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「そうね。もちろんベストは誰かに寄生する前に叩くことなんだけど、それはほぼ不可能だとわたしも思っている」


「まさか……」

 俺の脳裏にある考えが浮かんだ。

 それは、おそらく効果的ではあるんだけど、吐き気を伴う案だった。


「そう。そのまさかよ」

 王女はあっさりと俺の心を読み取り、答えた。

「お前が考えているとおり、如月流星がそのままであればそれを倒すだけ。もしそうじゃなくても、ヤツが寄生するのはこの学校の生徒および教員に限定されてしまっている。わたしは、その状況を最大限生かそうと思っているわ。

 寄生根が寄生すればその人間の欲望のままに校内で行動を開始するだろうし、行動を結界により隠そうとしてもわたしを誤魔化すことなどできない。

 そこでわたしたちはヤツを特定できるわ。あとは、わたしとお前の力で抹殺するだけ」


「それは誰かを、つまりは、うちの生徒か先生の誰かを犠牲にするってことなんだよな」

 言いながら気分が悪くなるのは仕方がない、な。

 

「当然でしょう。寄生根と戦ったのが不特定多数の人間がいるような町中で無かったことは幸運だった。ヤツが人混みのなかに紛れこんで逃げることができないから。

 わたしたちはこの学校の関係者をマークし、その中でおかしな行動をするヤツを探し出せばいいだけだから簡単よ」


「でも、でも何の関係もない人を犠牲にしなけりゃなんないのか? 」

 如月を斃すのはやむを得ないと思う。でも次に誰かが犠牲になるかもしれないのに、それをわざと放置し、誰かに寄生させ、見殺しにするという話に、俺は何とも言えない違和感を感じるんだ。

 ……違和感は適切じゃないな。感じているのは嫌悪感だよ。

 俺たちは敵の存在を知っているし、それを斃す能力も持っているんだ。それなのに何もせずに、あえて誰かを犠牲にしようとしているんだ。……より確実な勝利のために。

 もちろん頭の中では王女の言うことがより確実だし、正しいとは解っているよ。……理解はできるが納得はできないんだ。


 王女は呆れたような顔をして俺を見つめる。

「他に方法があるなら言ってみるがいい。それができないなら余計な事は考えない方がいいわよ。 

 寄生根そのものを見つけ出すなんて不可能に近いのは、お前でもわかるだろう? 誰かに取り憑けばその人間はそれまでとは異なる明らかにおかしな行動を取るようになる。そうなればわたしたちにも発見することが可能になるのよ。それしかヤツを見つける方法は今のところ無いし、それが被害を最小限に抑える最良の方法だって事はわかりきってるじゃない」


 それは事実。でも納得ができない。……それを覆す解決策は思いつかない。

「しかし……」

 俺は、俺はそれでいいのか? 本当にいいのか?


「お前、……何様のつもりなの? 確かに、お前は強くなったかもしれない。その力で寄生根を斃すことはできるかもしれない。でも、人に寄生する前のサイクラーノシュの寄生根を見つけることができるというの? いいえ、それは出来ない。……それは理解できるわね? 」


「ああ。それはわかってるよ。……でも」

 自分の無力さが何とも言えなかった。

 日向寧々を護れなかった後悔が再び沸き出して来るんだ。

 どうしようもない無力感。


 王女は俺に近づくと背中を優しく撫でる。

「お前の言いたいことはわかる。……でも、認めなさい。全ての人間を救えるほどお前の両手は大きくないということを」


 彼女を見つめ俺は頷くしかなかった。


「ここでヤツを逃がしてしまえば、次はどこへ行くかわからない。わたしたちが見つけられる場所にいないと何の手も打てなくなる。そうなるとあいつは宿主を次々と乗り換え、どんどん強くなる。当然、犠牲者も増え続けることになるわ。

 ……もっと問題なのは、最初の戦いでヤツは気付いてしまったということよ」


「え、それは……」


「ヤツの力では、わたしを捕らえる事ができない可能性が高いということを、よ。

 お前の力を見てしまったヤツにとって、お前を斃さなければわたしを捕らえることはできないことを理解した。そして、それを行うには相当な労力と犠牲、時間が必要だと認識させられたはず。……つまり当初の目的を達成するのは困難だと判断しているんだと思うわ。

 ならば、目的の達成をなすためにはどうすればいい? と考えるわよね。つまり、より確実な手段をとるはずよ。それは、向こうの世界のサイクラーノシュ本体をこちらの世界へと導くために【第二の目的】達成の方へシフトする可能性が高まったということ」


「つまりはこちらとあちらの世界の結界を解くいうのか? でもそれってどうやるんだ? 」

 なんかSF? ファンタジー? じみた話が展開されているため理解力がついていかない。俺の知っている世界がどんどんおかしくなっていく。

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