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093_ケンタウロス

「若いのが申し訳ありません」

老婆土下座。なんか俺が悪者になった気分だ。

「頭を上げてください。貴方は何も悪くありません」

老婆の身を起こすのを手伝いながら。考える。

部下や若い者がポカやると、上の者は苦労するなぁ。

果たして、あのケンタウロスの男は反省するのだろうか?

俺もこんな事が起こらない様に、何かしでかしそうな従魔達に小言を言っておこう。

アロメダがキレやすい事も分かったし。これ以上面倒なイベントが発生しない様に、あらかじめあのケンタウロスの男を我々に近づけない様にしてもらう事にした。

そして、用意された料理に手を付けながら、ケンタウロスの男について説明を受けた。

あの男は、この草原でレイジングホースに託された孤児らしい。

で、当然アロメダもあの時のガキかと認識していたらしい。

双方の話から導き出した結論は、なかなかひどい内容だった。

まず。レイジングホース側では、拾い育てたは良いが、手に負えない悪ガキで、暴れるし言葉も通じないしで、ほとほと困り果てていた所に、人族の遊牧民を見かける。

これ幸いと、押し付ける。人族は人族で救済すべきと。

つまり、手に負えないから捨てたって事ね。

次に、遊牧民側。

レイジングホースは頼りになる隣人と言う認識で、嵐や水場を教えてくれたり。時には、はぐれた家畜を連れてきてくれたりと、お世話になっているので、断れなかったと。

この世界でのケンタウロスは猪突猛進。

遊牧民側でもそれが分かっていたので、トラブルが発生する前に、何度か町の孤児院前に放置してきたのだが、舞い戻ってきてしまうので、仕方なく年長者の老婆が育てる事になってしまったと。

世知辛いねぇ。

あの男もいい歳だろうし、素直に追い出せばと良いのでは?と聞いてみたが、八つ当たりで暴れられるのが恐ろしく、何も言い出せないのが現状らしい。

そして、追い出す方法は無いだろうかと相談されてしまったよ。

追い出す方法ねぇ。

わらわらと、被害者である遊牧民たちが集り、話に参加する。

そんなに切羽詰まってるのに、なぜ自分達でどうにかしないのかなぁ。

なんか、報酬を払うとかいう話も出てきたよ。

どんだけ厄介者なんだあいつ。

老婆も目を潤ませながら俺に訴える。

あまりにも気の毒になって来たので、少し考えてみる。

俺たちは部外者だから出来る事が確かにある。

遊牧民側は善人ぶっていては追い出せない事は明らかだ。

あの男にとって、自ら外に出て戻ってこなくなる様な話は無いだろうか?

