第六話 それ、食べられる?……いや、まだ早い。
第六話です。今日は、「食べられそうなものを見つけて、疑います」。
朝だ。
たぶん。
太陽は昨日と同じ場所にある気がする。
でも、気がするだけだ。
「おはようございます、空腹三日目です」
自分で言って、ちょっと笑う。
三日目って言い方、
なんかイベント感あるな。
イベントだけど、
報酬はない。
火は残っていた。
昨日より、ほんの少し安定してる。
「よし。
今日は、見る」
食べるとは言わない。
見る、だ。
エルフが眉をひそめる。
「食べないのか?」
「見てから決める」
私は歩き出す。
昨日より、さらに少し遠くへ。
足元、枝、土の色。
何かを探すというより、
“違和感”を探す。
「ねぇ」
布多めの人が声をかける。
「それ、何を基準にしてるの?」
「勘」
即答だ。
「……不安にならない?」
「なるよ」
私はうなずく。
「だから、
勘だけで決めない」
エルフが笑った。
「めんどくさいな」
「めんどくさいよ」
正直に返す。
「でもね、
楽な判断は、
だいたい後で高くつく」
しばらく歩いて、
木の根元で足が止まる。
「……あ」
小さな木の実。
見た目は、よくある感じ。
丸くて、
赤くて、
いかにも“食べていい顔”。
「それ、どうだ?」
エルフが覗き込む。
「顔はいい」
私は頷く。
「顔はいいけど、
信用はしてない」
布多めの人が首をかしげる。
「でも、動物が食べてたら……」
「そこ」
私は指を立てる。
「動物が食べてるかどうかは見る。
でも、“誰が”食べてるかが大事」
姿勢のいい人が補足する。
「人間と代謝が異なる種は、
参考になりません」
「ありがとう」
私は深くうなずく。
「リスが食ってても、
人間が食えるとは限らない」
エルフが腕を組む。
「じゃあ、どうする」
「今日は、持ち帰る」
木の実を布で包む。
「食べない」
全員が一瞬、黙る。
「……食べないんだ」
「食べない」
二回言う。
「今日は、“食べられるかもしれない”を
持って帰る日」
火のそばに戻る。
木の実を地面に置いて、
全員で眺める。
「なぁ」
エルフが言う。
「それ、見てて腹減らないか」
「減る」
即答だ。
「びっくりするくらい減る」
布多めの人が苦笑する。
「でも、我慢できてるわね」
「できてるというか」
私はため息をつく。
「腹が減るのが、
今の仕事」
姿勢のいい人が少し首を傾げる。
「理解に時間を要します」
「分かる」
私は肩をすくめる。
「でもね、
腹が減るってのは、
生きてる証拠なのよ」
夜。
火を見ながら、
木の実を回す。
割ってみる。
匂いを嗅ぐ。
触る。
でも、食べない。
「今日は、ここまで」
エルフが言う。
「慎重すぎないか?」
「慎重で死んだ人は、
見たことない」
即答だ。
「逆は、山ほどあるけど」
火は消えなかった。
誰も倒れなかった。
木の実も、
そこにある。
「……明日だな」
私は小さく言う。
今日も一日、
ちゃんと生きた。
次は、おっさんが木の実を前にして、人生で一番長い「待ち」をします。




