006_野宿
門の外に出て、一本の大きな樹の下に腰を下ろし手に持った肉串をあんこに向ける。
「焼いた肉でも食える?」
あんこはひと吠えした後肉串にかぶりついた。
「食えるのか。というかお前俺の言葉わかってる?」
肉串から器用に肉だけを外しながら、頭を縦に振る。
フェンリルだしなぁ。異世界転生物では話もできたりしてるけど。話せるん?
『わっちは出来るフェンリルなので、人語なんて造作もないっす』
「やっぱり話せるんだ。今まで話してもなかったのは空気を読んだってか」
『当然っす。ばれたら面倒でしょ』
「どうなんだろ?神様からやりたいことやれって言われてるわけだし。異世界転生の身バレとか、あんこがフェンリルって事ばれても神様的には問題ないよな」
『そりゃそうっすね。単純に主が何をしたいのか。それに伴い情報公開して良いのか否かってことですし。何をするか決めやした?』
「う~ん。とりあえず、異世界転生と言えば冒険!魔物討伐ぐらいかな?今のところは」
肉串をかじりながら、とりあえずの方針をあんこに話す。
『なら、わざわざ情報公開しなくてもいいっすね。わっちがフェンリルってばれるとかなり面倒なことになると思うっす。なんせこの世界で超レアな魔獣なんで。ハンターが狩りに来るっすよ!』
「それは勘弁だな。あんこは俺の内情知ってていろいろサポートしてくれるんだよな。アリシアさんがあんこを俺の従者って言ってたし」
『もちろんっす!神様の指示で主の従者となってるっす。うまいもの食わせてくれたり、わっちは狩りが好きなんで魔物討伐に連れてってっくれると嬉しいっす』
肉串を食べ終わったころ、憲兵が一人こちらに歩いてきた。
「おいお前こんなところで何してる」
「すみません。お金が無くて、獣魔と宿泊できないのでここで一泊しようかと」
「はぁ?こんなとこで野宿するな!」
まじか。屋台のおっさん話がちげぇ!門の外なら野宿できる言ったじゃねえか!
『言ってないっすよ。かもしれないって言ってたっすよ』
「さっさとどこか行け!仕事増やすようなことするな!」
仕方ないので、もう少し離れることにする。世知辛い世の中である。
あんこに騎乗し、町の門が見えなくなるまで離れることにする。
おお?あんこ早い!トイプの町にやってきた道をあんこが疾走する。これは馬が全力で走るより早いんじゃなかろうか?乗馬の経験は無いのでなんとなくだが、競馬場には行ったことがある。体感速度は以前乗っていたバイクで高速道路を疾走している感じである。80~100キロぐらいかな?
マジックアイテムの鞍が無かったら間違いなく振り落とされてるな。
あっという間に昼にバシャードさんに拾われた空き地に着いた。あんこに指示したわけではないのだが、ここなら休めると判断したらしい。
竈横の岩に腰掛ける。
「はぁぁ。一晩ぐらいどうにかなるだろ。この辺りにはラッドしかしないって話だし」
『そのラッドなんすが。囲まれてますが平気なんすか?』
「へ?」
『餌認定されてる感じにしか見えないんすが?』
「昼にあんこがサクッと狩ってたじゃん」
『確かに雑魚ではあるんですが。結構な数居ますけど』
今は日が落ち、うっすらと月明りで周囲が見渡せるぐらい。腰を下ろしたばかりで、竈に火をつけるどころか松明等の明かりは用意していない。
「これって、不味い状況?あんこさん何とかできない?」
『・・・そに居てくれっす。』
げんなりMaxなあんこは、ラッドを狩り始める。
「ごめん。現在非戦闘モード!戦う手段が何もありません!か弱い子供であります!あんこさん頑張って(はあと)」
『うざ。旨いもので手を打つっす。主は忘れず旨いものを用意するっす』
