092_遊牧民
二度の野営地での野宿の後。
道を埋め尽くす羊の群れと遭遇する。
「これは進めないな。道から外れて避けるにしても、馬車がスタックしても困るし。どうするべきか」
『あんこ』とブラックウルフに蹴散らしてもらえば楽なんだが。どう見ても野生の羊じゃない。
牧童とか、飼い主とか近くに居ないのかね。
立ち往生したまま、とりあえず休憩することにした。
お茶を飲みながら、のんびり羊の群れを眺める。
こうして普通の羊を見ると、ボーパルシープの異常さが目に付くな。
大きさは約二倍。そしてカラフルな羊毛。攻撃的で群れで特攻してくる。
そもそもカラフルな羊毛が生物として違和感が半端ない。
原色羊毛。さらには金や銀。メタリックカラーなど様々で目に優しくない。
普通の羊は癒されるね。
そうして小一時間たったころ。ステップドラゴンに乗ったヒューマンがやってきた。
「すまないな。気が付くのが遅くなった。今移動させるのでもう少し待ってくれ」
ここでクレームを入れても仕方ないので、素直に待つことにした。
さらに小一時間待たされたが、道横に羊も群れが移動し。馬車が通れるようになった。
それじゃ移動しますか。とナンシーに声を掛ける。
移動を再開して、羊の群れを通りすぎ。しばらく進むと、道から少し離れた場所に遊牧民が使うテント?ゲルだったかな?が立ち並んでいるのが見えてきた。
この大草原。羊の餌には困らないし遊牧するには良い環境なんだろうか。
ここの草は常緑の草で、雪でも降らない限り常に緑色の大地だ。
「ちょっと待ってくれ」
道横に立っていたケンタウロスが声を掛けてきた。
そこの遊牧民なんだろうなと意識を外していたので、ちょい驚いた。
「そのレイジングホースは、どうしたんだ?」
ちょっと上から目線でナンシーに話しかけてきたぞ。
「主の従魔ですがどうかしましたか?」
素直にナンシーはケンタウロスの男の問いに答える。
「ふざけているのか?レイジングホースの従魔?レイジングホースを従魔にすることは犯罪だって分かってて言ってるよな」
知らんよそんな事。そもそも俺は従魔にする気も無かったんだが。
ナンシーはあわあわと馬車に乗っている俺の方を振り向く。
「あー。俺がそのレイジングホースの主ですが。犯罪ってどういうことですか?」
「貴様か。良くもぬけぬけと」
ケンタウロスの男は、大声を出していたので、ぞろぞろと遊牧民が集まってきた。
「レイジングホースが勝手に従魔になりたいと着いて来る事が犯罪なら、そうなんでしょうが。私にどうしろと?彼女を拒絶して、群れから追放される事を見ているのがが正しい行動だったと?」
「ごたごた言ってないで、さっさと馬車から降りろ。この屑が!」
うん。話が通じないタイプだ。誰か通じそうな人が現れないだろうか?
『アロメダ。お前が俺の従魔になる事は犯罪なんだってさ』
『はい?いきなり何を言い出すんでしょうか?』
『このケンタウルスがさぁウザがらみしてくるんよ』
『蹴散らしましょうか?』
アロメダがケンタウロスの男に向けて威嚇し始める。無論ここまでのアロメダとの会話は人語ではないので、俺以外理解できない。
『ちょっと待て、ください』
え?俺は片言の言葉を聞き、そちらに振り向く。
老婆が慌てて話しかけてきた様だ。
『この言葉が分かるのか?』
『はい。です』
老婆が答える。話す方は片言であるが聞き取りは問題なさそうだ。
『アロメダ。この年寄りに説明してやってくれ。多分それが最善だと思われる』
『こいつは絞めなくて良いのでしょうか?』
ケンタウロスの男に対し、アロメダな歯茎をむき出しにして威嚇を続けながら答えた。
『絞めるのは説明してからね』
知能が高い魔物を無理やり従魔にするには、それ相応の高価な魔道具が必要になる。
貴族でも入手することは困難。王族か超が付く豪商でもない限り無理である。
つまり、レイジングホースが従魔となっている時点で。
主は王族。超豪商。もしくはレイジングホース自ら従魔となるの三択なのだ。
なぜに気が付かないのだろうか?
不正に従魔にする?それは知能が低い保護対象の従魔の話しだよ。
アロメダが老婆に説明した後。納得した老婆がアロメダが従魔であることを周囲の遊牧民に説明した。
ただし、アロメダが従魔になった経緯は説明しなかった。
マッチポンプを警戒するのは当たり前だからだ。
ステップドラゴンを大量に放ち、それを討伐して助けてやったんだ礼をしろ!
このマッチポンプを警戒しているのだ。
群れの救世主である俺に、アロメダが代表で従魔となり、生涯尽くす事になったともやっと説明していた。
でだ。主を小馬鹿にしたケンタウロスに対して、アロメダがとった行動は。
ボディに後ろ足蹴り。
想像してほしい。馬が良くやる後ろ足での蹴り。あれがもろに脇腹に突き刺さった。
内臓破裂は必至。良く肉が削り取られて穴が開かなかったよ。
慌てて治癒魔法を使う羽目になったさ。
痛いのは自業自得。人の話を聞かず頭ごなしに決めつけるのは良くないよ。
ケンタウロスは白目を剥いたまま倒れているが放置して、招かれるまま馬車を向ける。
どうしてもお詫びがしたいと老婆に泣きつかれてしまった。
泣き落としは反則だよ。
巨大なゲルの横に馬車を止め。俺たち中に入るとそこは集会場の様だった。
生活雑貨等が全くなく、座布団?かな?絨毯の上にクッションが置いてあるのみ。
「さあ、お座りになってください。ただいま食事をご用意いたします」
老婆に寄り添っていた若者がゲルを後にする。
確かにそろそろ昼食時なんだよな。
ってか。アロメダと『あんこ』&ブラックウルフも入って良かったのかな?
今更か。
向こうの不手際だし、何か言われたらさっさとこの場から引き揚げよう。
旅先だし、こちらが気遣ってももう会う事も無いだろうしな。
『申し訳ありません。やりすぎましたか』
『いや良いよ。死人が出なかったからね。怒ってくれるのは嬉しかったから』
ちょっと気まずそうなアロメダだった。