「質問なんだが。この辺りにケンタウロスっているの?」

「見かけた事はあるが。定住してるとは聞いたことがないね」

遊牧民の男が答える。

「あいつ等はずっと南の国住人だったはず。この辺には居ないよ」

「じゃぁさ。南の国なら、お仲間も居て過ごしやすいって話を前面に出すとして。それだけじゃ理由には弱いから。俺たち全員悪になろうよ」

戻ってこれない理由も付けないと、里帰りとか舞い戻ってきそう。

「悪ですか?」

「そう。暴力ではなく。ここまで面倒見たんだから、もういい加減出てってくれってね」

いやそうな顔の面々。

「言い出しにくいだろうから、俺が話を切り出したのに便乗して話すって感じで良いよ。このチャンスを逃すと、一生居続けるんじゃないかな?」

ちょい脅かして、やる気を煽っておこう。


「あの男をここから追い出せたら、群れの者たちも喜びますわ」

アロメダが俺の横に歩み寄ってきて、レイジングホースの現在の内情を話してきた。

何やら結構な頻度で群れにやってきては、嫌がる子供を追い掛け回すらしい。

本人は遊んであげてるつもりなか、本当に迷惑な話との事。

その後もネガティブな話が淡々と続く。

なんか、ケンタウロスの男が哀れになって来たぞ。

空気が読めないにもほどがある。

幸せになるためにも、南の国へ旅立つべきだなこれは。

ケンタウロスの男が目を覚ましたら、早速話をしてやろうじゃないか。

俺は部外者、赤の他人。

何も気にせず正論と事実をぶちかましてあげようか。


しばらくして、ケンタウロスの男が目を覚ましたとの報告が入った。

さっさと面倒事を片付けて出発しよう。

俺は男と対峙する。

「お前はいつもこんな事してるそうじゃないか。人の迷惑を顧みず、恩を仇で返す様な事ばかり。生まれに帰った方が良くないか?」

「なんだてめぇ」

男が、俺の言葉に反応すると。『あんこ』とアロメダが殺気だって歯茎をむき出しにして威嚇する。

「ここの人達に、育ててもらったくせに迷惑ばかりかけてるそうじゃないか。しかもレイジングホース達にも迷惑かけてるって?お前それ分かってる?」

男は殴りかかってきたが、俺は物理障壁魔法を使い無傷だ。

拳が割れたのだろう。痛みに耐えながら睨みつけてくる男を無視し、『あんこ』とアロメダをなだめて、話を続ける。

「ここの人達も、もう限界だってさ。さっさと身支度を整えて直ぐ出て行くことを進めるよ」

「はぁ?何言ってやがる」

俺たちの後ろに隠れながら、ここの人達も声を絞りだす。

「お前が何度暴れて、俺達に迷惑かけたか覚えとらんのか?」

「お前のせいで昔馴染みの行商人も来なくなった」

「息子はお前のせいで、足を引きずる様になったんだぞ」

「レイジングホースが近づかなくなったのは、お前が居るからだ!」

「さっさと出て行け!」

うん。今まで我慢していた気持ちが決壊したな。

流石におろおろしだすケンタウロスの男。

「種族的にさ。この地に住む人族とは合わないんだよ。素直にケンタウロスが多く住む南の国に帰るべきだよ。それにさ。ここに居ても女は出来ないぞ」

これが俺の最後の後押しのセリフのつもり。

ケンタウロス。下半身は馬である。

どう考えてもケンタウロス以外の人族と、つがいになる事は不可能。

「お前もそろそろ男盛りな歳なんだろ?ここを離れて心機一転した方が、お互い良い事だぞ」

男は押し黙ったままうつむいている。

一歩踏み出させないと、うだうだ始まりそうだし。身支度をさせてしまおう。

「こいつの私物を纏めてきてくれ。もう終わったんだ。こいつとあんたたちは、袂を分けたんだ。赤の他人になったんだよ」

俺の言葉で、遊牧民たちは男の荷物を取りに向かった様だ。

「おい。下向いてないでこっち見ろよ。いいか?とにかく南に迎え。お前の居場所はここじゃない。そして女を見つけて子供を作れ。そうすれば今見えていない事が見えてくる」

適当な事を並べてみる。

子供を作れ?女子供が出来たら移動しにくくなるよね。

ここの遊牧民も安心して欲しいので、もう戻ってくるなってのが本心。

そうしているうちに、男の荷物が詰みあがった。

遊牧民らしく、馬一頭に括り付ける程度の荷物だった。

ケンタウロスの男は、無言で荷を背に乗せ大草原の中心に向け歩き始めた。

ふぅ。これにて一件落着。なのかなぁ?

遊牧民たちは、せわしく追い立てられ、出て行ったケンタウロスをしばらく眺めていたが、俺に礼をして各々の仕事に戻っていった。

こっちの世界でも遊牧民は働き者なんだな。

老婆と遊牧民の代表らしき爺さんに感謝され。俺たちも出立することにする。

もちろんケンタウロスの男の拳は、治癒魔法を使って治しておいたよ。

別れ際。遊牧民からのお礼はヤギのチーズしてもらった。

使い道があるから素直に嬉しい。

金銭を手渡してきたのだが、そんないくらでも用立てできるものには興味が無いのが本音なので、代わりにここでしか手に入りにくい物を要求した結果だ。

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