087_ホルギュカの大草原
森を抜け、小川を渡り、野営地で野宿をすること数回。
ホルギュカの大草原に入る事ができた。
ここからアデルシアン湿地帯に向かう分岐路まで約二日。
だだっ広い草地を進むことになる。
膝ぐらいの高さの常緑の草が生い茂り。ほとんど木は生えていない。
生えている木も人の伸長をやっと超える程度の高さ。
ここもまた特殊な土地なのだろう。
カルスト台地の様に、地盤がしっかりしていない理由で木が育たないと言うわけではなさそうだ。
「やってきた森が見えなくなったら、拠点を作ろうか。丸一日ゆっくり出来る様に」
「いいわね。寒さを気にせず、ゆっくり景色を堪能できそう」
ナタリーの言葉だが、俺の考えとはちょっと違う。
この遮蔽物が全くない地で、安全を確保するためだ。
かなり遠くから獲物を見つけられ、地形も起伏が無く高速で移動しやすい。
つまり、こちらが視認していない距離からの強襲しやすいということ。
人間の目は高性能だが、遠視能力はさほどではないのだ。
さらに普通に鳥が飛んでいることから、カルスト台地とは異なり、飛翔する魔物が居る可能性がある。
『あんこ』とブラックウルフの子供たちに注意を促す。
空を飛ぶ魔物は、俺か『あんこ』しか対応できないだろう。
遭遇しないことを祈ろう。
『あんこ』達は馬車からあまり離れず、馬車を囲んで警戒しながら付いて来てくれる。
起伏が無く、馬車の移動が楽な分。かなりの距離を移動でき、日が暮れるころには全方向草地の中の一本道。遠くに山影が薄っすら見えるだけとなった。
「この辺にするか」
馬車を止め、道から少しそれた場所に拠点を建築する。
お約束の豆腐ハウス。しかし今回は総石造りの二階建てだ。
一階部分に馬車を収納し。二階部分を居住スペースとする。
屋上には上る事ができるが、空を飛ぶ魔物が居るかもしれないので、『あんこ』か俺が付き添う事が必須と条件を伝える。
一階部分からつながる、渡り廊下付きのトイレを作る。
渡り廊下は周囲を壁で囲み外からの出入りは不可能にした。
豆腐ハウスの一階部分からのみ、アクセス可能だ。
居住スペースにベットなどを出して、居心地よい環境を作り出す。
二階の窓は北側を除いて、全て大きなガラス製。
北側の壁には階段と暖炉などを作った。
一階部分にも後付けで、陽光取り入れ用に、上部にガラス窓を作る。
こんなもんかな?馬達のための餌箱や水桶を設置して二階に上がる。
『あんこ』達も含めて、みな各々寛いでいた。
俺以外は、屋上で夕日は堪能出来たっぽい。こればっかりは安全確保が第一だから仕方がない。
さて、お待ちかねの晩御飯なんだけど何にしようかな。
そうだ、ここのところ肉尽くしだし、魚。そうブリしゃぶにしよう。
せっかく大量に手に入れたブリ。
メインはブリしゃぶ。カマ焼き、刺身。バター焼き。ブリのカルパッチョも作ろうか。
とりあえず時間が掛かる物から手を付ける。
インベントリでブリを解体せず、普通に解体する事にする。
あら汁を作るのに、適度に身が付いた『あら』が必要なのだ。
当然ブリなんて捌いたことはない。
とにかく頭を切り落とすところから始めよう。
ブリがまるまる載せられる、まな板にブリをまるまるドン。、
出刃包丁が無いから、手持ちのショートソードを使う事にする。
「ミカエルこの魚。頭を斜めに切り落とす事出来る?」
「無理ですよ、俺は剣を握ったことが無いですから」
うーむ。俺がやるしかないのか。
ブリの頭に刃を当て、押し込むが切れく気配が無い。
ショートソードってさ、切れ味悪いんだよね。
ナイフの方が、切るという作業をする場合は適している。
ショートソードはあくまで武器。そこそこ丈夫じゃないと不味いので、切れ味は落ちるのである。
これは無理だな。あきらめてインベントリでどうにかできないか、試すことにしよう。
まずはアニサキスの除去。
次は三枚おろしのイメージ。
頭を落として、三枚に分離する。
頭と中骨部分を取り出してみる。ほどよく身が付いているじゃないですか!
良かった。これなら『あら汁』は簡単にできそうだ。
次に身の部分を取り出すが、分厚い皮とカマの部分が邪魔だ。
カマも切り分けるとして、皮は刺身だと絶対剥いである部分だよな。
インベントリに入れ直し、カマを切り離し、皮を剥ぎ取るイメージ。
また取り出して確認する。
お腹の部分と血合いの部分に骨があることが分かる。
これも取らなきゃだめだな。
再度インベントリで骨の部分を切り分ける。
これでOKかな。
身とカマ以外はぶつ切り。分厚い皮は揚げるとつまみになるんだっけ。試しにやってみよう。
あら汁を作りながら、油を温め唐揚げの準備をする。
身を唐揚げとバター焼き用に厚切り。そしてしゃぶしゃぶ用に薄切り。薄切りはカルパッチョにも使える。
あら汁、唐揚げ、カルパッチョ。
出来上がったものからインベントリに収納していく。
最後にブリしゃぶ用のだし汁を準備して、ブリのフルコースの完成だ。
食卓に並べ、いただくとしよう。
作っていて、どうなのか心配していたブリ皮の唐揚げ。普通に美味い。
みんな相変わらず、刺身には抵抗があるみたいだが、俺が食べているのも見て、カニ同様に食べてくれる様になった。
もちろん俺の料理は、寄生虫や食中毒の対策をしていて問題ない事。
今回のブリにはアニサキスが寄生してるし、死にはしないけど痛みが半端ないらしいので、通常は今まで通り火を通す事が正しいと伝える。
ともあれ、ブリのフルコースはお酒に合うと好評で夕食が終了した。
食後に俺たちがまったりしていると、唐突に『あんこ』が夜の散歩に出かけると言い出した。
何かあるのだろうか?拠点を作成したことにより、安全は確保されているし、許可を出すことにした。
まぁただの散歩だろう。ここのところ馬車の護衛で自由に動けなかったしな。
ストレス発散は大切だ。ついでに周囲の確認をお願いしといた。どんな魔物が居るとかそういった情報ね。
うなずいた『あんこ』が屋上から飛び降り走り去る。
朝には戻ってくるだろう。
食事には目が無い『あんこ』だから間違いはないはずだ。
しばらくして俺は毛布にくるまり眠りにつく。
考えすぎなのだろうか、俺は拠点を立て安全を確保した。
この世界の住人の話では、この大草原は観光地。
危険なところと言う話は出ていない。
しかしだ、こんな視界が良い所で、人族の生活圏ではない。つまり魔物がばっこする地。
俺的には危険な場所と認識できるんだけど。
この豆腐ハウスは安全なのは確かだし、今は寝る事に専念しよう。
このまま何も無いことを願いながら。




