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中学の卒業式に告白した人が高校で隣の席だったらイチャイチャできるのか  作者: コヨコヨ


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「な、なに、今の体……。私、幻覚でも見たかな」


 香奈さんは右腕で目元を擦り、再度見つめてくる。何なら、肌の褐色がよくなり、鼻の穴が膨らんでいるように見えた。

 他の女子たちも、鼻息を荒げ、非常に熱い眼を向けてくる。いったい、どうしてしまったのだろうか。


 僕はシャツを着直し、半そで体操服を着る。タオルをお尻に引いて、教室の後ろに寝ころび、膝を曲げた状態になる。

 香奈さんが脚を持ってくれた。そのまま三〇秒間、本気で腹筋する。

 胸の前で交差した腕の肘が脚に当たれば一回。香奈さんの顔が近くにあるとか、柔らかい胸が脚に当たっているとか気にしている場合ではなく、体力テストの結果が本当かどうか証明するべく、記録に近い結果を出し、結果が正しいことを裏付ける。


「これで、文句はないでしょ」

「……はいはい、わかりましたよ。私の負けですー」


 香奈さんは開き直り、携帯電話を取り出した。僕も携帯電話を取り出し、クラス全員の女子から連絡先を貰うことに成功。

 おそらく、僕程度のコミュニケーション能力では、意味がない。

 ただ、香奈さんの連絡先を手に入れられたのは、体力テストを本気で頑張ってよかったと思えるほど胸が高鳴った。

 でも、この胸の高鳴りは、いったい何なんだろう。友達の連絡先が手に入ったからかな。

 体操服の裾を持ち上げ、額に掻いた汗をぬぐう。

 パシャリ、パシャリと携帯電話のシャッター音が鳴り、皆、なにを撮っているのだろうと思った。腕を下げると携帯電話のカメラが僕の方を向いていた。

 口元がにやけ切った女子たちが何食わぬ顔で、写真を撮ってくる。


「ぼ、僕なんて撮っても容量の無駄遣いだと思うけど」

「そうよ、そうよ。神村くんの写真を撮っていたら、容量が足りなくなるに決まっているじゃない。皆、ベストショットはグループラインに張り付けておいて」

『りょーかいですっ!』


 女子たちは香奈さんに向って声を合わせ、返事した。さすがの連帯感。女子の連携は男子を凌駕する。一人の男など、女子の連携の前には無力も同然だ。


「くっ、女子グループが神村に目をつけやがった」

「このままじゃ、神村くんが女子に囲われてしまう」

「だが、それでいい」


 男子たちは遠くから暖かい目で見守ってきている。いや、見放されているのかもしれない。同じ教室の同姓なのに……。

 昼休みが終わり、七時間目の総合の授業中、担任の西山先生からオリエンテーションの話が出てきた。


「部活の先輩から聞いて知っている者もいるかもしれないが、今年の一年生も野坂山を登ってもらう。決して難しくはないが、油断は禁物だ」


 野坂山は福井県敦賀市にある山。標高九一四メートル。『敦賀富士』など大層なあだ名があるものの、冬場になると富士山のように頭部が白い雪に覆われ、美しさが増す。野坂山の雪が多ければ多いほど、敦賀の積雪が増えるなどとも。


「各県で熊の目撃情報が相次いでいる。事前に猟師に対策してもらう予定だが、なにがあるかわからない。楽しむのもいいが、相手は自然だ。気を付けるに越したことはない」


 西山先生は生徒たちが勝手な行動をとらないよう、軽い脅しのような口調で話す。見た目のデカさと威圧感から、ひよっこの生徒たちはカタカタと震える。

 そんな西山先生なら、もしかしたら熊に勝ててしまうのでは思えてしまうほど、逞しい。僕も大きくなったらあんな男になりたいな。


「教室ごとにまとまって移動するが、頂上では各自昼食を取る。クラスの写真撮影も控えているから休まないように」


 授業が終わり、掃除してから放課後の流れ。

 すでに、教室でつるむグループが決まり出し、部活に入った者も多数。

 そんな中、僕は未だに柔道部の体験にすら行けていない状況。

 周りは頑張っているのに、僕だけさぼっているような気がして教室に残り勉強した。大学に進学したいと思っているけれど、どこの大学に行きたいかまでは、まったく決まっていない。だから、目標のない勉強だ。

 目先の目的としては香奈さんに勝つってことかな。そんな彼女も教室に残り、図書室から借りてきた難しそうな本を読んでいる。


 吹奏楽部の楽器が各教室に散らばり、個別練習に明け暮れる音。シャープペンがノートの上を擦る音。薄い本の紙がしゅるりと軽く捲れる音。どれも、中学の時にも聞いた覚えがあるのに、まったく違ったように聞こえてくる。

 香奈さんと同じ空間で、同じ時間を共有しているからだろうか。


「……ねえ、神村くんって、中学のころは柔道部だったんでしょ。高校ではやらないの?」

「え? あ、うーん……。まだ行けてないだけで、気持ちは行っているっていうか、なんというか……。やっぱり、自信が出なくて」

「じゃあ幽霊部員ならぬ、気持ちだけ部員だね」


 香奈さんが笑った。ちょっとだけ、いたずらっぽく。


「なにそれ。聞いたことない新ジャンルだよ……」


 こんな、しょうもない会話。でも、なぜか胸の奥が、ふわっと暖かくなる。

 興味のある本を読む香奈さんの熱い眼差し、続きが気になっているのか止まらない指先。ページを一枚、そっとめくる。その動きに、なぜか目が離せなかった。


「でも、無理する必要ないよ。人間は無理すると簡単に壊れちゃうから……」

「う、うん、そうだね。今は部活よりも、勉強とか野坂山登山とかを頑張らないと」


 高校生の放課後、中学生よりも大人で大学生よりも子供の僕たちがいる教室の中は、ほんのり苦いにおいが漂っていた。


 ――野坂山か。たぶん、頂上で食べるお弁当の味も、きっと今までとは少し違うものになるんだろうな。


 ☆☆☆☆


 四月の第三週の月曜日、僕たちは敦賀高校の前にある敦賀市立体育館の駐車場に集まっていた。体操服姿の者ばかり。弁当と水分が入ったリュックを背負い、口々に他愛のない言葉を呟いている。


 昨日は大雨で、今回の野坂山登山は中止かと思われたが、今日は昨日の雨が嘘のように爽やかな快晴だった。運がいい。

 大型の観光バスが駐車場にクラスの数ぶん集まっており、一組の僕たちは一番に大型バスに乗り込んだ。席順は決まっておらず、入った者から席に詰めていく。


「神村くーん、こっちこっち!」


 香奈さんは当たり前のように横に座るよう促してくる。誰よりも大きなバックを持っており、なにが入っているのかわからないが、そんな大荷物で登山できるのだろうか。

 とりあえず彼女の隣に座る。一ヶ月近く会話していれば、それなりに慣れたと思う。でも彼女は可愛らしいので、時おりしどろもどろになりかねない。

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