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中学の卒業式に告白した人が高校で隣の席だったらイチャイチャできるのか  作者: コヨコヨ


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 ――あぁ、森の新鮮な空気が美味しい。鳥の声が美しい。川のせせらぎが心を洗ってくれているようだよ。


 僕は登山が嫌いじゃないようだ。むしろ好きな方かもしれない。ただ走るよりずっと心に余裕がある。

 木の幹にびっしりと生えた緑色のコケや、白亜紀に迷い込んだのかと思うほど大きなシダ植物、登山路を一歩外れれば緩やかな崖になっており雪解け水が流れる超絶綺麗な川が流れている。

 ところどころ、壁際から透明な湧き水が垂れ流れており、触れてみると手が凍りそうなほど冷たい。飲むのはあまりおすすめできないが、どぶ川の水を飲むよりずっと安全だ。口をゆすぐ程度なら問題ない。

 リュックの重さが気にならないほど、登山を堪能していた。開始、一時間までは。


「く……、ちょっとずつ足が重くなってきた」

「ふふふ、ようやくリュックのハンデが効いてきたようだね」


 登山に大分慣れた様子の香奈さんが悪役のような低い声で呟いた。

 リュックの重さを気にしたとたん、石を背負っているような気分になってくる。肩に食い込むリュックの肩口が地味に痛い。親指を滑りこませ、ちょっと浮かせるように持つ。多少重みが緩和され、歩きやすくなった。


「じゃあね、神村くん。私は先に行くよっ!」


 香奈さんは登山路の傾斜が緩やかになったところで歩行のペースを上げ、僕との距離を放しにかかる。

 すでに、クラスなど関係なくなるほど生徒たちの間隔は間延びしており、一組の男子たちは颯爽と前方に行ってしまった。

 僕だけ置いてけぼりにされた気分だ。香奈さんも僕の失速でやる気が出たのか、ぐんぐん先に進んでいく。

 僕も早足で追おうとしたが、地面が雨水でぬかるんでおり、あまり急ぎ過ぎると滑りかねない。


「慎重に進んだ方がいいな。大丈夫、ウサギとカメの勝負も、カメが勝ったんだから」


 まだ、中間地点。焦る時ではない。


「あぁーん、足が痛いよー」

「もう、嫌ぁ、こんなに辛いなら休めばよかったぁー」

「こ、こんなの、児童虐待だ。教育委員会に訴えてやる……」


 男子よりも体力のない女子たちが、口々に愚痴をこぼし始めた。「まだ、半分しか進んでいないのか」という精神的苦痛が体の疲労以上に心をむしばんでいる。


「大丈夫、大丈夫。もう、半分終わったんだ。あと半分もあっと言う間に終わっちゃうよ。足下に気を付けながら下じゃなくて上の方を見るんだ。背筋を伸ばして小刻みに足を動かすと疲れにくいよ」


 僕は弱音より、足を一歩でも前に出せるような前向きな言葉を掛ける。

 男子グループが先に行ってしまったので、取り残された女子グループと一緒に登山路を歩くことになった。一ヶ月も経てば、女子の名前と顔もある程度わかるようになっていた。

 粟野中学校出身の者がいなかったため、星野香奈さんについての情報は得られないこともわかったけれど。


「きゃっ!」


 僕より小柄な体型の嵐山さんが泥に滑り、前のめりに突っ伏した。前にいた僕のリュックに咄嗟に捕まる。

 僕は後ろに引っ張られた。だが、部活で足腰が鍛えられていたため、踏ん張って堪えられた。おかげでどちらも転ばなかった。


「ご、ごめん、神村くん、大丈夫だった?」

「うん、僕は大丈夫。嵐山さんの方こそ、怪我していない?」


 嵐山さんが頭を前後に動かすと、ツインテールが垂れ耳の兎のようにふりふり動い、小動物的な可愛さが醸し出される。吹奏楽部だからか、体力は問題なさそうだった。


「はぁ、はぁ、はぁ……、陰キャに、こんな仕打ち、させるなよ……」


 目の下にまっくろなクマができている楽間さんが長い前髪をうざったそうに払いながら呟いた。きっと、寝不足なのだろう。高校生になると、第二次成長期真っ盛り。ホルモンバランスだとか、体内時計とか、様々な体の変化が現れる。


「くっそ……、こんなことなら、アニメの一気見なんてするんじゃなかった……」


 ん? どうやら、僕が思っていたような自然現象ではなかったようだ。でも、見たところ、相当つらそう。


「楽間さん、僕がリュックを持とうか? それだけで大分歩きやすくなると思うよ」

「ま、まじで。めっちゃ助かる」


 香奈さんのリュックに比べれば、非常に軽かった。

 楽間さんはリュックの重さがなくなり歩きやすくなったのか、足取りが軽くなった。

 女子グループの中で歩くのが辛そうな者を見つけると、数分置きにリュックを肩代わりし、頂上に向かって歩く。

 その間、好きな芸人、イケメンのアイドルや俳優、ドラマや映画の話が案外盛り上がった。


「神村くんって、なんか弟と話しているみたいで凄く話しやすいよ」

「わかるー、私たちを女として見ている感じしないわー」


 嵐山さんと楽間さん、その他の女子たちがひっきりなしに会話しており、僕は完全にかき乱されていた。でも、彼女たちから嫌な言葉は一つも懸けられない。むしろ、優しく接してくれる。


 ――僕、小学生だと思われていたりするのだろうか。もう、男として見られていないのかも。ただ、楽間さんが言った、女として見ている感じがしないという部分は、何となくそんな気がする。たぶん、僕が星野さんのことを好きすぎて、他の女子は気にならないのだろう。

 でも、小日向香奈さんのことは……、なんか気になってしまっている。こんなにすぐ男の好きな相手は変わってしまうのだろうか。いや、僕は確かに星野さんが好きだ。今も、変わらない。

 彼女にあの告白についてちゃんと謝りたい。思い出作りじゃないということを知ってもらって、僕が本気だということをわかってもらいたい。

 ちょっと、僕の独りよがりが過ぎるかな……。星野さんからすれば、勝手に好きになられて迷惑だったかもしれない。あの時、はっきりと振られていればまだあきらめがついたんだけどな。

 女々しい気持ちになりながら歩いていると、愛くるしい顔がのぞき込んでくる。


「神村くん、どうかしたの? 疲れちゃった?」


 案外、お姉さん気質の嵐山さんが、僕の様子がおかしいと思ったらしく話しかけてきた。


「ううん、ちょっと考え事していて……」

「考え事……。それはもしや、恋の悩みっ!」


 目をきらっきらに輝かせ、今までの疲れが嘘のように吹っ飛んだ彼女はものすごく近寄ってくる。

 なぜ、僕が恋の悩みを抱えているとわかったのだろうか。もしや超能力者だったりするのだろうか。

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