003_別れと出会い
直近目標『第一異世界人発見』に向けて踏みしめられた未舗装の道を進む。
日は正午を過ぎ少し傾き、午後2時ぐらいだろうか。この世界での時間の概念はあるとして、24時間で1日としているのかも不明だけど。
いまだ第一異世界人発見には至っていない。
「アリシアさん。おなかがすきませんか?」
『そうですね。ではこの先に水辺がありそうなので、そこで昼食しましょう』
「水辺?わかるんですか?」
『はい。この子は嗅覚が鋭いので、水の匂いが分かります。徐々に強くなってきてますね』
水の匂いってどんな匂い?海の潮の香とかならともかく、水って無臭じゃないか。
しばらく進むと本当に小川が見えてきた。
道には橋はかかっていないが、対岸にさらに道が続いていることから、水深はあまり深くないらしい。
『川向うに火おこしした跡がありますね。そこで食事にしましょう』
アリシアさんに続き俺はそのまま道なりに小川に入る。
流れは緩やかで足元をのぞき見すると、ひざ下半分程度の水深でメダカ大の小魚が泳いでいるのが見えた。
「魚はいるのか。小さいけど」
俺たち以外の第一異世界生物である。いままで道なりに進んできたが、生物は一切見ることがなかった。
『動植物は基本的にあなたの生まれた世界に魔物が追加された認識で良いと思います。細かくは違いますが』
「なるほど」
対岸に渡り切って火おこし跡近くまでくる。
火おこし跡は石組がされており簡易的な竈となっており、少し炭が残っていたので、再利用することにする。
燃料はここまでの道中。枯れ木を見かけたときに異次元ストレージにポイポイ入れてきたので、それなりの量がストックできている。竈にストレージから適量の薪代わりの小枝を追加する。
初心者セットには火起こしように火打石と火口も入っていたので、それをとりだし着火を試みようとすると、突然小枝が燃え始める。何事かと驚いていると。
『魔法で着火しました。魔法について説明しましょう』
「お願いします」
『魔法とはマナをエネルギーや物質に変換し、事象を発生させることの総称です。火とは熱エネルギーによって物質が酸素と化学反応した結果ということはわかりますよね?』
なんか化学反応とか始まったが、素直に聞き入ることにし、うなずく。
『今しがた行ったのは、枯れ枝に対してマナを熱エネルギーに変換して加えてあげた結果で、一定の熱量になったため、燃焼という化学反応に至ったという事です』
義務教育な内容なので、理解はできるが。マナをエネルギー変換ってなに?疑問を聞いてみることにした。
「マナをエネルギーに変換して加えるってどうすれば?」
『そうですね。イメージするだけで良いと思います。地母神様の加護は魔法行使の簡略化などにも影響します』
ストレージから小枝を取り出す。
『ではその小枝が燃えるイメージをしてください。マナの変換は試行錯誤して体感した方がよいと思います。加護の影響は解析できる様なものではないので』
手に持った小枝の先に熱エネルギーを加え熱くなって燃えるイメージをしてみる。
すると、イメージ通りに小枝が燃えだした。
燃えだした小枝を竈に投げ入れる。
『後はいろいろ試して、できることできないことを整理していけばよいと思います』
アリシアさんは表情を変えず。出来て当たり前と言った感じで返す。
『注意点としては、マナは体内に蓄積している備蓄分と周囲に存在するマナ。これが無いと魔法の行使は出来ませんので注意してください』
『体内備蓄分は周囲のマナを徐々に蓄えることにより回復します』
ゲームのMPと同じ様に考えれば良いのか。
「マナの体内備蓄分についてですが、枯渇した場合どんな感じになるのでしょう?」
異世界もの定番なのは、気持ち悪くなって気絶するとかだけど。『自己評価』ではMP量わからないしな。早めに聞いておかないと不味い。
『体力を使い果たした時と同じ感じですよ。だるくて動きたくなく睡眠したい感じですかね』
「突然子供がシャットダウンするあの事象が、マナ枯渇ですか。」
気持ち悪くならないのは良かったが、無防備になるのは気絶するのと変わらないので注意しないと。マナ枯渇はやばいという事が分かった。
ストレージから薬缶を取り出し、先ほど渡った小川に水を汲みに歩こうとししたが呼び止められた。
言われるがまま薬缶の蓋を開けると、薬缶上部に水玉が現れ薬缶に落ちる。
『今の魔法は、マナを物理変換して水を作成しました。先ほどと同じ様にマナが水に変わるイメージをすれば良いと思います。こんな感じで魔法は簡単に使えるようになると思います。あなたには科学の知識があるので』
薬缶の上に水をイメージする。ソフトボール程度の水玉が空中に現れたので薬缶で受け、竈に乗せる。
初心者セットには食料として、パンと干し肉。それと茶葉が入っていた。
茶葉は正体不明の小さな麻袋に入っていて、ストレージに入れた時にリスト名で判明した。
適量を薬缶に入れる。この茶葉の淹れ方は不明なので煮出ししてみよう。
しばらくして、薬缶が沸騰する前に引き上げ、木製のコップにそそいでみる。程よい香ばしい香りのお茶ので味もまあまあ。ほうじ茶っぽい。粗熱がとれたら水筒に入れよう。
パンと干し肉は可も不可もない味だった。おなかが膨れれば良い初心者セットだしね。
竈の火が下火になったころ、アリシアさんが立ち上がり来た道。川向うに視線を向ける。
『何か向かってきていますね。馬車でしょうか?』
俺も立ち上がり、アリシアさんの視線の先を見る。
まだ小さいがこちらに向かってきていることは分かった。
「第一異世界人かな?」
『恐らくはそうでしょう。私のお役目もこれで終了です』
「突然ですね」
『説明をしてませんでしたが、私は現地の人族と接触するまで、従者として共にすること命じられていました』
『今後は私が間借りしていたこのフェンリルが従者となります。この子も子供ですが良き友になるでしょう』
『あなたはこの世界では異世界転生者として異端です。神様からの命によりまた顔を合わせることもあるでしょう』
『幸多からんことを祈ってます』
と口早に言葉を並べると。アリシアさんの体が小さくなった。
とはいえ大き目のハスキー犬サイズである。体高は1メートルはあるんじゃないだろうか?
しかも荷鞍の大きさもそれに伴い小さくなり、形も変わった。
えええ!?
アリシアさんだったフェンリルはこちらをまじまじ見て。
「ウォフ!」
中の人がアリシアさんではなく本人?のフェンリルになった?
つまり間借りって言ってたのは、チュートリアル的なことをするためにアリシアさんがフェンリルボディを間借りしていたと?だから『この子』呼びしていた違和感があったのか。
アリシアさんが従者と言ってたから、それなりに長く付き添いしてくれると思っていたんだが。
もっと話して情報入手しとくんだった・・・。
「えと。よろしく?」
フェンリルに挨拶してみる。
するとご機嫌にしっぽをぶんぶん振ってくれた。




