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『絶望?今、それどころじゃないのよ。』  作者: くろめがね


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第五話 腹減った?それは知ってる。

第五話です。今日は、「食べない翌日」をやります。

朝だ。


……たぶん。


太陽は出てる。

出てるけど、時間は分からない。

時計がないと、人はここまで雑になるらしい。


「おはようございます、空腹です」


誰に言うでもなく挨拶する。

腹が、正直すぎる音を立てた。


ぐぅ。


「はいはい、分かってる」


昨日は何も食べてない。

水も、まだ飲んでない。

それで起きてる自分が、ちょっと不思議だ。


「人間、案外もつな……」


言いかけて、やめる。


こういう油断、

だいたい後で痛い目を見る。


火は、まだ残っていた。

小さいけど、生きてる。


それだけで、少し安心する。


「よし。

 今日も一個ずつ行こう」


エルフが近づいてくる。


「腹、減ったな」


「減ったね」


即答する。


「びっくりするくらい減ってる」


布多めの人が苦笑する。


「でも、昨日より落ち着いてるわね」


「それね」


私は頷く。


「腹は減ってるけど、

 慌ててない」


姿勢のいい人が言う。


「精神状態は安定しています」


「でしょう」


私は地面に座る。


「でね。

 ここで一番やっちゃいけないのが――

 勢いで食べる」


エルフが首をかしげる。


「昨日も言ってたな」


「大事なことは何回でも言うのよ」


私は指を立てる。


「腹が減ると、

 人はだいたい楽な方に行く」


草を見る。

木の実を見る。

よく分からない何かを見る。


「で、

 “まあ、いけるだろ”

 ってなる」


布多めの人が小さく息を吸う。


「それで……」


「腹壊す」


即答だ。


「で、

 水が足りない。

 体力もない。

 火も弱い」


私は手を広げる。


「詰みセット完成」


エルフが苦い顔をする。


「じゃあ、どうする」


「準備」


これも即答。


「今日は食べない日じゃなくて、

 食べるための準備の日」


一瞬、沈黙。


「……遠くない?」


エルフが言う。


「遠いね」


私は笑う。


「でも、

 近道するとだいたい死ぬ」


まず、歩く。

昨日より少しだけ遠くまで。


地面を見る。

足跡を見る。

折れた枝を見る。


「動物がいるかどうか、

 これだけでだいぶ違う」


布多めの人が頷く。


「食べ物の“入口”ね」


「そうそう」


私はしゃがむ。


「人間が直接食べなくても、

 食べてる誰かがいるってのは大事」


姿勢のいい人が言う。


「間接的食料源の確認ですね」


「言い方」


私は吹き出す。


「でも、そういうこと」


何も見つからない。

成果はゼロ。


でも、不思議と焦らない。


「なぁ」


エルフが言う。


「今日も、何も食わないのか」


「食わない」


私は即答する。


「でも、

 昨日より一歩前」


火がある。

水の作り方も見えてきた。

危ないものも、少し分かった。


「今日はね」


私は火の前に座る。


「腹が減ってる自分を知る日」


布多めの人が笑う。


「変な表現」


「分かるでしょ」


私は肩をすくめる。


「腹が減ると、

 自分がどんな判断するか」


エルフが腕を組む。


「……焦る」


「でしょ」


私は頷く。


「だから今日は、

 焦っても動かない練習」


夕方、

腹は相変わらず減っていた。


でも、誰も倒れない。

誰も喧嘩しない。


火を囲んで、

全員でぼーっとする。


「なぁ」


エルフが言う。


「これ、いつまで続く」


「さあ」


私は正直に答える。


「でもね」


一拍置く。


「今日を越えたら、

 明日はまた違う」


自信はない。

根拠もない。


でも、不思議と嘘じゃない気がした。

次は、おっさんが「食べられるかもしれないもの」を見つけて、全力で疑います。

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