第一話 絶望?今、それどころじゃないのよ。
第一話です。今日は、まず状況確認をします。
目を開けた瞬間、まず思ったのは――
あ、服がある。
……いや、そこ?
状況的にもっと他に思うことあるでしょ、って話なんだけど。
でもね、人間って意外と現実的なのよ。
長袖シャツに、動きやすいズボン。
足元はスニーカー。
上着もあるし、ポケットもある。
「……革靴じゃなかったのが、唯一の勝因ね」
独り言が出たってことは、たぶん落ち着いてる。
パニックにはなってない。
これ、わりと大事な判断材料よ。
周囲を見回す。
何もない。
ほんとに、何もない。
建物もない。
道もない。
人も、音も、気配もない。
空は青い。雲もある。
風も吹いてる。
世界としては、ちゃんとしてるのに。
「……絶望?」
口に出してみたけど、しっくりこない。
だって今、
絶望してる場合じゃない。
喉が渇いてる。
これが一番、はっきりしてる現実だった。
「水、よね。まず」
歩き出す。
とりあえず低い方へ。
人類の長い経験則を信じる。
少し歩くと、浅い川――というか、水の流れを見つけた。
透明そうに見える。
石も見える。
いかにも「飲めそう」。
……で、飲まない。
しゃがんで、水面を眺めるだけ。
「水?
飲みたいけど、飲めないんだもの」
理由は簡単。
理由が分からないから。
ここがどこで、
この水がどこから来て、
何が混じってるのか。
分からない水を、勢いで飲むほど、
若くもない。
手を突っ込んで、温度だけ確かめる。
冷たい。悪くない。
でも今日は、飲まない。
喉は渇くけど、生きてる。
それで十分。
視線を上げると、少し離れた場所に三人、立っているのが見えた。
――ああ、独りじゃなかったのね。
一人は、やたら体格がいい。
筋肉が目に入る。
服は軽装で、動きやすそうだけど、ちょっと寒そう。
一人は、布が多い。
全体的に、安心感のある体積。
もう一人は、妙に姿勢がいい。
無駄な動きがない。
人間っぽいけど、どこか違う。
全員、こちらを見ている。
誰も叫ばない。
誰も駆け寄ってこない。
……信用できそう。
「状況、分かる人いる?」
声をかけると、
筋肉の人が肩をすくめた。
「分かんない。
でも、動ける」
布多めの人が、少し困ったように笑う。
「分からないけど、
今は落ち着いた方が良さそうね」
姿勢のいい人が、淡々と言う。
「観測可能な範囲に、
危険は確認できません」
全員、まともだ。
それで十分。
「じゃあ」
私は川から離れて立ち上がる。
「絶望は後回し。
今日は、水と火を何とかするわ」
誰も反論しない。
それだけで、今日は勝ち。
今日は、もう十分だ。
次は、おっさんが水をどうにかしようとして、だいたい慎重になります。




