012A_アイ
私の名前は里村愛、17歳。日本の高校に通う普通の高校生でした。
今は異世界のハンターギルドで頑張ってます。
お布団に入って、目覚めたら見知らぬ草原で目が覚めました。
それからいろいろあって、今は自前の馬車で旅をしています。
馬車に大きな止まり木を付け、そこにキッドナッピングイーグルに変身した相棒のパレット。エンペラーイーグルっていう種族なんだそうです。ちなみにキッドナッピングイーグルはダチョウぐらいの鷲です。子供なら掴んで飛んでしまえます。
本当の姿はもっと大きくて、私を載せて飛べるくらいです。
はい、パレットに掴んでもらって何度か空を飛んだこともあります。とっても怖いので、できる限り遠慮させてもらってます。
私がこの異世界で、ここまで生きてこられたのもパレットのおかげです。
ハンターギルドで討伐対象の動物や魔獣なんかをパレットが狩ってくれてます。
おかげで今乗ってる馬車を買って旅が出来ています。
それにパレットは姿を変えれるだけじゃなく、頭良くて念話でお話が出来ます。なので寂しくはありません。
出会ったころに聞いた話では、神様からの指示で私の従者をする様に命じられたらしいです。
私は何をすれば良いのか神様から聞いていないか、パレットに聞いてみたことがありましたが。特にやらなくてはならないことはないそうです。
それで今は、お米とか調味料、食材を探す旅をしています。
この世界に来てからしばらくして、日本食が無性に恋しくなったのです。調味料は塩と、ハーブのみ。美味しいものもそれなりにあるんですが、やっぱり日本人なんでしょう。卵かけご飯。カレーライス。うどん、蕎麦。焼き魚におろし醤油。すき焼きに煮物なんかも。
元々お料理は得意ではありませんでしたが、普通にお母さんのお手伝いとかでしていましたので、ある程度は再出来ましたが、日本でよく使っていたスパイス関連が見当たらず。醤油、味噌などの調味料の情報もありません。
つまり、殆どの日本食が再現できなかったのです。
あ、「ほぼ」うどんは再現出来ましたが、両親共に東日本出身で、『うどんと言えば醤油ベースの出汁』で育ったので納得できていません。
繰り返しになりますが、旅の目的は美味しい食事を作る事ではなく、普通の日本食が食べたいだけなんです。
「ねぇパレット。今度向かう町には、ダンジョンがあるけど興味無いよね?」
『アーティフィカル地下ダンジョンで、なんでもマナスポットを利用して古代の魔法使いが作り出したとか。今は教会が管理していて魔物はおらず、観光地化している』
「そうなんだ。じゃあ私もいいや。暗くてジメジメして、変な虫が居そうだし。市場で食材確認して、ハンターギルドで依頼確認してみよう」
この世界で里村愛は、ただの『アイ』としてハンターギルドに登録し、点々と食材探しの旅をしている。
町を訪れるたびに食材と調味料を探す日々。今だ手がかりも見つけられずにいた。
現在は宿場町のラグニッシュから東の港町ビメリュス向けて馬車で移動中。まもなく地図にある宿営地だ。
今晩はそこで夜を明かすことになる。
そこから後3日もあれば港町ビメリュスに到着するだろう距離である。
転生後、年齢はそのままだが見た目はかなり変わり、平均的な顔立ちの少女から誰もが認める黒髪長身の麗しき美女に変わっていた。
羊飼いの中年女性に拾われ、何とかこの世界の常識やら生きていくすべを学び、日本食を求めて旅に出た。
見た目のせいで途中立ち寄ったハンターギルドでは、いつもパーティ勧誘されるが断り続けている。
断る理由は、旅の目的が食材探しで定住や狩りが目的ではないこと。それに加えキャンピング馬車が手放せないことである。
このキャンピング馬車は一頭引のホロ付きワゴン。キャンピングカーをイメージして、魔道具のコンロやカリアンの水樽を設置してある。
カリアンの水樽は水を作りだす魔道具で、魔石の消費が激しいが砂漠や海上などの水が手に入らない場所での必須アイテムとなっているものである。
魔石はパレットが魔物を狩ってきてくれるので、在庫は十分に溜まっている。
マジックバックを購入すれば事足りる部分もあるのだが、利便性を向上させるために改造している部分もあり、手放すという選択ができないでいる。
宿営地に到着すると、商隊だろうか?すでに複数の馬車が止まっており煮炊きの準備や馬の世話をしている者がいた。
少し離れた所にキャンピング馬車を止め、フードを深く被り商隊に挨拶すべく向かう。
竈で調理をしていた男に声を掛け挨拶する。
盗賊が当たり前のように現れるこの世界で、見えるところに見知らぬ者がいると警戒されるのは常であり、少しでも安心できるよう声を掛けるのが旅人の常識となっている。
「ハンターのアイと言います。そこの離れた場所を使わせていただきます。何かあれば声をかけてください」
「商隊副長のゴランだ。よろしくな。商隊長はあそこだ」
ゴランが指をさした先には、荷馬車に点検だろうか。車輪の下を覗き込んでいる初老の男がいた。
頭を下げ、商隊長の元へ向かう。商隊長はこちらに気づき立ち上がる。
「ハンターのアイと言います。そこの離れた場所を使わせていただきます。何かあれば声をかけてください」
「商隊長のバークスだ。お前さん一人か?良かったらもっと近くでかまわんぞ。王都御用商隊のうちの隊には不埒者はいないからな」
「よろしいのですか?ありがとうごさいます」
「なぁに。ハンターが近くに居れば、枕を高くして眠れるってな。ちょっとした魔獣なら狩れるんだろ?女一人で旅してるぐらいだし」
「もちろん。従魔のキッドナッピングイーグルがおりますので、こうして一人旅が出来ています」
「誘拐鷲が従魔?それはすごいな。それなら賊も寄ってこないだろ」
「ええ。盗賊に襲われたことは一度もありませんし、この辺の魔獣なら寄ってきません。ではよろしくお願いします」
商隊長に挨拶もしましたし。野営の準備をしましょうか。
キャンピング馬車に向かいパレットに問題ない旨を伝える。
夕食は宿場町ラグニッシュで下準備済みの、塩ダレに付け込んだ七面鳥の胸肉ですよ。これを魔道コンロで炙り焼きましょう。
パレットには角ウサギ。道中見かけてうまく仕留めることが出来ました。
苦手だけど内臓は捨てて、血抜きと皮剥ぎはしてあります。
ウサギと言っても結構大きくて。子豚ぐらいあるんですよ!それをパレットはぺろりと食べてしまうんです。
食後はお方付けして、キャンピング馬車で横になります。
いつものようにパレットに夜番をお願いして就寝です。
旅道中の朝は早いの早寝は基本です。