106_甲殻類
さあ出発だ。
俺たちが乗る船は一隻。
アイさんが乗ってきた船は、既に通常の物流の仕事に戻っている。
この船は、俺が乗ってきた船で、トローリング用の樽型リールを設置した船である。
古代米を無事手に入れて俺は満足。
ナタリーやヘルミナも旅行が無事終わりそうなので満足。
『あんこ』もちょい強めな、魔物とやりあえて満足。
アイさんもカワウソを両親と引き合わせて満足。
そして今船が動き出すのを待っているわけだが。
何故かアイさんの連れのカワウソが甲板に居る。
「あれ?そのカワウソなんでここにいるの?」
「王都に帰るからに決まってるでしょ」
「いや。親元に帰る事ができて、お別れになると思ってたんだが」
「それね。私もそう思っていたんだけど。無事が確認できたから、新天地で頑張れって」
「なにそれ」
「そろそろ『みなも』は独り立ちの年齢らしいわ」
つまり、カワウソの住居問題は解決してないのかな。
円満にアイさんの従魔となった訳だし。これで良いのかな?
船の周りに張り付いているカワウソにも確認してみる。
たまに顔見世に来てくれると嬉しいらしい。
アイさんが『みなも』と名付けたカワウソにも聞いてみる。
頑張る!らしい。なんか無口だな。大人しい性格なのかもしれない。
出航までにまだ時間が掛かりそうなので、カワウソに疑問に思っていた事を聞いてみる。
食料についてだ。
蛭によって生物がこの湿地から駆逐されてしまい。食べ物が無くなったんじゃと思ってたからだ。
そうしたら、良く考えれば分かる回答が返ってきた。
海には魚がいっぱい泳いでいると。
そもそもの話。蛭は塩に弱いって話をミカエルに聞いていたっけ。
奴らは海には手を出せなかったんだろう。
ならば何の問題も無いよな。
近海には様々な生物がいるし。
魚はもちろん。貝、蟹、海老・・・。海老!
カワウソに大急ぎで確認する。
『すまん。急ぎ確認なんだが。こんなハサミを持った生き物すぐに取ってこれる』
俺はインベントリからロックキャンサーのハサミを取り出す。
『あれかな?ちょっと待っててください』
船に張り付いていた数匹のカワウソが海に潜っていく。
コボルトの船員に出航はちょっと待って欲しいと伝えるのを忘れない。
しばらく待つと、人間の大人サイズの海老を持ってきてくれた。
『これとか。ハサミがすっごく小さいやつもいますが、どうですか?』
『素晴らしい。ハサミが小さいのも取ってこれる?』
『ちょっと待ってくださいね』
受け取ってインベントリに収納し確認する。
ジャイアントロブスター。いいねいいね。海中にも甲殻類が確認できた。
何としても海の食材を手に入れる術を考えなくては。
「さっきのロブスターですか?」
アイさんが気になって聞いてきたようだ。
「うん確認したら、ジャイアントロブスターだって。今他のも取ってきてくれる様にお願いしたところ」
満面の笑みのアイさん。海老だもんな。こっちに来てから食べた事無いだろうし。
でも本当に欲しいのは前の世界でいた様な大きさの海老。
多分調理では大きすぎて常用しにくい。
たまに食べる分には嬉しいけどさ。
そうして待つ間に、アイさんとロブスターの調理方法について盛り上がっていると。カワウソが別の甲殻類を持ってきてくれた。
伊勢海老である。
これはサイズ的に程よい大きさ。触覚無しで三十センチ前後。
カワウソ的には小さくて捕まえずらいらしい。
有難く受け取りインベントリに収納する。
そしてさすがに時間切れだ。
カワウソには感謝して、別れの挨拶をしてから出航だ。
少し後をついてきたカワウソ達は、名残惜しそうに立ち止まり見送る事にした様だ。
そんな彼らを俺はずっと甲板から眺め、少しづつ小さくなり。そして見えなくなるまで甲板に居た。
まぁ正直近いうちに戻ってくることがほぼ確定しているし、付き合いもそれほどじゃないので心象に浸る事は無かった。
戻ってくる理由。
そりゃ海産物の、しかも甲殻類の入手方法が現在カワウソ達しか思い当たらないので、必然的にそうなりそうなのだ。
「この海に戻って聞いて、海老を入手するには一カ月かかるのか」
独り言をつぶやくと、アイさんから思わぬ回答が返ってきた。
「パレットで空輸してもらえるから。私たちが食べる分なら、いつでも手に入れられるよ」
ああ。そうだった。カワウソのコネクションが出来て、パレットの空輸。
パレットなら一日で往復出来て、念話で話せる。
カワウソへの報酬さえ明確に出来れば取引はいつでも可能なんだ。
道理で、喜んでいたわけだわ。
対して俺は、目の前にぶら下げられたニンジンが如く。見つけたのに手に入れるための難題で微妙な感じになっていた。
うん。切り替えて素直に喜ぼう。
全て自分で解決しなくても、良いんだしさ。
ロブスターと伊勢海老が食べたくなったら、アイさんにお願いすれば解決だ。
少し落ち着いた後。
カワウソのご飯に提供した魚を補充すべく、コボルト達にトローリングで魚を釣り上げて欲しいとお願いし。
俺は別の作業に取り掛かる。
漁で使う籠の作成だ。
かご漁。シンプルだけど小物のエビやカニ。小魚を捕まえる罠である。
籠の中に餌を固定して、入ってきた獲物が逃げられないようにするだけ。
魔物も居る世界だけど、頑丈に鉄で作ると重くなるので、木材と麻縄で作る。
形は正方形の板を張り付けた箱。
上部に獲物が入る穴。底と側面は海水が抜ける小さな穴を無数に開ける。
これじゃ浮かんでしまうので、適当な石を箱に入れて重りにしよう。
引き上げる事も考えて、調整は必要だろうけどさ。
出来上がったのは籠ではないが、今できるのはこんなもの。
それを十個ばかり作っておく。
船が止まった時にでも仕掛けようと思う。
失敗する可能性の方が高いだろうけど、やってみない事には手ごろな大きさのカニやエビは現状では手に入らないからね。
そうしているうちに、甲板にはまた大量の魚がコボルト達の手によって釣り上げられている。
全然すれていない海なので、いつでも大漁になるんだろうな。
そんな事を考えながら、俺の分はもう良いよと声を掛けて、インベントリに収納する。
話によると、俺たちをブルンドの港町に下ろした後。このトローリングで小遣いをかなり稼げたらしい。
ほどほどにねと一応声を掛けておく。
目立つとろくなことが無いからね。




