091_名前
大草原の中央の分岐路を出立して、港町ブルンドに向け一路東へ。
ブラックウルフたちは、夜遅く戻って来ていた様だが、『あんこ』は朝早く戻って来た。
何か面白い事とかあった?と聞いてみると『この辺の魔物じゃ相手にならないですね』と返って来たよ。
面白い事ってそういう事じゃないんだけど。
それよりもだ。移動中の馬車の中で話し合いが白熱していた。
「そうは言ってもな。俺、名前考えるセンス無いぞ」
「私もありませんよ。飼い主が名付けるのが常識なんです!」
ナンシーが吠える。どうしてこんなに?休憩中もふりまくってるのも関係してるのかな?
「いっそ分かれば良いだけだし。ウルフワン、ウルフツー、ウルフスリーて感じでどよ」
「それは投げやりすぎます!」
「せめて『ひねり』を入れてください!」
『わっちの名前は結構簡単に決めたっすよね』
「いや『あんこ』の名前もな。ペットの名前って、甘い物の名前が定番だったんで、黒いし『餡子』にしたぐらいだぞ」
『まじっすか?珍しい響きなんで、気に入っているっすが。運が良かったんすね』
横を並走する『あんこ』も話題に加わっている。
あんこの念話は俺だけに聞こえているが、俺は普通に話している。
「そういう間接的な『ひねり』でも良いんですよ。というか『あんこ』さんと話してます?」
「ああ、うん。『あんこ』の名前を決めた理由を聞かれた」
「可哀そうに・・・」
ナンシーは頭振りながら、ありえないアピール。
「本人は気に入ってるらしいぞ。珍しい響きだって」
「それならば。って今は『あんこ』さんの話でなありません。ブラックウルフ達の名前です」
「じゃぁさ、ナンシーはどういう名前が良いの?」
「ですから、飼い主が決めなければならないんですよ」
らちが明かない。
そもそもブラックウルフに名前を付ける文化が無かった。
これがそもそもの原因。俺は、もともと呼ばれている名前で良いと考えていたのだ。
そして、道中名前を呼ぶ必要もなかった事もあって。しびれを切らしたナンシーがナタリーに相談した結果がこの状況だ。
「ひねり。ひねりねぇ」
人間みたいに生まれる順番なんて無いしなぁ。
とりあえずここにいる二頭に名前を付ければ、先延ばしに出来るか?
そう思い、ブラックウルフに確認する。
「君たちはオス?メス?どっち?」
俺はそんな事すら確認していなかった。
「二頭とも牝です!」
あや。人語で話してしまったらしい。ナンシーが怒りながら答える。
とするならば、名づけ一頭目、二頭目ってことで。
ファーストから『ファウラ』。
セカンドから・・・。うーん『二』をイメージして『ツービー』。
こんなんで納得してくれるかな?
「じゃ、『ファウラ』と『ツービー』。こんなのでどう?響きは良さそうだけど」
「はい。そういう回答を待っていたんです。で、どうしてその名前にしたんですか?」
・・・。見た目は真っ黒で違いが分からんのに、そんなこと聞いちゃうの?
なにか適当な言い訳・・・。無理だ名付けのセンスが無いのに。理由なんて考えてないよ。
「別にいいじゃない。良い名だよ思うわよ」
俺が困ってるところに差し伸べる救いの手。ヘルミナが女神に見える。
「それじゃ、ナンシーが良く戯れている方が『ファウラ』ね」
これでとりあえず、落ち着けるか?そう思っていたら、今度はレイジングホースの名前を付けなきゃならないらしい。
彼女にもブラックウルフ同様。名づけの文化が無い。
俺に身を捧げる。生贄。たしか神話のアンドロメダって生贄だったよな。詳細は知らないけど。
そのまんまじゃなんだし。ナンシーの言う『ひねり』を加えると・・・。
アロメダなんてどうだろうか?
「レイジングホースは『アロメダ』ね。理由は聞かない様に。後で落ち合うブラックウルフ達は、順次考えておくよ」
とは言え、さっきの名付けポリシーと俺の独断で既に決まってしまっている。
「ぱぱウルフ」「ままウルフ」。三番目の「サーディ」。末っ子の「スエ」。
「ぱぱウルフ」「ままウルフ」については、恐竜育成ゲームで良く使っていたので、俺的にはなじみ深いから、何と言われ様が変更するつもりはない。
並走して話を聞いていた、『アロメダ』には名付け文化の説明など、直接話して了承を得た。
ふぅやっと落ち着ける。
名前を考える。世間の親たちの苦労が良くわかる一幕だった。
俺の名付けはペットに対してだったから、かなり適当でも問題にはならなかったが。
これが我が子となったら、どれだけ悩むことになるのやら。
名前の意味。苗字との語呂。流行など。考えるだけで頭が痛い。
そこにキラキラネーム、しわしわネーム信者が登場したり、いろいろ考えだしたら眠れなくなりそうだ。
前の世界では俺は独り身。経験は無かったが想像するだけで恐ろしい。
相方に全てをぶん投げるわけにも行かず。
子供の将来に関わる事だから、妥当性も考えなきゃならない。
そう、ぶん投げるにしても相方がまともな感性の持ち主じゃないと、子供が将来苦しむことになるのである。
改名はまっとうな理由なら出来るけど、過去にそんな名前だった記憶は消せないんだよ。
今は話はしないが、いづれ俺の子供が出来たら、ナタリー、ヘルミナに任せよう。
きっとまっとうな名前と付けてくれるはず。
やる事やってるし。遠くない未来に苦悩する自分が想像できるのだ。
そういえばアイさんのカワウソも名前考えるんだろうけど。どんな名前にするんだろうな。
興味が出てきたぞ。
俺並みのセンスなのか。それとも・・・。




