088_ウズラ
翌朝。浅い眠りから目が覚める。
何事も無くて一安心だ。
まだ辺りは暗いが、朝日を見る準備を始める。
屋上にテーブルとお茶の準備をする。
今回朝日を見るのは俺だけだ。馬車で移動中、後数回機会はあるので、今日は睡眠を優先するらしい。
俺は探知魔法のマナサーチを使い、周囲の危険な生物らしきマナを確認するが特に見当たらないので、肌寒い空気を感じながら、日が昇る方を眺める事にした。
突如豆腐ハウス横に気配を感じた。
先ほどまで何も感じなかったのに突然だ。
素早く身構える。と言っても所詮素人の動きだが、やらないよりはいい。
空に浮かぶ巨大な爬虫類がそこには浮かんでいた。
訂正しよう。ドラゴンだろうそれは、金色に輝く鱗を全身にまとい。大きく広げられた翼は、鳥の翼と言うより天使の翼と言った方がしっくりくる。
ドラゴンの判断基準は、腕が翼とは別にある事。ワイバーンは翼と腕が一体化している。
それに風格というか、威厳と言うか。直ぐに超越者と分かってしまうその存在感。
彼は、豆腐ハウスの端に止まる。
俺に恐怖感は無い。殺意が全く感じないのもあるが、どうにもならない事が無意識に分かっているのだろう。
彼は俺を見下ろし、話始めた。
『奇妙なマナを感じて見に来てみたが、お前はなんだ?』
話が出来るのは助かる。しかも知能が高そうだ。
「初めまして。俺はジャンと言います。旅行でここを訪れました」
「ふむ。わが種族の言葉が話せるのか。そうか、神の祝福を受けているのか」
「いえ、祝福ではありません。地母神の加護をいただいております」
「地母神の加護だと。それはそれは」
笑っているのかな?なんかそんな感じに見える。
「身構えなくて良い。私は『アヴェリグ・ヴォム・ウズラース』。同じく、神の加護を受けた者だ」
こうして、俺はウズラと邂逅した。
名前が長いので、覚えられないと文句を言ったら愛称『ウズラ』に決まった。
そう。軽く文句なり言える対等な関係。神の加護を受けた者同士。仲良くやろう!と意気投合した結果だ。
ウズラはこの世界でかなり長い事、ガドローズのカルスト台地上空にある浮遊島に住んでいるらしい。
あーそれで、カルスト台地の空に魔物が居ないのね。納得である。
地上から見えないのはなぜ?聞いてみたら、そういう不可視の魔法が掛けられているんだとか。流石は魔法。なんでもありだ。
ウズラは太陽神『ラガンティナ』様の加護。
俺は地母神『アリシア』様の加護と神様の名前が分かったんだが、アリシアさん!?
失礼な事言わなかったよな・・・。というか、他人っぽく『地母神の加護』について説明してなかったか?
そろそろ、みんなが目を覚ますころになり、ウズラは一つの魔法を教えてくれた。
遠距離念話。
正直凄く役に立ちそうな魔法だ。
これでいつでも話が出来るぞと満足げなウズラが、人目に付かない様にこの場を去る。
「しばらくこの空でお前を見ているから、安心してこの世界を楽しんでくれ」
そう言い残して。
俺の気が張り付いていたのは、ウズラに見られていたから?
そんな気がする。
今はそれほど緊張感は無い。
突然『あんこ』が屋上に飛び乗ってきた。
『先ほどの方は、加護持ちっすね。』
「お、『あんこ』お帰り」
『気配を感じて見周りをしていたのですが、敵意の無い方で良かったっす』
「俺も話ができる相手で良かったよ」
『エンシェントドラゴン相手では、わっちではどうにもならんっすから』
「だろうね。でも『あんこ』が大人になったら、どっちが強いのかな?」
『大人になっても無理っす。ただのドラゴンなら勝てる様になると思うっすが』
「ドラゴンには勝てる様になるんだ」
『わっちはフェンリルっすから!』
そんなこと事を話して、必要以上に警戒していた理由がウズラだと、俺と『あんこ』の認識が一致したことで、いつもの軽い警戒態勢に戻すことにした。
そうだよ、一般の人族も観光地にしているぐらいの場所だぞ。
あんなに気が張るなら、観光どころじゃないだろ。
朝食は中華麦がゆっぽい物にしてみた。
そして、屋上には付き添いは無用で、自由に上がって良い事を伝える。
ウズラが見ているって言ってたし、空から魔物が来ることは無いだろう。
お茶とお菓子を切らさない様に、二階の居住部分に用意し。今日は一日のんびり過ごす。
俺は着こんだ上に毛布を羽織って、屋上から周囲を観察だ。
で、急ぎ作成することになった魔道望遠鏡。
研究室で魔道顕微鏡を作った事が役に立った。
人数分作って渡しておく。これで遠くの魔物も見る事ができるだろう。
草原を眺めていると、結構な魔物が確認できる。
おなじみボーパルシープを筆頭に、ステップドラゴン、グレーターオーストリッチ、マーダーボアなど見る事ができた。
グレーターオーストリッチは、群れで行動するダチョウの化け物。でかい肉食のダチョウ。
マーダーボアは、猪の二倍の大きさの牙が鋭い刃物状で、切り裂くのを主体の突撃をしてくる。
動物は草食動物しか見かけなかった。
インパラ?ガゼル?。どっちがどっちなのか不明。
あれはヌー?群れまくっているな。
この草原の頂点はステップドラゴンなのかな?数頭の群れでヌーを追い立て狩りをしていた。
昼食を挟んでの寒い中。屋上で望遠鏡を使った野生動物と魔物観察は、心に残る思い出になるだろう。
さらに俺は、壮大な夕日を眺め満足だ。
俺と『あんこ』はウズラの事は伏せる事にした。
この世界でのドラゴンとは畏怖の象徴。
しかも、ドラゴンの素材が簡単に入手できるとなったら、さらなる面倒ごとが発生すること間違いなし。
そう、素材について聞いたら、鱗って結構剥がれ変わるらしく、火山に捨てに行くのが面倒とか愚痴っていた。
牙もそこそこ生え変わるらしい。
しかも『あんこ』同様レア中のレア。エンシェントドラゴン。そっとしておくのが吉である。
明日は早くから移動を開始する予定。
まずは大草原の中心付近の分岐路を目指す。
そこから東のコシュシ。大河ノデールの汽水域の町を経由して、海路でアデルシアン湿地帯に向かう。
ただ状況によっては、陸路に変更の可能性がある。
陸路ではコシュシから、おおよそ馬車で十五日間、村すらないのである。
出来れば陸路は避けたいところだ。




