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中学の卒業式に告白した人が高校で隣の席だったらイチャイチャできるのか  作者: コヨコヨ


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「なにを買いに来たの?」

「なにって、ハーゲンダッツだよ。昨日の勝負は引き分けだったから痛み分けってことで、神村くんはガリガリ君を買って」

「痛み分けって……、引き分けなら罰もなしにすればいいんじゃない」

「それじゃあ、頑張った意味がないでしょ。何もなかったらあの時間に何の意味があったって言うの。ただ、山を登って降りただけになっちゃうじゃん」

「それじゃ、駄目なの? 僕にとっては良い思い出になったよ」

「確かに、思い出に残るかもね。でもさ、五年十年、二十年後も思い出せるかって言われたら?」

「思い出せるよ。香奈さんを背負って下山した経験を忘れるわけないでしょ」

「……んぅ、そういうこと言うの反則だよ。調子狂うなぁー」


 そう言いながらも、彼女の顔ははにかんでおり、スキップしそうな軽い足取りに見える。


「確かに、私も忘れないと思うけど、ただ登って降りただけじゃ普通なら忘れちゃう。でも勝負して、罰を受けたって経験は簡単に忘れられなくなるでしょ」

「つまり、香奈さんは思い出をより強固にしたいってこと?」


 話を聞いていた香奈さんは視線を背ける。


「ただ忘れられない思い出を作りたかっただけじゃないんだよ」

「じゃあ、なにがしたかったの?」

「んー、それはねえ……。内緒っ」


 いたずらっ子のような清々しい笑顔。入店音と共に自動ドアが開かれると、ひんやりと涼しい空調の風が漂い、彼女の短い短髪が揺れる。


「ちょ、もったいぶらずに、教えてよ」


 僕はガリガリ君ソーダ味を手に取り、香奈さんは通常サイズのハーゲンダッツチョコアンドクリームを掴む。

 値段は三から四倍違う。学生のお供はやはりガリガリ君だろう。中学の頃、部活帰りにつまみ食いしていたのを思い出す。けっこう買っていたけれど、当たりが出た覚えはない。本当に入っているのだろうか……。


 レジで会計してもらった後、学校に戻るか、この場で食べるか迷っていると、香奈さんが口を開く。


「いい天気だし、海に行こうよ」

「歩いて行ったらアイスが溶けちゃいそうだけど……」

「じゃあ、神村くんが私を背負って走って」


 そういうや否や彼女は僕の背中に飛び乗ってくる。スカートの中が見えるとか考えないのだろうか。いや、ちゃんと体操服の半ズボンを履いているため、見えないのか。

 山の中ではなく、緊張感がないからか背中に押し当てられている柔らかい物体の存在が昨日以上に主張してきた。こんなに軽いのに、この圧迫感、どれだけプロポーションがいいんだろう。

 水着を着たら凄い映えるんだろうなぁと、思ってしまう。


 中学の部活を思い出しながら、僕は彼女を背負い、何千本も植えられた松の中を走る。アスファルトで舗装されているため、走りやすい。


 空も見えにくいくなりそうなほど松が密集した松原を抜けると、逆に日の光を遮るものがなくなった松原海岸が広がった。

 今の時期は海水浴が禁止されているため、人だかりはまばらだ。一キロメートル以上続く海岸沿いを一望できるベンチに腰掛ける。


「あぁ~、らくちんだった」

「はぁ、はぁ、はぁ……、香奈さん、一日で体重が増えたんじゃない、凄く重く……」

「え? なんか言った?」


 笑顔のはずなのに、物凄く威圧感を放たれている気がする。これ以上言ったら、手持ちの木製スプーンで眼玉をくりぬくぞと言わんばかり。

 僕はさび付いた機械のように首をぎぎぎっと鳴らしそうなほどぎこちなく回し、波打っている海の方に視線を向ける。


「な、何でもないよ……」

「そうだよねー。ささ、そんなこと言ってないで、早くアイスを食べよう。溶けちゃうよ」


 香奈さんは僕が買ったガリガリ君を手に取り、僕は彼女からハーゲンダッツを受け取る。紙カップが少しの力で潰れそうなくらいアイスが溶けている。丁度食べごろで、彼女をここまで背負いながら運んだかいがあったと思えるほど美味しい。

 隣からしゃりしゃりと氷菓子を喰らっている音が聞こえる。足をぶらぶらと揺らし、落ちつきはない。でも、この一瞬を誰よりも楽しんでいるように見えた。


「あっ……」

「ん、どうかしたの?」

「当たった!」


 香奈さんは目を輝かせ、木の棒を掲げる。ガリガリ君を半分以上食べ進めた頃、木製の板に文字が書かれているのを見つけたらしい。その表情は、宝くじに当選したのかと思うほど輝いていた。


「ほら見て、アタリだって!」

「おぉ、本当に当たりってあるんだ……」


 ガリガリ君は重力によって下の方から解け始める。そのため、彼女は早食いのように勢いよく冷たいアイスを口に入れていく。


「いたたた……頭キーンってしたぁ〜!」


 眉間をぎゅっとつまみながら、それでも口元はにやけたまま。ガリガリ君の当たりでこんなに嬉しそうな人、初めて見たかもしれない。

 そんな彼女を隣で見ていたら、なんだか僕も少しだけ、心が温かくなった。


「初めて当たった。本当に当たるんだねー、これ」


 当たり棒を手に、香奈さんが子どものようにはしゃぐ。思わず僕も笑った。


「そりゃあ、当たりが入っていなかったら詐欺だからね」


 ちょっとうらやましいなと思いながらも、ガリガリ君二本分よりも高いアイスを食べている手前、文句は言えない。正直、他のバニラアイスと何が違うのかさっぱり。きっと、香奈さんとならどんなアイスを食べても美味しく感じられると思う。


「ねぇ、当たり棒ってさ、残しておく人とすぐ使っちゃう人いるよね。神村くんはどっち?」

「僕は使っちゃうかな。だって、結局はただの木の棒だし」

「でも、そのただの棒を見るたびに、神村くんと一緒にアイス食べた日を思い出せるかもしれないじゃん」

「アイスを食べただけで、そんなに印象に残るかな?」

「状況によるでしょ。友達とか、家族とか、日常みたいな雰囲気だったらきっと大した思い出にならないと思う。でも、特別な人が相手だったら、思い出になるんじゃないかな」


 ――香奈さんにとって僕は特別な人に入るのかな。何年経っても、この瞬間を忘れないでいられるんだろうか。


 ハーゲンダッツの甘さ、潮風のにおい、砂浜の白さ、海の広大さ、彼女の笑顔……。全部忘れたくない。


「ねえ、神村くんは好きな人っているの?」

「えっ。な、なんでいきなり……」


 心臓が一瞬で跳ね上がる。動揺しすぎてハーゲンダッツを落としそうになった。

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