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『絶望?今、それどころじゃないのよ。』  作者: くろめがね


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第十五話タイトル 風向きが変わった?……いや、変えるのよ。

第十五話です。今日は、空気が少し変わります。

朝だった。


確信はない。

だが、光の角度と、肌に触れる空気の温度が、昨日までと微妙に違う。


夜を越えただけなのに、世界はわずかに表情を変える。

それに気づけるくらいには、彼らはこの場所に慣れ始めていた。


火は残っている。

水は確保できている。

食料も、わずかだが命を繋いでいる。


――整い始めている。


「……ねぇ」


彼は、火の前で静かに呟いた。


「なんか、静かすぎない?」


昨日までの静けさとは違う。

音がないのではなく、圧がある静けさ。


エルフが顔を上げる。


「風が変わったな」


その一言で、空気が締まる。


確かに、風向きが違う。

昨日まで背中に流れていた風が、今日は横から来る。


横風は、匂いを運ぶ。


布多めの彼女が、ゆっくり目を細める。


「……焦げた匂い、しない?」


一瞬、全員が火を見る。


違う。


これは、彼らの火ではない。


もっと遠く。

もっと大きい何かの匂い。


彼は立ち上がる。


「動く日だね」


声色は軽い。

だが、目は軽くない。


「今日は、確認する」


歩く。


昨日までの“生活圏”を越え、少し先へ。

地面の色が変わる。

草の密度が薄くなる。


やがて、視界が開けた。


――黒い跡。


円形に、焼け焦げた地面。

まだ新しい。


「……誰かいる」


エルフの声は低い。


焦げ跡は、自然のものではない。

雷でも、偶然でもない。


意図がある火だ。


彼の胸の奥で、何かが小さく跳ねる。


恐怖ではない。


高揚だ。


「やっと、だね」


布多めの彼女が彼を見る。


「何が?」


彼は笑う。


「世界が、返事した」


今まで彼らは、生きるだけだった。

だが、これは違う。


自分たち以外の“意思”が、この世界にある証拠。


姿勢のいい彼女が、周囲を観察する。


「足跡は不明瞭。

 ただし、複数の可能性あり」


彼はしゃがみ込む。


焦げ跡に触れる。


まだ、わずかに温かい。


「近い」


その一言で、全員の呼吸が揃う。


今までは、環境との戦いだった。

だが、ここからは違う。


存在との遭遇だ。


彼は立ち上がる。


胸の奥が、静かに燃えている。


「戻ろう」


エルフが眉をひそめる。


「追わないのか?」


彼は首を振る。


「今は、追わない」


一拍。


「準備してから会う」


焦げ跡を背に、歩き出す。


世界は、急に広がった。

同時に、狭まった。


自分たちだけではない。

ここには、誰かがいる。


火の前に戻ったとき、

空気は明らかに変わっていた。


生活の匂いに、

わずかな緊張が混ざる。


彼は静かに火を見つめる。


「……面白くなってきた」


声は軽い。

だが、心は熱い。


サバイバルは、

生活から物語へと、ゆっくり移行し始めていた。


次は、おっさんが「会う前の準備」を本気で始めます。

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