099_カワウソ
コボルトの手配してくれた船に乗ってアロメダが戻って来た。
旅の初めに初めて乗船した船だった。
その日のうちに馬車ごと船に乗せ、大河を下り海に出る。
洋上にて西に舵を切り半日ばかり。予定している漁村の前にたどり着く。
しかし、遠目から見ても漁村の状態は壊滅的であった。
魔道望遠鏡を取り出し、状況を確認する。
建物は全て倒壊しており、人族の姿は見受けられない。
日もだいぶ傾いており、上陸しての調査は明日朝という事で、一晩船の上で過ごすことにした。
何があったのだろう?人族が消息不明になっている件と何か関係があるのだろうか。
少し不穏な夜を明かすことになった。
翌朝。上陸するのは俺、『あんこ』、ファウラ、ツービー。
そして、コボルトの水夫が四人。
水夫は漁村の状況確認と俺たちの送迎の船を担当する。
アロメダも上陸したそうだったが、地面がぬかるんでいる湿地帯に足を運ぶ予定なので、船で待機してもらう事にした。
見た目は、馬そのものなので、自重がかなり重いので、ぬかるみでは機動力がガタ落ちになる、
俺や『あんこ』達なら、まだましだろうとの判断だ。
小舟二艘に分かれて漁村の桟橋に着ける。
水夫一人は船の番に残り。俺たちは漁村に足を踏み入れた。
やはり人影はなく、地面に黒い血痕がいくつも確認できる。
しかし、遺体らしきものは見当たらない。
「暴漢に襲われたのでしょうか?」
水夫のコボルトの一人がつぶやく。
建物を全て倒壊させるような暴漢が、遺体を片付けるものだろうか?
スライムやラッドなどのスカベンジャーが掃除をしたのだろうか?
いやいや。怪我人が出ただけかもしれない。
住民が健在だとい思う事にする。
倒壊した建物を覗き込み。何か手掛かりになりそうな物を探す。
『変っすね。周囲に魔物の気配が一切ないっす』
俺も探知魔法のマナサーチを使ってみる。
確かに生物とか、魔物にあるマナの気配が全く感じられない。
しかし、少し離れた所にマナ溜が確認できた。
「マナ溜があるな。あれが何か関係しているのか?」
マナ溜まで距離にして一キロと言ったところか。
俺たちはマナ溜に向け歩く。徐々に靄が濃くなってくる。
途中から足場がぬかるみ始める。
「これは俺と『あんこ』で確認しに行った方が良いかな」
「すみません。こうもぬかるんでいると、我々コボルトだと進むのに時間が掛かります」
そうコボルトの身長は俺より低く一メートル前後。
既に股辺りまで水につかっている。
俺は膝当たりだが、『あんこ』に騎乗することを前提に考えているので、機動力の低下は考えなくていい。
コボルト達が引き返すのを見届けて。残った俺、『あんこ』、ファウラ、ツービーはマナ溜の中心に向け、さらに歩を進める。
最もマナが濃くなっているであろう場所までやってきた。
「マナ溜って、前にスタンピードが発生する予兆とか原因とか聞いた気がする」
「そうっすね。この辺に住む魔物を凶暴化させて、同種の魔物がどこからともなく現れるっす」
「湿地のスタンピードは勘弁かな。『あんこ』達はどう?」
「このぬかるんだ地面だと、動きづらいので、どちらかと言うと嫌っすね」
「じゃマナ溜のマナをどうにかする事を考えるか」
とりあえず『あんこ』達が水につかったままだと可哀そうなので。セーフハウスを作ろう。
ちょい広めのストーンデッキを作り、水から上がる。
俺は『あんこ』から降り、周囲のマナを大量に消費する方法を考える。
魔法を使えば良いんだろうけど。何を使おうか。
根っからの貧乏性なので、無駄遣いとかあまりしたくないのである。
しかし何も思いつかないので、金塊でも作っておくことにする。
しばらくして無数のキューブ状の金塊が、ごろごろストーンデッキに転がる。
それをインベントリに収納。
少し靄が晴れた。相当数の金塊を作ったつもりなんだが、まだ足りないらしい。
さらに作業を続け。こんなものかと納得できるぐらいに靄が晴れ。休憩とばかりに作り置きのお茶を飲んでいると、『あんこ』が何かを察した様だ。
「何か来るっすね・・・。どうやらクリーピングオッターっす。なんか殺気だってるっす」
「あのでかいカワウソか。ちょっと障壁魔法使ってておくか」
子供サイズしか見た事無いけど、大人サイズが突っ込んできたら厄介なので、あらかじめ魔法を使っておくことにした。
しばらくして視界に現れたクリーピングオッターが障壁にぶち当たる。
正直腰がぬけそうになる怖さだったが、踏みとどまったよ。
トラックが突っ込んでくる恐怖。まさにそれだった。
もろに顔からぶつかり、痛そうに藻掻く一匹の後ろに続くカワウソ達は、停止することに成功し、こちらをにらみ警戒する。
「いきなり攻撃してくるとは、知能が無い魔物なのか?」
『あんこ』に聞いてみる。
「人族に対してそこまで攻撃的じゃなかったはずっすが。なにかあったんすかね」
俺の障壁魔法を知っている『あんこ』は身構えもせずに、攻撃してきたカワウソを眺める。
ちょっと話しかけてみるか。
「なにがあったか知らないが。俺たちは関係ないぞ」
俺がカワウソの言葉を話したことに驚いた様だが、警戒は解かず俺たちを囲んだままだ。
「我が子を返せ。さもないと貴様らも奴らの餌だ」
いきなり気になる言葉が出たな。
『我が子を返せ』って、知っているクリーピングオッターは従魔市場で売っていた、アイさんが購入した一匹。多分ビンゴ?
それと、『奴らの餌』とはなんだ?
「あーまず。お前たちの子って。人族にさらわれたって事であってるか?」
「貴様。何をぬけぬけと。知っている時点で貴様らが関係者と自白している様な物。さっさと子の元へ案内しろ」
今にも飛び掛かりそうな勢いで発言する。
「無関係なんだが。お前たち種族が珍しく。遠く離れた場所で見かけたのを覚えていただけだ」
「そこはどこだ」
「だから。遠すぎて説明しようがない。それにな。知り合いが助けたみたいだから、その子供本人に確認すればいいさ」
牙をむき出しにした威嚇行動が止まり。まともに話を聞く気になってくれた様だ。
俺は障壁魔法を使ったまま、現状分かっていることを説明する。
従魔市場で見かけた事。
知り合いが手を差し伸べ保護した事。
未確認だが、大切に扱われている事。
これはアイさんなら乱暴に扱うなどしていないだろうと憶測だけどな。
『奴らの餌』の発言は気になるが。とにかくカワウソが落ち着くまで説明を続ける。
最後に、カワウソの子の現在が確認できる術を持っているが、俺達に危害を加えないと約束するのならば確認し、協力もしようと説明を締めくくった。




