第八話 食べる?……食べるけど、ほんのちょっと。
第八話です。今日は、ついに「口に入れる」話をします。
朝だ。
たぶん。
木の実は、まだそこにある。
昨日と同じ場所。
昨日より、ちょっとだけ恨めしい顔。
「……おはようございます、決断の日です」
誰に言うでもなく言ってみる。
言ったからって、腹は減ったままだ。
火は残っている。
これはありがたい。
精神的に、だいぶ違う。
「じゃあ」
私は木の実を手に取る。
「食べる」
エルフが一歩前に出る。
「ようやくだな」
「うん」
私はうなずく。
「でも、
ほんのちょっと」
布多めの人が、ちょっと笑う。
「ここまで来て?」
「ここまで来たから」
私は木の実を、さらに小さく割る。
さらに小さく。
もう、粉みたいなサイズ。
「これ」
指先に乗るくらい。
「これだけ?」
「これだけ」
姿勢のいい人が言う。
「合理的です」
「ありがとう」
私は深呼吸する。
……深呼吸って、
こんな時にするものだったっけ。
まあいい。
舌の先に、ほんの少しだけ触れさせる。
噛まない。
飲み込まない。
ただ、触れる。
「……」
全神経が、口の中に集中する。
味。
苦味。
痺れ。
変な甘さ。
どれも、ない。
「……普通だな」
普通って、
ほんとに怖い。
「飲み込さないのか?」
エルフが聞く。
「まだ」
私は首を振る。
「今日は、口に入れただけ」
布多めの人が息を呑む。
「それだけで?」
「それだけ」
私は頷く。
「三十分待つ」
姿勢のいい人が言う。
「反応観察ですね」
「そう」
私は座り込む。
「腹は減る。
でも、焦らない」
三十分。
長い。
体調に変化はない。
口の中も、静か。
「……何も起きないな」
エルフが言う。
「起きないのが、一番いい」
私は答える。
「起きたら、
だいたい悪い」
さらに、ほんの少しだけ。
今度は、噛む。
噛むけど、飲み込まない。
「……味は?」
布多めの人が聞く。
「普通」
二回目。
「普通は、
信用できない」
それでも、
さっきより怖くない。
さらに待つ。
十分。
二十分。
体は、変わらない。
「……よし」
私は小さく言う。
「ここまで」
エルフが目を丸くする。
「まだ食わないのか」
「食べた」
私は肩をすくめる。
「今日は、
ここまででいい」
夕方。
体調は変わらない。
腹は減ってるけど、
昨日より希望がある。
「なぁ」
エルフが言う。
「明日は?」
「明日は」
私は火を見る。
「ちゃんと食べる」
根拠は、まだ薄い。
でも、
薄い根拠を積むのが、今の仕事だ。
今日は、
一歩前に進んだ。
次は、おっさんが「ちゃんと食べる量」を決めて、また悩みます。




