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中学の卒業式に告白した人が高校で隣の席だったらイチャイチャできるのか  作者: コヨコヨ


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「いやぁ、嵐山さんが練習中だったから、なんか入りづらくて」


 僕は立ち上がり、バレてしまったなら仕方がなく教室に入った。

 時刻は午前七時三〇分。生徒たちはまだほとんどいない。八時過ぎから通学ラッシュが始まるから、まだ練習しようと思えば出来るはずだった。

 でも、嵐山さんは僕に気を使い、音を鳴らさず肺活量を鍛える呼吸法や、楽譜を読み込んでいた。一年生に加え、まだ部活が始まってから一ヶ月も経っていない。

 おそらく、彼女は経験者だ。中学も吹奏楽部で高校でも吹奏楽部に入った口だろう。初心者にしては手慣れ過ぎている。


「別に、音を出して練習してもいいよ」

「ううん、いいのいいの。ちょっとやったくらいじゃ、下手っぴなのは変わらないから」


 いつもながら愛想のいい笑顔。男子や女子から皆に好かれており、彼女がいるところはいつも花が咲いているようだった。でも、周りに誰もない時の彼女は今にも枯れそうなほど弱々しい。


「僕、楽器についてはよくわからないけど、話くらいなら聞くよ」


 目を丸くした嵐山さんは手に持っていたトランペットを下げる。すると、傷口から膿を出すように喋り出す。


「あ、あはは……、いやぁー、部活の先輩にボロッカスに言われちゃって。皆に合わせろとか、下手くそだとか、主張が激しいとか、ヘラヘラすんなとか……、ほんと色々」


 いつも可愛げのある声で喋っているが、先輩を思い出しているのか声色が低くなっていく。

 持っているトランペットを握力だけで握り潰してしまいそうなくらい力が入っていた。

 吹奏楽部はブラックだが、それでも人数が多い。仲間との連係プレーだから、調律を測らないといけない。

 個人競技の柔道部だった僕からしたら、沢山の仲間と一致団結出来て楽しそうだなと思っていたけれど、吹奏楽部には吹奏楽部なりの辛さがあるようだ。

 こうしたらいいんじゃないとか、相手を全否定するとか、嵐山さんを全肯定したりしない。

 どう向き合ってあげるのが正解なのだろうか。女心は分かりっこない。僕に出来ることはたかが知れている。


「……もう、辞めちゃおうかな。私一人いなくても、何も変わらないし……」


 嵐山さんは今まで見たこともないくらい暗い顔になった。

 辞めない方がいいというのは簡単だけれど、僕は彼女の気持ちを一〇〇パーセント理解できていないんだからお節介だよな。「頑張れるだけ頑張ろう」とか、「今は休んでもいいんじゃない」とか、ありきたりな言葉ばかりが浮かぶ。


「吹奏楽部も大変なんだね」

「ほんとだよ……。運動が苦手だから楽器を始めたのに、蓋を開けてみれば腹筋やらランニングやら、どこぞの体育会系より運動している気がするもん。まあ、そのおかげでちょっとは運動ができるようになったけどさ」

「今の話を聞いて、僕は嵐山さんが凄いと思った。なにくそって食い付こうとしているのが男らしい」

「もうっ、私は女の子だよー」


 両手を握りしめて空手のように正拳突きを繰り返す。でも、腰の入っていないへなちゃこパンチ。仕草一つ一つが愛くるしさ全開だ。ハムスターがひまわりの種を食べているくらいの感覚。敵意を一切感じなかった。


「嵐山さんがどんな選択をとってもそれは嵐山さんにとっての最善だと思う。思い切ってやってみたら失敗してしまう時だってあるけど、失敗を恐れていたら前に進めない……」


 僕は星野さんに告白して失敗した。でも、それは仕方がないことだ。あの時、告白していなかったら今も、彼女に告白しておけばよかったと思っていただろう。なら、失敗したという結果が伴っているだけ儲けものだ。何もせずに考え込んでいるよりずっといい。


 僕たちは失敗しようが成功しようが、前に進むしかない。苦しいだろうし、辛いこともある。楽しいことも嬉しいこともあるけど、たぶん負の記憶の方が強く残ってしまう。それでも、前に進むしかない。前にしか道はないのだ。

 立ち止まることはできるけど、引き返すことはできない。そんなのわかっているけれど、今の僕たちからしたら前に進むのも立ち止まるのも難しい。それが高校生という生き物なんだ。

 過去も未来も見通せる年齢、小学生のようにがむしゃらに走れない。余裕のなかった中学生と違い、社会の集団に慣れて来た高校生は皆、余裕ができたからこそ一人一人別々の悩みを抱え、生きている。


「嵐山さん、話してくれてありがとう」

「なんで、神村くんが感謝するの。普通、私でしょ」

「まあ、一つの礼儀かな。自分のことを話すって意外に勇気がいるからさ」

「……私の愚痴を聞いてくれて、ありがとうね」


 嵐山さんはポニーテールの結び目を撫でるように後頭部を摩り、ペコペコと頭を上下に動かした。さっきよりも表情が明るくなり、いつもの笑顔が戻ってきている。


「神村くんも何か悩んでいるなら、私、話を聞くよ!」

「……じゃ、じゃあ、教えてほしいんだけど、僕に似合う服って何かあるかな?」

「えぇ~、なになにー、もしかして、神村くん、女の子とおデート?」


 さっきまでの表情が一変し、目をキラキラと輝かせた顔になる。すぐにデートに結び付けたがるのは女子の習性か何かだろうか。

 デートと言えるのか、わからないけれど星野さんに会うのだから、見た目はよくしておきたい。ダサい服で行くのは相手に品性を疑われてしまうだろう。


「んー、んー、そうだなー、神村くんは細マッチョだから、男らしい系で攻めるか……。いや、でも甘い顔を生かして王子様系で行くか。迷うところだね。髪型は短髪でいいし、キャップを付けるか、伊達眼鏡をかけるか、色っぽいイヤリングを付けるのもありかも~っ!」


 まるで、着せ替え人形を手渡された女の子のような盛り上がりよう。僕の周りを行ったり来たりしながら考え込んでくれた。さっきまでの部活に対する感情より、僕をどうやって着飾るかの方に意識が移ったらしい。


 母親の買ってくるおふざけとしか思えないような服しか持っていない僕が女の子受けするファッションができると思えないので、ファッションに敏感な女子に聞いてみたけれど、思っていた以上に嵐山さんが本気になってくれた。


「ああっ、一人じゃ考えが纏まらない。よし、グループラインでアイディアを募ろう!」

「ちょ、ちょちょっ、そんな、大ごとにしなくても」

「いやいや、せっかくなら沢山の女子からアイディアを募った方がいいファッションが出来上がるでしょ。皆、神村くんのためなら、一肌脱いでくれるよ」


 香奈さんとはまた別のコミュ力お化けである嵐山さんの力により、女子の力を結集して僕のファッション案が十通り以上生み出された。服のコーデは無限大だな。

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