034_アタックキャンプ
予定通り早朝、宿場町ラグニッシュを出発し。
一路南へ。貿易港イーザムに向けて車列は進む。
ここからイーザムは馬車で二日の距離だ。
俺たちは、一日目の宿泊地にて旅団から離れることになる。
旅団は東へ。俺たちはダンジョンのある西に向かう。
そのまま南に進むと国境の町ハールンがあるが、今回は無関係なので説明を省略する。
無理なく一日目の宿泊地に到着し。各々野営の準備を始める。
今日で乗合馬車で相席した客ともお別れなので、あんこ専用ごはん鍋で、肉シチューをふるまった。
ついでに『いてこます』の面々にも。
野営の度にうらやましそうに、見られていたんで。何となく最後だしご馳走してやるか。とそんな気持ちになっただけで。特に意味はない。
夜が明けて、旅団の方々に挨拶をして、俺たちはダンジョンに向かって歩き始めた。
ダンジョンへの道は獣道で、迷わない様に木の幹に目立つ目印が刻み込まれていた。
入り口までは一日ぐらい。森の中を進むことになる。
ここでちょっと実験をしとこう。
障壁魔法と持続性魔法についてだ。
やっぱりナタリーの安全を考えなきゃね。
ナタリーを丸く包むように半球の見えない硬い壁をイメージする。
ただし、その壁は周りからマナを吸収する感じで。
その辺に落ちていた木の枝で、この辺かな?とつついてみる。
木の枝は見えない壁に阻まれた。成功かな?
ちょっと強めに木の枝でたたいてみたが、壊れる気配は無かった。
ナタリーに手を前にかざして進んでもらったが、壁に手が触れたので立ち止まってしまった。
どうやらこのイメージだと障壁は固定されるようだ。
少し時間をおいても障壁は消えなかった。
発動した魔法がマナを吸収するイメージだと、効果がちゃんと持続するみたい。
今回は前もってマナを吸収するイメージもしたけど、障壁魔法のイメージだけだと持続時間はどのくらいなのか、後で検証しよう。
障壁魔法を消して先を進む。
昼頃。ダンジョンに到着した。
ダンジョンの周りは少し開けた広場になっており、中心に人工的な遺跡地下への入り口がたたずんでいた。
えぇ?シードダンジョンって、こういう物なの?
ギルド資料室と『いてこます』から入手した情報には、入り口の見た目に関しては無かったので驚きを隠せない。
調べた情報だと、シードダンジョンとはダンジョンシードが作り出すダンジョン。
ダンジョンシードとは魔物の一種で、マナスポットの地下に通路と部屋を作り出し成長する。
ダンジョンシード自体に攻撃能力は無いが、マナスポットのマナを使い魔物をダンジョン内に出現させ身を守る。
ある程度魔物が集まると、地上の周囲を縄張と主張するためなのか、魔物が外に出て近隣を荒らす。これはスタンピードの一種だそうな。
知性があるのかは不明。
シードダンジョンの強さはマナスポットの強弱に比例する。
ダンジョンシードには個性があるのか、出現する魔物には偏りがある。
調べた基本情報はこんな感じ。
「思ってたダンジョンの入り口と違うな」
『こんなもんすよ。木の洞とか、崖の穴なんて見た目のもあるっす』
「へー。いろんなダンジョンがあるのね」
「今日は、ここで野宿して明日朝から、ダンジョン探索しようか」
「ここで野宿って平気なの?」
「ダンジョン内に冒険者が入ってるって聞いたので。魔物が出てくることは無いと思う。それに『あんこ』がいるから、出てきたらすぐ教えてくれるよ」
「さすが『あんこ』頼もしいわ」
早速、野営の準備を始める。
時間もあるし、ちょっとしたダンジョンアタック用のキャンプを作ろうかと思う。
ここはマナスポット。マナには多分困らない。
障壁魔法で、ちょっと広い範囲を囲んでおく。
作るのは周囲を壁で囲まれたセーフゾーン。
高さ二メートルぐらいの壁を四方に作り、出入り口用に穴を開ける。
扉は作れないので、移動可能な木槍の防護柵を並べる予定。
