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『絶望?今、それどころじゃないのよ。』  作者: くろめがね


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第十七話 足音?……来るなら来なさいよ。

第十七話です。今日は、「誰かの気配」が近づきます。

夜は静かだった。


焚き火は低く抑えられている。

石で囲った火は、外から見ればただの赤い影だ。

炎は高く上がらない。


煙も、ほとんど上がらない。


それでも火は暖かく、

水はすぐ手に届き、

逃げ道は三つある。


昨日までとは違う。


ここはもう、ただの野営地じゃない。

拠点だ。


私は火の前に座りながら、小枝を一本、火にくべた。


パチ、と乾いた音がする。


その音を聞きながら、ゆっくり息を吐く。


「……静かね」


エルフが低く答える。


「静かすぎる」


風はある。

虫の音も、わずかにある。


でも――


何かが足りない。


その違和感が、ずっと胸の奥に引っかかっていた。


私は火を見つめながら言う。


「ねぇ」


布多めの彼女が顔を上げる。


「なに?」


「昨日の焦げ跡」


私は小さく指を動かす。


「あれさ」


一拍置く。


「誰かが火を使ってるってことよね」


エルフが頷く。


「そうだ」


「つまり」


私は肩をすくめる。


「火を消したあと、どこかに行ったってこと」


姿勢のいい彼女が言う。


「移動距離は不明ですが、

 活動範囲は重なる可能性があります」


「でしょ」


私は笑う。


「つまりね」


火の揺れを見ながら、ゆっくり言う。


「近くにいるのよ」


その言葉の直後だった。


――ザッ。


全員の体が止まる。


小さな音。


風ではない。

草が擦れる音でもない。


踏んだ音。


エルフがゆっくり立ち上がる。


音は遠い。

でも、確かにある。


ザッ……。


間隔がある。


つまり――


歩いている。


私は立ち上がらない。


火の前に座ったまま、耳を澄ます。


ザッ……。


ザッ……。


「……人?」


布多めの彼女が小声で言う。


姿勢のいい彼女が答える。


「歩行間隔は人間に近似」


私は小さく笑う。


「ほらね」


胸の奥が、妙に静かだ。


怖くないわけじゃない。


でも、逃げたいわけでもない。


むしろ――


待っていた。


「どうする?」


エルフが聞く。


私は火を見ながら答える。


「まず」


指を一本立てる。


「慌てない」


ザッ……。


足音が少し近づく。


「次」


指を二本にする。


「見えるまで動かない」


布多めの彼女が頷く。


逃げ道はある。


準備もある。


だから、焦る必要はない。


ザッ……。


今度は、はっきり聞こえた。


草の奥。


暗い影。


何かが、いる。


火の光がわずかに揺れ、

影が長く伸びる。


エルフの手が、自然と武器に伸びる。


私はそれを止めた。


「まだ」


小さく言う。


「まだよ」


影が動く。


一歩。


また一歩。


そして――


火の光の端に、


人影が現れた。


その瞬間、


私はゆっくり息を吐いた。


「……やっと会えた」


静かに、笑う。


「こんばんは」


世界が、

ついにこちらを見た。


次は、おっさんが「初めての相手」と会話します。

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