃなかったよ」

 と、弁解めいた口調。


「今日は、というだけの話よ、それは。寄生根は新たな宿主が見つからなくたってすぐには死なない。明日になればどうなるか、それは誰にもわからないのよ」


 そう言われ、俺は落ち込むしかなかった。 


「まあ、……済んだことを責めても仕方ないわ。些末なことをとやかく言うよりは明日以降どうするかを考えることが最重要だから。反省は必要だけど、次にどうするかを決めなければただの馬鹿だから」

 俺の気配に気付いたのか、彼女は慰めるような口調になっている。「ところで、今日の学校はどうだったの? ちょっと詳しく教えてくれるかしら」


 朝から警察や消防の車が来ていた事。日向寧々と如月流星の全裸遺体が廃校舎の中と近くの庭で発見されたこと。そして俺の親友であり日向寧々の恋人だった漆多伊吹の事を話した。遺体が発見されたために、当然ながら事件のあった廃校舎への立入は禁止となり、警察消防おまけに教師がうろついて警備が厳重すぎて、ほとんど近づくことができなかったこと。そんなこともあって寄生根を探すという目的をほとんど達成できなかったことを続けて説明した。そして、追加説明ながら、親友の漆多が如月流星をいじめていた連中の次の標的になってしまったこと。それを知った俺はそいつら全員を半殺しにし、とてもスッキリしたことまで詳細に話した。


「ヤレヤレね。お前、普通の人間相手に能力を使ってしまったのか? そんなのただの弱い物いじめでしかないじゃない。……確かにお前がその生徒達を許せないと思ったのは当然だし、半殺しにしたことは仕方ないとは思うけど、それにしても後処理のことを考えずになんてことするの。そいつらが誰かに話したら騒動になるわよ。目立つ行動を取ったら状況から考えてもあまり利口だとは思えないわよ」

 呆れたような口調で言われる。


「ごめん。そうは思ったんだけど……何かあいつらのやり方がどうにも我慢ならなかったんだ」


「……まあ、仕方ないわね。私だったら、お前のような手加減なんかせずにもっとそいつらをぶちのめしたとは思うわ。再起不能になるくらい、人格まで徹底的に破壊してやったはずだわ。肉体を壊すだけじゃなく精神的にも再起不能になるくらいにね。うーん、それでも甘すぎるわね。やっぱり、潰して埋めて証拠を隠滅したかもしれないわね」


 そういって笑顔を見せてくれたので、俺は少し安心した。

「明日以降どうするかが課題になるわけなんだよね。明日はきっと見つけられるようにがんばるよ。……ところで寄生根の事だけどもっとわかるように教えてくれないか? 何か手がかりがないと探すにも探せないんだ」


 その問いに少し考えるようなそぶりをした後、「私も良くは知っているわけでは無いんだけど」と前置きした上で説明を始めた。



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