天井は作らず、半分ぐらいをインベントリで作った木の板を並べた。雨よけにはこの程度で良いよな。
もちろん、石でできたテーブルに椅子、竈も作ったよ。
そして少し離れた所に、闘技場で作ったトイレも作る。
ナタリーさんには使用する時は必ず一声かけてもらうことにした。
恥ずかしいかもしれないけど、あんこが居なかったら俺が索敵魔法で、安全を確認しないといけないからね。
昼食をアタックキャンプで簡単に済ませ。まったり過ごす。
ダンジョンに入る前に長めの休憩って感じ。
あんこは食べ終わったら、遊びに出かけた。
美味そうな肉を獲ってくるだそうな。時間もあるし好きにさせてあげた。
ナタリー用に買ったつもりのショートスピアだが、矛先が見ていて危ないので、ロングスタッフを作ることにした。
身長と同程度で、先にはちょっと大きめの球が付いている感じ。
インベントリは木を削る加工は出来るんだよね。
組み立てが必要なものは出来ない。
なので、出入り口用の木槍の防護柵をこれから作るんだけど。うまく組み立てられるかが問題だったりする。まぁなる様になるか。
なんとか木槍の防護柵が出来上がり。入り口に設置。インベントリに回収できるので退去時は回収しよう。
ダンジョンをチラッと覗いてみた。真っ暗である。
・・・やべぇ。当たり前のことすぎて、すっかり考えていなかった。
魔法で照明を確保するとして、どこに魔法をかけるか?現在分かっていることは物を光らせることが可能であること。
試しにナタリーのロングスタッフの先に、持続性を持たせた照明魔法をいイメージする。良い感じに球の部分が光る様になった。
俺用のも作ることにする。二本もあれば影で見えないって事にはならないだろう。
しばらくして、あんこが大物を咥えて戻って来た。
黒い牛だった。
「そんなでかい物よく持ってこられたな」
『軽いもんすよ。かさばって邪魔でしたけどね』
「立派な牛ね。解体するの大変だわ」
「魔法で解体するから大丈夫」
魔法で解体はしないが、インベントリに収納して解体する。結果は認識できている牛皮。肉の部位。ホルモン。牛脂。不燃物に。
相変わらず、俺が認識しない部位は不燃物になるな。
大きなまな板を出し、シャトーブリアンを載せる。
「こんな感じにできるので、後は切り分けて調理するだけ」
「すごーい」
『美味そうっすね』
「これシャトーブリアン。牛肉でかなり良いところ」
食べたという記憶はあるけど、遠い昔で味は全く覚えていない。
赤じゃなくて、細かくサシが入っていてピンク色だ。
正直、調理の仕方がわからん。俺にはただ焼くしかできない。
絶対知っている人間が見たら絶句するんだろうけど、どうにもならん。
「夕食にはもう少し時間あるから後でな」
『もう一匹狩ってくるっす。群れで居たんすよ』
「牝牛でよろしく。牡牛より美味しいって聞くから」
『了解っす。まかせてくれっす』
あんこは電光石火で森の中に消えていった。
「あんこも最高。ジャンも最高。私は勝ち組。ぜーったい離れないからね!」
しばらく興奮しているナタリーに抱き着かれながら、エロは禁止エロは禁止と自制したよ。ダンジョンからハンターが出てきたら、いい見世物だ。
しかし、勝ち組か。前の世界の勝ち組の定義はいろいろあったけど。こっちの世界の勝ち組って、どんなのなんだろうね。
そこそこの安定した収入と結婚して幸せな家庭を勝ち組と言っていた人もいた。
大金持ちで、自由気ままに生きている人の事を言っていた人もいた。
男と女でも違うだろうし。よくわからん。
向こうの世界の俺は、勝ち組だったのだろうか?
結婚はしていなかった。普通の会社で平凡なサラリーマン。
趣味も特技も目立つものは無かった。
多分、勝ち組でも負け組でもない。中途半端な状態だ。
こっちの世界の勝ち組を目指してみるのも良いのかもしれないな。




