第三話 火?付けたって誰も見ちゃ居ないのよ。
第三話です。今日は、火の話をします。
水の次に必要なのは、火だ。
これはもう、考える余地がない。
寒さ、調理、消毒、安心感。
全部、火に集約される。
問題は――
付けられるかどうか。
「火、起こせる人?」
とりあえず聞いてみる。
エルフが手を挙げかけて、止めた。
「起こしたことはある。
成功したとは言ってない」
正直でよろしい。
布多めの人は首を振る。
「知識はあるけど、
実地はないわね」
姿勢のいい人が言う。
「着火手段はありません」
「でしょうね」
私はため息をつく。
「じゃあ、作るところからだ」
乾いた枝を探す。
太いのは後回し。
まずは細いの。
「薪じゃないの?」
布多めの人が聞く。
「薪は“育てるもの”」
私は枝を手に取りながら言う。
「最初から太いと、火は嫌がる」
エルフが笑った。
「火にも機嫌があるのか」
「あるある。
こっちが焦ると、だいたい拗ねる」
乾いた草。
樹皮。
布のほつれ。
小さく、小さく集める。
「で、どうやって?」
「気合」
「……」
「冗談」
一拍置く。
「摩擦。
成功率は低い。
だから今日は“起こす”より“失敗しない”」
姿勢のいい人が頷く。
「合理的です」
石と木を組み合わせて、
地味に、地味に擦る。
すぐには火花なんて出ない。
手は痛い。
時間だけが過ぎる。
「なぁ」
エルフが言う。
「これ、誰も見てないな」
「そうなのよ」
私は手を止めずに答える。
「火?
付けたって、誰も見ちゃ居ないのよ」
英雄的な瞬間なんて、ない。
拍手もない。
喝采もない。
ただ、火が要るだけ。
しばらくして、
小さな煙が上がった。
「お」
誰かが声を出す。
すぐに息を吹きかけない。
焦らない。
火は、
大きくしたい気持ちを嫌う。
小さく、
守るように。
やがて、
小さな赤が残った。
炎と呼ぶには、まだ弱い。
でも――
「残った」
私は息を吐く。
「今日は勝ち」
エルフが笑った。
「地味だな」
「地味でいいのよ」
布多めの人が、火を見て言う。
「でも、安心するわね」
「それ」
私はうなずく。
「火ってのは、
見せるもんじゃない。
続くもん」
夜、火は消えなかった。
大きくはならなかったけど、
確かにそこにあった。
誰も騒がない。
誰も感動しない。
それでも――
今日は、前に進んだ。
次は、おっさんが食べ物を探して、だいたい慎重になります。




