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中学の卒業式に告白した人が高校で隣の席だったらイチャイチャできるのか  作者: コヨコヨ


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「べ、別に、気持ち悪くはない。むしろ、嬉しいと思う方が一般的だと思う。私としては他の女子にもそうやって言うんだろうなぁーと思うと、ムカついてる」

「で、出来る限り口を滑らせないよう努力するよ」


 香奈さんとの会話は気づけば三〇分ほど続いた。特に他愛のない話。でも、彼女の声を聴いていると落ち着けた。ベッドの上で通話状態が続き、聞きに徹する。

 そろそろ眠たくなって来たなと思ってきたころ、よく喋っていた彼女の声が止まり、すーすーと寝息が聞こた。どうやら、寝落ちしてしまったらしい。そりゃあ、今日は山登りして相当疲れているはずだ。


 僕は通話を切り「お休みなさい」とだけメッセージを送る。部屋の電気を消して目を瞑る。意識が溶けていき、いつの間にか眠った。


 次の日、教室に入ると多くの者が筋肉痛に苦しんでおり、戦争映画でよく見る野戦病院の中みたいなうめき声が響いた。


「うぅ、神村くん……、ヘルプ、ミーっ」


 香奈さんは他の女子よりずっと筋肉痛が酷いようで、全身の筋肉が悲鳴を上げているという。机の上にへたり込み、あだー、いだぁー、と声をあげる姿はまるで、大きな赤ちゃんだ。


「動けないから支えてほしい」とか、「抱っこ~」とか「おんぶ~」とか、甘えてくる。


 ――いや、ちょっと待って。冗談で言ってるのか本気なのか分からないテンションだな。


 日常生活に支障をきたすほどの筋肉痛とは、どれだけ運動していなかったんだろうか。でも、体力テストの後は大して筋肉痛になった素振りはなかった。


「香奈さん、本当に筋肉痛なの?」

「な、なに、神村くん、私を疑っているの。そもそも、そんな嘘をついて私にメリットがないでしょ」

「まあ、言われてみれば何のメリットもないね。でも、歩けないほどじゃないんでしょ」

「私は怪我人だよ。手を貸してもらって当たり前の人間。日本人は頼り慣れしていないから何でも抱え込んじゃうんだよ。なら、とことん人を頼って生きてもいいと思わない? 一人はみんなのために、みんなは一人のためにって良く言うでしょ」

「それはブラック企業がよく掲げている格言なのでは……」

「ツベコベ言わない。さあ、神村くん、私をトイレに連れて行きなさい!」

「……女子トイレに入るのはちょっと」

「そ、そうね。失言した」


 香奈さんは勢い任せに口に出したのか、顔を赤らめながら自爆した。その場で立ち上がり、左足首を庇うようにケンケンしながら教室を出ていく。


 ――めっちゃ元気じゃん。


 こうやって香奈さんのペースに巻き込まれるのも、これが初めてじゃない。女子は息をするように嘘をつくって誰かが言ってたけど、香奈さんの嘘はなぜか、イライラしない。むしろ、ちょっと可愛いと思ってしまうのが悔しい。


「香奈ちゃん、神村くんの前だと人が変わったって思うくらい性格が違うよね」

「まあ、女子に向ける顔と男子に向ける顔が違うのは当たり前じゃないか?」


 レクリエーションのおかげか、以前まではあまり会話していなかった嵐山さんと楽間さんがいっしょに語り合っていた。

 入学式当初から固まりつつあった小さなグループを再度混ぜ込み、中くらいのグループが四つくらい出来た。人間は群れる生き物なので、ごく自然なこと。生憎、男子や女子の中で孤立している者はいない。


 男子の中で孤立気味だった僕はなぜか女子グループに含まれた。男子と仲良くなろうと思っても、周りに香奈さんがいたり、他の女子がいると他の男子が僕に近寄りが高いらしく、一定の距離を置かれた。

 他の男子からは羨ましと思われているかもしれないが、考えてみてほしい。他の男子の助けなく、一人だけで女子の輪に加わってしまった男の末路を……。


 ひよこ鑑定士や機械が本当はオスなのに間違えてメスが沢山いる箱の中に入れてしまったような状況の中、僕はこれから真面な学校生活が送れるのだろうか。


 ――まあ、いずれ男子の友達もできるでしょ。


 女子高という訳ではないのだから、男子は周りにいる。そう楽観的に考えた。

 今日は男子と一度も会話することなく放課後を迎える。


 昨日、香奈さんと勝負した結果、引き分けとなった。普通なら罰も消え、ちゃんちゃんと終わるハズだったのだけれど、


「ねえ、神村くん、コンビニに行こう」


 放課後、香奈さんは勉強の手を止めた僕に言う。

 気晴らしなのか、一人で行くのが嫌なのか、わからなかったけれど、別にこの後に何かあるわけでもないのでつきそう。


「左足首は大丈夫なの?」

「うん、勢いよく走ったりしなければ痛くないよ。でも、階段は手を貸してくれるとありがたいかな」


 ちょっとした階段でも片足ずつ降りなければならないので負荷がかかりやすい。僕は彼女の手を取り、転ばないように支えた。


 ――手、ちっさ。


 生徒玄関に向かうまで、三つの校舎ぶん歩かなければならない。と言っても、長方形型の短い辺三つ分なので大した距離ではない。生徒玄関を使う場合、多くの生徒が通る道だが、部活中の中途半端な時間帯のため、僕と香奈さんしか歩いていなかった。


 なんか、高校生になってからいつも彼女と二人っきりな気がする。中学校の時は放課後に部活があったし、陽翔くんや後輩たちと切磋琢磨していた。

 これでいいんだろうか……、と思う時がある。でも、香奈さんと一緒にいるのは嫌じゃない。むしろ楽しい。なんか想像していた高校生活とはちょっと違うから、戸惑いがあるのかも。


 当初の目的だった、星野さんが入学した高校を探るというのも僕の人脈がなさすぎて行き詰っている。気持ちは変わらず、彼女が好き。ただ、横を歩く香奈さんといると何か揺らぐものがある。


 星野さんが好きなのはわかっているけれど、じゃあ、香奈さんは好きじゃないの? と自分に問いかけてみると、カレーライスが好きだけど、カレーとナン、または、カレーうどんも好き。

 あれかな、長い時間をかけているから中々切り替えが効かないっていうサンクコスト効果ってやつか。でも、僕は確かに星野さんが好きで。


 僕は頭を抱えたくなる状況の中、生徒玄関で内履きと外履きを履き替える。

 生徒玄関を出て吹奏楽部が練習場所にしている飛躍という建物がある。嵐山さんがトランペットを吹き、練習に熱中している姿が透明なガラス越しに見えた。


 正門を抜け、松原海岸の方に向って歩く。右手に敦賀市立体育館があり、昨日、八台近い大型バスが並んでいた駐車場は、がらんと空いていて同じ場所とは思えなかった。

 松原に沿うように歩いていると、ファミリーマートが見えてくる。高校から四、五〇〇メートルくらい歩いたのかな。戻れば、女子の長距離走と同じくらいの距離だ。なのに、たいして疲れていない。

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