011_和食へのあこがれ
翌日。宿では特にイベントは発生せず、すんなり宿泊でした。
獣魔を連れた宿泊客はそれなりにいるらしく。あんこも厩舎ではなく同じ部屋で就寝できた。
ただ、料金はそれなり?で大銀貨3枚もしたが。まぁ日本円で3万円と考えれば妥当な気もする。
宿での朝食を済ませ、一旦ギルドに向かう。顔を出せと言ってたが時間指定はされていないのでさっさと面倒ごとは済ませてしまおう。
ギルドでは昨日の会議室で、ギルドマスターとラッセンのおっさんに囲まれる。今回はあんこも一緒だ。
「昨日確認したスタンピードについてだが。帰投した後に職員を現場に送り、夜通しラッドの確認をさせたがスタンピードの兆候は認められず。収束したと確認ができた」
「次に報奨金だ。ラット1匹分とスタンピード討伐分。調査協力費合わせて金貨5枚。ラッド単種によるスタンピードは例がなく、それほど脅威がない魔獣なところもあって既定の金額ではないが、納得してくれ」
「納得も何も。くれるものは貰っときますよ」
テーブルに金貨が置かれた。数えて小銭入れに入れる。
「ラッドによるスタンピードの発生原因については調査継続するが、何か心当たりとかないのか?一般的にはダンジョンなどマナ溜まりが長期放置されないと、発生しないのだが」
「マナ溜まり?」
「近づくと気分が悪くなる場所だ。靄が見えたり、歪んで見えたりする。魔法が使えるのにそんなことも知らんのか?」
「魔法は使えすけど、勉強は嫌いなんで」
「まぁいい。それでどうだ?」
「ここ最近気分が悪くなったことは無いですね」
「そうか。スタンピードが収束してしまった以上、マナも霧散してしまっただろうし。直近の再発は無いだろうが、今後注意しなくてはならないだろうな」
面倒ごとが増えたと言わんばかりの顔でギルドマスターはぼやく。
その後。雑談もそこそこにギルドから出る。特に用もないしな。
「あんこ。昨日聞いたビメリュスに行こうかと思うんだ。よってこれから食料の買い込みを行う。資金も潤沢だ」
『了解っす』
「まずはバシャードさんの店に行って、インベントリ隠蔽用の袋とか先に買っていこう」
買い込んだのは革製ショルダーバック、中サイズの麻袋2枚、ベルト、ベルトに着けられるポーチ。ベルトポーチは、昨晩考えて実験した魔石入れにするつもりだ。小銭入れを紐で腰に括り付けた状態で、魔石を使用した魔法が行使できるか確認したらうまくいったのである。
続いて食料調達である。場所はバシャードさんに確認済みで、少し離れた所に市場があり、商人相手の卸売りだけでなく小売りもしている店もあるそうだ。
市場に到着し、軒並みを見て回る。店頭に並べてある野菜を見ると、前世の野菜と見た目はあまり変わりがないように見える。ジャガイモ、玉ねぎ、人参、キャベツ・・・。
「見たことがある野菜が並んでるな。もっと奇抜な見た目の物が並んでいるのかと思っていたんだが」
『わかりやすくて良かったじゃないですか。主も何か料理できるのでしたら、迷わないで済むっすよね』
「確かに。絶対カレーとか食べたくなる。向こうじゃスパイスから自作してたしな。なかったら作るしかない」
『カレー?旨いんでしょうな。力説してるぐらいだし』
「うむ。ビメリュスは港が在り、食材もいろいろ入ってくるだろうから、そこでカレーの存在有無がはっきりするだろう。」
一通り物色した後。常備野菜を多めに買い込んでいく。冷蔵庫は無いがスープを入れた時にインベントリ内では温度変化しなかったので、あわよくばインベントリ内は時間経過しない事。状態変化しないだけかもしれないが、鮮度が維持されるのを祈りつつである。
買い物し路地裏に隠れて、買ったものをインベントリに収納するを繰り返し。1週間程度の食材の備蓄は出来ただろう。調味料も忘れていないが、塩と数種類の乾燥粉末ハーブしか手に入らなかった。ターメリックやらクミンやら、カレーのスパイスに加えたい香辛料は無かった。
市場を見ていて気になったのが魔道具と呼ばれている道具類だ。魔石をエネルギーとして使用する道具のことだ。俺も持っていた初心者セットに入っていた魔石ランタン。これは魔石を電池代わりにして明かりを灯す魔道具。光っている部分が魔石で簡単に取り換えられる。こういったものが市場のいたるところで確認できた。照明、保冷箱、コンロ、暖房器具。製造できる職人が少ないらしく価格はかなり高め。魔道具は貴族など金持ちが所有する物になっているらしい。照明に関してだけは、あまり難しい技術は必要でないらしく、町に1つは照明工房があるらしい。
肉に関しては、鳥、豚、牛と定番の肉が畜産されていることが確認できた。魔物の肉も市場で確認できたが割高だ。定番の肉より旨かったり、栄養価が高いとかなんとか。
「カレーの存在が確認できなかった。米もなかった。醤油、味噌も確認できなかった・・・」
『そこまで落ち込みますか?』
「日本食が食えない。この悲しさが分からないと言うのか?」
『食ったことないですし。その米とか味噌とかどんな食い物っすか?』
「米は穀物。麦とか豆みたいなもの。味噌は調味料」
『メジャーじゃないってだけかもしれないし、ビメリュスに行けば手に入るかもしれないっすよ』
「それもそうだ!さくっとビメリュスに向かうとしよう!」
もうトイプの町には用は無い。自由に生きるったって今までの食生活が変わるのは、悲しいと通り越して死活問題に近い。精神的にやばい!想像がつく。日本人なら米騒動を想像すれば良いだろう。老若男女情報に踊らされ。我先にモラルを無視して買いあさったあの米騒動を。
生きてはいけるが、寿司がない。カレーライスがない。卵かけご飯すらない。俺は耐えられない。絶対闇落ちする。
生きていく上での柱の一つがはっきりした。前世で食べていた食料の発見&確保。これが優先事項だ。