その風鈴は冬に鳴る
ホラーです。苦手な方、ご留意ください(´・ω・`)
――りん
季節外れの音が脳を掠め、俺は両耳を塞ぐ。
何故こんなことになってしまったのだろう。
「あはは、風太久し振り」
年末年始、帰省する俺を出迎えるのは幼馴染みの鈴子だ。
軽に乗り込むと、隣で鈴子が話し出す。
同級生のだれそれが離婚したとかどこそこの爺さんが死んだとか、そんな話を聞き流していると合間にりん、と風鈴が鳴った。
「冬なのに何で車に風鈴つけてんの」
「いいじゃん、何か風流な感じしない?」
そう言って鈴子は「あはは」と明るい笑い声を上げる。
天真爛漫で可愛い――昔はそう思っていたけれど、大人になった今では野暮ったく感じた。
「ねぇ、今日どこ行く?」
「いつものコースで」
ホットパンツから伸びた太腿を撫でると「もう、すぐそれ」と言いつつ満更でもない様子だ。
やがて人気のない場所に着いた俺たちは愛し合い、その度にりん、りん、と風鈴の音が鳴った。
「――ねぇ、そろそろどう?」
「何が?」
「ほら、結婚とかさ」
「……仕事が一区切りついたらな」
そう言って起き上がると、鈴子が俺の手を取る。
「あはは、私おばさんになっちゃうよ」
「鈴子はいつまでも可愛いから大丈夫」
手を振り解くと、鈴子が寂しげに笑った。
「あはは……本当風太ってずるいよね」
視線を落とす鈴子を見て、そろそろ潮時か、そう思う。
――数ヶ月後、俺は東京で出逢った本命の彼女と結婚した。
地元にはあれ以来帰っていないが、特段問題はない。
そんな或る日、電話口で母親が言った。
「そういえば鈴子ちゃん、ママになったよ」
少し驚きつつ「へぇ、結婚したんだ」と返すと母親の声が低くなる。
「それが相手が誰かわからないんだって。しかもあの子失踪しちゃって……」
――失踪?
穏やかでない言葉に、俺は息を呑んだ。
そもそも妊娠して相手がわからないって――まさか
――りん
どこかであの音が鳴り、俺は思わず電話を切った。
それから事あるごとに俺には風鈴の音が聴こえるようになった。
真冬に鳴るはずのないその音は、少しずつ俺の神経をすり減らしていく。
そんな俺に辟易とした妻は実家に帰ってしまった。
暗い部屋で一人俯いていると、外から音が響いてくる。
――りん
――りん、りん
少しずつ近付いてくるその気配に、俺はなすすべもない。
――りん、りん、りんりんりんりんりんりん
――りん
窓の外でぴたりと音が止まる。
恐る恐る顔を上げた俺の瞳に映ったのは――
「――あはは、なんだ。パパいるじゃん」
――そして、彼女はにたりと笑った。
最後までお読み頂きまして、ありがとうございました。
ホラー、一度も書いたことなかったのですが(そもそも怖がりなのであまり読まない(´・ω・`))、何事もチャレンジ! と思って書いてみた次第です。
あくまで人怖系なのと、そもそも風太が悪いやつなのでホラー好きの方々からするとぬるいと思いますが、少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。
ちなみに、後味悪い……となった方用に、続きです↓
※ホラー終わりでOKな方はブラウザバックお願いします。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あはは、すっきりしたぁ」
私はさっき見た情景を思い出しながら一人家で祝杯を上げた。
それにしても、あいかわらず風太は失礼な男だ。
たまたま街中で見かけたので声をかけようと思ったらそそくさと逃げ出すし、アパートの窓から姿が見えたので微笑みかけてあげたら、悲鳴を上げて泣き出すなんて。
――まぁ二股の末に捨てた地元の女が追いかけてきたと思ったら怖いか。
風太は私の初恋のひとだった。
普段はぶっきらぼうだけど気まぐれに優しくて、顔も良かったから結構モテて、幼馴染みであることがなんだか誇らしかった。
だから、風太に求められるがままずるずると関係を続けてしまい――それは私も悪かったと思う。
何度も友だちに「あいつはやめとけ」と言われてたし。
――でも、あの手を振り解かれた日、すべてが吹っ切れた。
いつまでも向き合おうとせず、私のことを都合の良い女としか思っていないことがはっきりわかったからだ。
生まれ変わることに決めた私は、地元を出て東京で働いている。
地元の友だちともたまに東京で集まったりするけれど、噂によると私は相手が誰かもわからない子を妊娠したまま失踪したということになっているらしい。
生理が重くて婦人科に通っていたから誰かが勘違いしたのだろうか。
そういうところも地元あるあるだと皆で笑い飛ばした。
――まぁ、そんな噂を利用して風太を脅かす私も大概だけど。
いずれにせよ、もう風太に逢うことは二度とないだろう。
さて、明日も仕事だしお風呂に入ってもう寝よう。
ダメ男に費やしてきた時間を思うと虚しくなるけれど、これからの私の人生にこれ以上無駄にする時間なんてないんだから。
「あはは、明日も頑張るぞ!」
立ち上がると共にテーブルが揺れて、飾っていた風鈴が、りん、と鳴った。




