007_魔法
「黄色い太陽が昇ってしまったよ・・・。」
日が昇ると、ぴたりとおかわりが止んだ。
『おなかすいたっすね。町に戻って飯にしませんか?』
「そうだね・・・。」
結局寝ることができずにおかわりが発生。インベントリにはラッドの死体が356匹。あんこさんが仕留めたラッドをインベントリにぽいぽい回収していたら朝になっていた。
途中小腹がすいたので、残っていた食料を食べたり、水分補給なども行い小休止は出来たのだが、一向におかわりが止むことはなかった。
「これが普通なのか?十分危険だろ。夜間屋外に居たらラッドの餌になるだろ!」
『主が雑魚過ぎて餌にしか見えなかったんじゃないっすか?しかも旨そうな匂いまき散らしてるとか』
「臭くない!きっと!」
『冗談ですよ。わっちも鼻は良い方だと思いますが。主は普通の人族の匂いですよ』
「だろ?だとすると異世界お約束のスタンピードってやつか?」
『だとしてもなんで主に集まってきたんですかね?わっちを狙ってませんでしたよ』
無駄になった野宿の準備を撤収して町に戻ることにした。むろんインベントリ内で回収したラッドから尻尾と魔石を分離しておく。
「尻尾が389本になったよ」
『肉串食べ放題できるっすね!』
「インベントリ内の尻尾を切り取った残りの死体。そこらに捨てたら目立つよな?」
『ですが、いきなり尻尾だけ換金しに行っても残された死体はどこ?となりません?』
「それもそうか。山積みにしとくか」
『多分ですが。目立つし、またラッドが集まってくる気がしますけど』
「ぐぬぬ。廃棄物不法投棄は目立たない所にってのがセオリーか。ならば朝飯食って、ちょい遠出して人目に付きにくいところに投棄しよう」
『なんでもいいっすが。早く飯にしましょうや』
町の入り口には昨日俺を追い払った憲兵が立っていた。朝からご苦労なこった。
「ちょい聞きたいことがあるんですが。夜のラッドは人を集団で襲うものなの?」
「は?夜だろうが生きてる人間襲うわけないだろ。馬鹿なこと聞いてくるんじゃねぇよ」
憲兵は追い払うようにシッシと手を振った。
まぁ今の俺は、見た目はガキだしそういう態度も仕方ないか。
あんこと共に町に入る。こんな朝早くから屋台出てるかな?とりあえずギルドの方に行ってみるか。
しばし歩くと軒先の窓からパンとスープを売っているらしき建物が目についた。早速声をかける。
「おばさん。ここは朝ごはん買えるの?」
「いらっしゃい。そうだよ、パンとスープで銅貨5枚だよ」
「あんこはパン食べる?」
あんこはぶんぶん頭を縦に振った。どうせ念話なんだし話せば良いのにと思いながら鍋をとりだす。
「2人前で、スープは鍋にお願い」
お金を払い、それなりのボリュームの朝食を受け取り、また町の外に向かう。途中人目が付かない所でインベントリに収納する。
門を出て、あんこに騎乗して人目につかない道から離れた場所を目指して移動する。
朝食とラッドの死体を投棄するためである。インベントリ表示が不燃物となっていても物が分かっているのでさっさと処分したい。昨日できなかった魔法の確認もしたいしな。
小一時間町から離れ、森の中に入りちょっと開けた場所であんこから降りる。
「ここで飯にしよう」
『やっとですかい。飯食ってから移動で良かったでしょ』
「すまん。なんとなく先に移動しておきたかったんだ」
インベントリからスープの入った鍋を取り出しが、冷めていない。
「インベントリは保温機能付きか!」
少しスープをカップに移し、パンと鍋をあんこに渡す。
食べながら、魔法について考える。
アリシアさんは『マナは原子の前の状態で、マナから原子を作成し。分子に結合すれば素の素材となる』と言ってた。それと『様々なエネルギーにも変換できる』と。
注意することは『マナは体内に蓄積している備蓄分と周囲に存在するマナ。これが無いと魔法の行使は出来ない』という事。
現在は着火とソフトボール程度の水玉は作り出せた。魔法と言えば攻撃魔法!ファイヤーボールとかストーンバレットとかが異世界転生ご用達の初級魔法だよな。
「と言うわけで、飯も食べ終えたし。ファイヤーボールチャレンジ!」
『突然何を始めるんっすか?』
立ち上がって、あきれた感じのあんこをスルーし、ちょい離れたところにある岩に向けてファイヤーボールをイメージする。丸い炎の球体が飛んで行って爆発するイメージ。
すると、難なく火の玉が作り出され、岩に向かって飛んで行き、爆発し岩が砕けた。
「アリシアさんが言ってた『科学的概念』って、水は水素と酸素が科学結合してできていることを知っているってこととか?イメージしただけでできたんだが?」
『科学的概念ってなんすか?わっちの知らない言葉です』
「う~ん。火とは何かってこととか」
『?木が熱くなると火が付くってことっすか?』
「そうじゃなくて、火とは燃焼ガスが酸化する時に発生する事象で、火は物じゃなくて。え~と」
『何言っているのかさっぱりですが。そういった知識があれば魔法が使えるってことだけで良いんじゃないっすか?実際使えたみたいですし』
「アバウトすぎる。とは言え『いろいろ試して、できることできないことを整理していけ』と言ってたし深く考えないようにしよう」
『今の火球はラッドに当てたら爆散して尻尾残らないっすね』
「ファイヤーボールな!次はストーンバレットをやってみる」
木の幹に小石が早い速度で飛んで行くイメージをしてみる。ズドッっと音と共に、木の幹に穴が開いた。
『かなりの速さで小石が飛んで行きましたね。あれならラッドを狩るのも楽勝っすね』
「今後こんな感じで思いついた魔法を試していこう。そして知っておかなきゃならないのがマナの体内備蓄量がどのくらいあるのか。回復にはどのくらい時間が必要か。といったところか」
『試してみるしかないっすね。ちなみに魔獣にある魔石はマナが結晶化したしたものですし。うまく使うことできないっすか?』
「ほ~。魔石ってそういう物なのか」
ラッドの魔石(極小)を10粒、手のひらに出してみる。
これを使う?とりあえず魔石を磨り潰すイメージと共に、今回は一本のアーススパイクをイメージする。
一本の土でできたトゲが地面から生えた。
『これも土じゃなくて石とか鉄とかなら、良い攻撃魔法になりそうっすね』
手のひらの魔石を確認すると9粒になっていた。
「魔石が使えたみたい。10粒だったのが9粒に減った」
『なるほど。こんな感じで気が付いたことを実験しながら強くなるっす。そうすれば、狩をするのがわっちだけじゃなくなるっす』
「だよな。あんこに頼りきりじゃ何かあったときヤバイ。まぁとりあえずの攻撃魔法習得できたし。不燃物投棄して町に帰るか。尻尾の換金と昼飯&買い物しようぜ」
『今度こそ肉串食べ放題っす!』
インベントリから不燃物を放り出す。うず高いラッドの死体の山が誕生した。颯爽とあんこに騎乗して走り去る。死肉漁りに何か集まりそうだが気にしない気にしない。




