110_かご罠
俺たちが宿泊するのは、旅行に出発した時にお世話になった宿。
俺はこの宿に宿泊するのは三度目になる。
初回は初めてビメリュスに到着して、エンバさんの紹介で。
ナタリーと出会う前の話になる。
三度目の宿泊ともなると、顔を覚えられているので、何かと動きやすい。
今日の『あんこ』はコボルト達による接待に出向いており、宿に泊まるのは人族とアロメダとなる。
ブラックウルフ達は、『あんこ』と共に接待を受ける様だ。
晩御飯はと言うと、ミカエルとナンシーは魔道学園を退学になった後、冒険者になったビリーとの飲み会に出向いている。
残った俺、ナタリー、ヘルミナ、アロメダは宿の中庭を借りて、夕食を共にすることにした。
もちろん料理などせず、宿が作ってくれた料理をアロメダと共に食べるのが目的。
この中庭には、宿泊客も立ち寄れない様に宿側が配慮してくれている。
このおかげで、俺はアロメダとも普通に会話ができるのだが、ナタリーやヘルミナが話の内容が分からないのはよろしくないので、念話で話をする。
「もう旅はほぼ終わった様な物だけど。どうだった?」
かしこまった内容ではなく、あくまで雑談だ。
正直俺の感想は、家族がかなり増えたって事が、気を重くした旅であった。
『あんこ』を筆頭にナタリー、ヘルミナ。ミカエルにナンシー。
ブラックウルフのパパウルフ、ママウルフ。ファウラ、ツービー、サーディとスエ。
そしてアロメダだ。
うちの家族ではないがアイさんの家族も増えた。
パレットと『みなも』だ。
それに、養うと言えばホルスタイン達。十二頭。
エンバさんとの話で、内四頭はコボルトの集落で飼われるらしい。
「家族が一気に増えたよなぁ」
「家族?そういう言い方もできるのかしら。大家族ね」
ナタリーが笑顔で答える。
「養える男気があるのだから、何も問題ないわよ」
そう答えるのはヘルミナだ。
彼女は娼館を営業しているから、多人数には抵抗がほぼ無い。
娼館自体、家みたいなものだしな。
ブラックウルフ達は当面俺の家でナンシーと暮らしてもらう予定。
流石に、学園の部屋には連れていけないし。娼館に全員は無理だ。
アロメダはどこで暮らしたいか。それをヒアリングしとかないとならない。
見た目が馬だけに、最終的にホルスタイン達の牧場になるのか。
はたや娼館の馬房になるのか。本人の意見も聞いておきたいのである。
『アロメダはどこで生活したい?いずれホルスタイン達の牧場もできるけど』
『私はジャン様の従者です。おそばに居たいと思います』
『あまり従者こだわらなくても良いからね。とりあえずは向こうに着いてから判断で良いかな』
俺から話を振っておいてなんだが、大きな体だと、人間の居住空間として作られた建物だとどうなんだろうか?と考えてしまい、結局保留にしてしまった。
ヘルミナ曰くアロメダが娼館に住むのなら、少し厩舎を増築した方が良いのかしらと、話が出たのも理由だ。
実際アロメダには、ナタリーやヘルミナの移動の補助で、活躍してもらうつもりでいるので、牧場など遠距離ではちょっと不便になるんだよな。
まぁ成る様になるか。
夕食を終えた俺たちは、部屋に戻り、久々のお楽しみタイム。
ワインとちょっとしたツマミを楽しみながら。夜が更けるまでイチャイチャしてから就寝。
内容はもちろん非公開だ。
翌朝。スッキリ目覚めた俺は。宿の中庭で、久しぶりに早朝訓練をすることにした。
自主トレ用の鉄棒を振り回し。基礎体力の向上を目指す。
攻撃の型なんぞ知らないので、とにかく筋肉が乳酸で疲れるまでブンブン振り回す。
ランニングとかもやるべきなんだけど、今のところやっていない。
ナタリーが朝食のお誘いで、中庭までやってきたので、早朝訓練を切り上げ、洗浄魔法でスッキリして、宿の朝食をいただく。
昨日仕掛けた『かご罠』を回収するまでには時間があるので、何かしたいことはあるかナタリーとヘルミナに確認する。
彼女たちからは、要望が何もなかったので、町をぶらぶら散歩することにした。
市場をひやかし。ちょいちょい食材などを補充する。
そしてハンターギルドで、旅行中に仕入れた魔物の討伐部位や戦利品の一部を売却。
数が多いので、一部しか売却できなかったが、王都に戻っても少しずつ売り払ってインベントリを片付けないとな。
昼食を挿み、漁船の船長と合流。
船がそこそこ大きく『あんこ』も乗船できる大きさだったので。ナタリーとヘルミナも乗船する。
そして『かご罠』を仕掛けたポイントに何事も無く到着する。
「あの樽?」
ナタリーが指を指す。
「そう。あれに帰りに作っていた『かご罠』を沈めた場所」
浮き樽に船が徐々に近づく。
そして、俺は樽を引き上げる。子供の体にや結構きつい。
何とか引き上げて、続けて『かご罠』の引き揚げ作業に入る。
重い。これは改良が必須だわ。
そう考えながら、ナタリーとヘルミナが手伝ってくれたおかげで、少し楽に最初の一個目を引き上げる。
「覗き込まなくても分かるぐらいに、何か入っているな。とにかく全部引き上げてから確認しよう」
今すぐにでも確認したい気持ちを抑えて、全ての『かご罠』を引き上げる。
引き上げ後半には船長も手伝ってくれた。
俺達三人は引き上げ中盤で、腕がパンパンで助けを求めたからなのだが。
しかし流石は本職の漁師。網の引き上げで、さんざん腕を酷使しているだけの事はある。ひょいひょいと『かご罠』を引き上げてくれた。
「虫と小魚だな」
船長が『かご罠』の覗き込み。捕れた獲物を評価する。
虫?海中の虫ってなんだろ?フナ虫?
木箱をインベントリから取り出し、『かご罠』の中身をすべて出す。
予想道理の展開に俺は大満足になった。
蟹、海老、根魚。この三種が大量だ。そこに一匹の蛸が。
そうか。蛸壺漁ってあるもんな。と納得してインベントリに収納していく。
船長にはもちろん。マジックバックに収めるふりをしながらだ。
「そんな虫どうするつもりなんだ?」
「虫?蟹と海老のこと?」
「そうだ。そんな気持ち悪い物どうする気なんだ?」
そうだったロックキャンサーが市場に出てこない理由。
形状が駄目なんだろうな。余計な事を言わないでおこう。
「研究用だよ」
「そうか。研究用か」
船長はそれ以上突っ込んでは来ない。魔道学園生徒の研究。触らぬ神に祟りなしなんだろうな。
ナタリーとヘルミナは、事情を知っているので何も言わず。俺が収納するのをただただ眺めている。
そして船長が船をビメリュスに向け移動させる。
俺はにやけそうな顔を必死で誤魔化しながら、思いにふける。
蟹は小ぶり過ぎて出汁か唐揚げにしかならなそうだが。
蛸と海老。これはとても良い大きさ。
王都に戻り次第。アイさんと相談してどんな料理にするか考えよう。