あんこはラッドをいともたやすく仕留め始める。その動きにラッドは反応できず、逃げる間もなくジャンを囲んでいたラッドは息を引き取った。
「あんこさんすんばらしい!さすがフェンリル!」
『・・・さっさと尻尾集めるっす。そして野宿の準備するっすよ』
「はい・・・」
まず、竈に昼同様インベントリから薪代わりの小枝を入れ火をつける。初心者セットには魔道ランタンってのが含まれていたので、取り出してみる。使い方が判らねえ。
「スイッチとかないんか?あんこ使い方わかる?」
『知らんすよ』
竈の火でよく観察してみる。ひっくり返すと、くぼみに何かの絵が描かれていたので触れると明かりがついた。もう一度触れると、明かりが消える。
なるほど。もう一度明かりを点け、ランタンを手に持ちラッドの回収を始める。
とりあえずインベントリに入れて纏めてから一気に尻尾を切り取ろう。
ポイポイとインベントリに収納する。インベントリに周囲に転がっていたラッドの死体をすべて回収し終えたころ、おかわりがジャンの周囲に現れる。
「あんこさん。たすけて!」
『主。モテモテですね。そんなに旨そうなんすかね?』
「やめて!いじめないで!」
追加のラッドも、あんこは苦も無く仕留め。すべてをインベントリに収納する。
「あんこさんや尻尾切り取るのめんどくさいぐらいの数を収納したんですが・・・」
インベントリ内のラッドの死体の数が34となっていた。うんざりしながら、これってインベントリ内で尻尾だけ切り取れれば楽なのに。と考えたとたん死体数が33に変わり、ラッドの死体(尻尾無し)とラッドの尻尾が追加された。
「まじか!インベントリ内で尻尾の切り取り出来た!」
『神に与えられた特殊技能ですし、何が出来ても不思議じゃないっすからね。そんなことより野宿の準備っすよ。夕飯早く早く!』
「ちょい待ってくれ。サクッと解体しちゃうから」
そう言ってインベントリ内で解体をイメージする。解体のイメージがまずかった。ラッドが細かく解体されてしまった様だ。脳、心臓、肝臓、頭骨、大腿骨、尻尾、皮、肉、魔石(極小)・・・。なぜか尻尾は尾骨になってなかったがどうでもいい。インベントリ内のリスト表示が大変なことに。
「ぐあああ。間違ってラッドを解体できてしまった!尻尾を切り取るイメージじゃないとまずいのか!」
『バカやってないで、先に夕食に似ましょう。インベントリ内の尻尾切りなんて寝る前にでもやれば良いじゃないっすか』
「確かに。気になることもできて時間かかりそうだし、野営準備するか」
神様から貰った初心者セットの薬缶を取り出し、魔法で水を注ぎ竈に置く。
大きな一枚布を地面に広げ、この上で毛布にくるまって寝ることにしよう。
温まった薬缶でお茶を作って一息つく。あんこは焚火横でのんびり伏せている。
「あんこさんや。ラッドの警戒よろしく」
『はいはい。わかったす』
まずはラッドを処理しよう。インベントリ内でしっかり尻尾だけ切り取るイメージする。インベントリ内の残っていたラッドの死体が全て、ラッドの死体(尻尾無し)とラッドの尻尾に変換された。
夕食前にラッドをバラした時に気になった魔石(極小)もこの際、取り分けてみる。
結果は尻尾33本、魔石(極小)34個、不燃物34とインベントリ内は表示された。死体から価値がありそうなものを剥ぎ取った残りは不燃物ですか。死体と表示されるよりは目に優しいから良いことだな。
『主よ。おかわりがやってきたっすよ』
そう言ってあんこは立ち上がり身構える。
「勘弁してくれ。もしかして朝まで続くのかこれ?」
『どうでしょうね?まぁ来たら来たで狩っときますよ』
こんな感じで寝ずのラッド襲撃が朝まで続いたのであった・・・。




