第二話 水?飲みたいけど、飲めないんだもの。
第二話です。今日は、水の話をします。
川のそばに座り込んで、しばらく水を眺める。
飲めそう。
ほんとに、見た目だけなら完璧だ。
透明だし、臭いもしない。
石も見えるし、流れもある。
条件だけ並べたら、
「はい、安全」って言いたくなる。
でもね。
「こういうのが一番危ないのよ」
誰に言うでもなく、独り言。
筋肉の人――エルフだったか、まあいいや――が首をかしげる。
「飲まないのか?」
「飲まない」
即答すると、ちょっと意外そうな顔をされた。
「喉、渇いてるだろ」
「渇いてる。めちゃくちゃ」
正直だ。
ここは嘘をつくところじゃない。
「でも、分からない水は飲まない」
布多めの人が、川を覗き込む。
「見た感じ、きれいだけど?」
「“見た感じ”はね」
私は小石を一つ拾って、水の中に放り込む。
ぽちゃん、と音がして、
波紋が広がる。
「それで安心できるなら、苦労しないのよ」
姿勢のいい人が、淡々と補足する。
「外見上の清浄度と、
人体への安全性は一致しません」
「そういうこと」
私はうなずく。
「透明でも、腹は壊す。
臭わなくても、熱は出る。
で、こういう時に腹壊すと――終わる」
言葉にすると、ちょっと重い。
でも、ここはちゃんと伝えたかった。
「だから今日は、飲まない」
エルフが腕を組む。
「じゃあ、どうする」
「作る」
全員の視線が集まる。
「飲める水を」
布多めの人が、少し不安そうに聞く。
「そんなこと、できるの?」
「完璧なのは無理」
正直に言う。
「でも、“マシ”にはできる」
私は上着を脱いで、内側を確かめる。
布はまだきれいだ。
新品じゃないけど、使える。
「まずはゴミを取る」
川の水をすくい、
布でゆっくり濾す。
砂や、細かい葉っぱが残る。
「これで安心?」
「全然」
即答だ。
「でも、一段階は進んだ」
次に、小石を集める。
大きさを揃えて、簡単な層を作る。
その下に砂。
さらに、その下に――
「炭、欲しいな」
エルフが首を傾げる。
「炭?」
「火を起こしたら、作れる」
布多めの人が納得したようにうなずく。
「吸着、ってやつね」
「そう。詳しいことは分からなくていい」
私は手を払う。
「大事なのは、
“何もしないよりマシ”を積むこと」
姿勢のいい人が言う。
「煮沸は?」
「それが本命」
私は指を立てる。
「最後は火。
だから今日は、水と火なのよ」
エルフが、ちょっと笑った。
「面倒だな」
「面倒よ」
認める。
「でも、面倒を避けると、
あとで倍つらい」
実感のこもった言葉だ。
しばらくして、簡易的な濾過ができた。
見た目は、さっきより少しだけマシ。
でも、まだ飲まない。
「今日中に火を起こして、
煮る。それから」
布多めの人が、川を見て言う。
「今日は飲めないのね」
「飲めない」
私はうなずく。
「でも、生きてる」
ここが一番大事。
エルフが肩をすくめる。
「我慢大会か」
「違う」
私は首を振る。
「選択の話」
姿勢のいい人が、少し間を置いて言った。
「合理的です」
その言葉が、妙に嬉しかった。
夕方、喉は相変わらず渇いていた。
でも、誰も倒れていない。
誰も焦っていない。
「今日は、これでいい」
自分に言い聞かせる。
完璧じゃない。
安全でもない。
でも、
昨日よりは、確実にマシだ。
次は、おっさんが火を起こそうとして、思った以上に慎重になります。




