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「きゃぁ~、これとか絶対、神村くんに似合うでしょ!」
「確かに確かに、でもさ、でもさ、こっちのパーカーもいけてない? 神村くんのちょっとした色気が倍増されそうっ!」
「あり寄りのありっ!」
午前八時を過ぎ、教室にぞくぞくと集まってきた女子たちはやはり、着せ替え人形で遊んでいるように見えた。
途中から、男子の意見も混じり始める。女子だけの意見だけではなく、男子の評価もあった方がいいとかなんとか……。もう、僕には収集が着けられない。
「なんか、神村くんのファッション談義で教室の中が盛り上がっているんだけど?」
登校してきた香奈さんが椅子に座り、僕に事の経緯を聞いてくる。嘘偽りなく話すと、彼女は「ふーん」と何を考えているのかわからない表情で呟いた。
「私は神村くんが着たいと思う服を着ればいいと思うけどなー。相手のファッションを見て幻滅するのは、外面しか気にしていないやつだけだから」
「そ、そうは言っても、男子も好きな人にはカッコいいって思われたい生き物なんだよ……」
「……べつに、そのままでもカッコいいのに」
香奈さんは何かぼそぼそとあさっての方向を向きながら呟いた。上手く聞き取れなかった。
「なんて言ったの?」
「何でもないよー」
出来上がった案が生成AIによってイラスト化され僕の携帯電話に送られてくる。もう、それぞれの趣味思考が混ざり合い、独特の個性がにじみ出ていた。
嵐山さんの案がザ王子様系ファッション、白が基調の服装で彼女の好みがすぐにわかる。生成AIで作られた顔はアイドル・手越祐也似のイケメンだった。
楽間さんの案は黒が基調で、ロングコートを纏ったスタイリッシュないで立ちだった。おそらく、大人の男性が好みなのだろう。闇が深そうな渋い男性の顔で、色気がすごい。ブラックジャックに出てくる間黒男に似ている。
――なんか、面白いな。皆、僕に着せる服じゃなくて、好みの服を選んじゃっているよ。
数十枚送られてきた中で、しっくりくるファッションは一つもなかった。
最後、一枚だけ送られてきて確認すると、やっとしっくりくるファッションだった。誰が送ってくれたのか確認すると、香奈さんだった。
皆が好みを送ってくる中、彼女だけは僕のことを考えて選んでくれたのだとわかる。やはり、凄く優しい人だ。
僕は案を考えてくれた人皆に、感謝して回る。携帯電話でいちいち送るのも面倒臭いので、教室にいるし面と向かってありがとうと言っていく。
「嵐山さん、ありがとう。えっと、手越のファンだったりするの?」
「な、なんで、私が大ファンだってわかったの……」
両頬を赤く染め、口角が上がるのを両手で押さえている姿が何とも愛くるしい。別にファンということを隠す必要はないと思うけれど。
「別に恥ずかしがる必要ないでしょ」
「て、てごにゃんが好きって言ったら、私、チャラい女みたいじゃん!」
――そうなのかなぁ? ギャップがあっていいと思うけど。
まあ、嵐山さんが王子様系アイドルが大好きだということはよくわかった。だから、何だって話だけれど……。
「楽間さんもありがとう。なんか、写真から大塚明夫ボイスが聞こえてきそうだったよ」
「な、なぜ、うちが想像した声優を言い当てるんだよ……」
「いや、写真がカッコいい闇医者みたいだったから。中学の図書室に、ブラックジャックが置かれていて読んだことがあってさ。楽間さんは大人の渋い男が好みなんだね」
「は、はぁあっ! ち、ちげーよっ! うちは大塚明夫が好きなんだよっ!」
――ものすごい渋い男性声優だった気がするんだけど。それで、隠せていると思っているのもどこかいじらしい。
女子たちは自分の推しを僕に重ねていた。でも、香奈さんだけは、僕をちゃんと見てくれていた。そんなことに気づいてしまった朝だった。
皆に感謝して回った後、僕は自分の席に戻り、隣の席に座る女子を見る。
「香奈さんが作ってくれたファッション、凄く良いと思った。あれを参考にしてみるよ」
「べつにただの参考だし、気にしすぎる必要もないと思うけどね」
彼女は携帯電話をスカートのポケットに突っ込み、椅子の背もたれにだらりと腰かけている。彼女にとって僕の服装などどうでもいいようだった。それでも、参考案を出してくれるだけ律儀。
ゴールデンウィークまで時間もない。今日にでも服を買ってきた方がいいかな。ちょっと焦り過ぎか……。でも、星野さんが合ってくれるって言っているらしいし。
僕は星野さん関連でずっと頭の中が一杯になっていた。授業中もノートの端に彼女と会った時、どうやって謝るかとか、その後どうすればいいのかとか、考えてしまって授業内容が頭に全く入ってこない。
中学の時も星野さんについて授業中に考えていたけれど、その時以上に感情が高ぶってしまっている。
「好きな人に会えるって、そんなにうれしいことなの?」
「え、顔に出てた……?」
頬を摘まみ、引っ張ったりして表情を柔らかくする。
「告白した相手がもう一度会ってくれるってことはさ、相手も多少は神村くんに興味があるってことじゃん」
「そ、そうなのかな?」
「興味がなかったら会ってくれないよ。繕った姿を見せても意味がない。自然体の神村くんを見せればいいと思うよ」
「自然体の僕……」
自然体と言われてもしっくりこなかった。今、何か繕っているわけでもなければ、自然体かどうかもわからない。そもそも、好きな女の子の前に立ったら自然体でいられる訳がなかった。
体が固まって、声が上ずって、呂律が回りにくくなってしまうのが普通だろう。会話に慣れている人なら、自然体でいられるだろうか。いや、無理だ。好きな相手というのは爆弾やパンドラの箱と同じで、目の前に現れただけでどうやって対処するか迫られる。逃げる、無視する、様子をうかがう、などなど。
人間にとって好きな相手以上に興味をそそられる存在もない。まあ、あるとしても殺人鬼とか、クマとか、脅威になる相手くらいだろう。




