001_プロローグ
神は世界を作った。
大地を作り。山、海、砂漠、湖、川そして空。
そこに恒星をを添えて植物を生み出だした。
さらに生物を生み出し、世界を循環させる。神によって作られたその全てが循環する。
進化と退化。食物連鎖。水が海から水蒸気、雨となり川を作りまた海に帰るなど様々な循環。
そこに混沌を循環機構として組み入れた。
するとどうだろう。神も想像しえない物事が起こり始めたのである。
神は思った。楽しいと。自分が考え作ったものは、そのように現れ、そのように動き、そのように消える。
それが当たり前なのだが、混沌を組み込むと思い通りにならなくなる。
以後、神が作り出す世界には必ず混沌が組み込まれることになる。
俺は今人が行き来しているであろう道を歩いている。
幅は2m程度の乾いた未舗装の道である。
太陽は高い位置にあり恐らく昼近くではないだろうか?
周囲は草原というのであろうか、遠くに森が見えるが木々はまばらでかなり遠くまで見渡せる。
側には黒い馬鹿でかい犬。気が付いたら横にいて、離れずおとなしく付いてくる。
首輪はしていないが、荷鞍を背負っており、何か大きな袋を運んでいる。
この犬に気が付いた時、黒かったし毛皮だし熊かと思いあまりの大きさに体がビクッ!としてしまった。
大型の馬並みの大きさで、体高は2mはあるんじゃないだろうか?
そばから離れず荷鞍を背負っていたのでパニックにはならなかったのだが、正直失禁しそうなくらい驚いた。
自分を確認すると、服装はヨーロッパ中世の平民的な木肌色のシャツと丈の短いズボン&サンダル。
手はなんか瑞々しいというか、なんか子供の手である。
夢ではなく現実であることは、すぐ分かった。顔をつねるとか古典的なことをしなくても、肌で感じる温度とか感触だけで判断できる。
さっきまで職場で睡魔と闘いながら徹夜でシステム設計書を確認しながら障害個所を特定してプログラム修正していたはず。
年齢は35歳。持病もなくいたって健康。職場的にはブラックではなく、超緊急の障害が発生したための対応で、日常は平穏で体調的には何も問題なかったはず。
なので病死、過労死転生とかじゃのく、寝落ち転生なのか?
ただ、何が起きたのか?現在科学で証明できないとか、認識されていない事なんでいくらでもあるし。
俺にとっての現実である以上、納得とか理解とかできなくても。あきらめると言うか受け入れるしかない。
でだ、隣の馬鹿でかい犬。こいつはなんだろう?
首に触れてみると、顔をこちらに向けるだけで特に何かする様子もない。ただおとなしく歩いている。
もふもふ・・・。やけに手触りが良い。俺の知っている犬の毛ざわりではなかった。
チンチラとかそんな感じのふわふわすべすべのもふもふである。
でもスタイル的には全身真っ黒のハスキー犬。脳がバグりそうだ。
「犬とは違う毛並みだよな。大きさ以外は犬みたいだけど・・・」
『フェンリルです。あなたの獣魔となります』
「え?なんか聞こえた?」
頭の中に女の声が聞こえた。しかもフェンリルだって。ゲームとかでも最強の幻獣の一角だ。
『念話ですよ念話。今はこの子に体を借りてあなたの前にいます。あなたはこの新世界に転生することになりました。あなたはこの世界で何をしても神はとがめることはありません』
いったい何が始まったのだろうか?突然そんなこと言われても反応に困るのだが。
「質問があるのですが、お聞きしても良いでしょうか?」
「どうぞお聞きください」
「神の意志で私が転生したことは分かりました。強いものに逆らってもどうにもならないことは、今までの人世経験でよくわかっています。ですが、何のために?理由が知りたいのですが」
「この世界は新しく神が想像した世界です。つまり未熟な世界です。あなたという異物を追加することで、どのような結果が生じるのか経過観察するのが目的となります」
「つまり神様の実験ですか。」
「はい。ですので自由に過ごしてください。」
世界を作れる神。つまり創造神の実験ってことだよな。モルモット扱いとは言え、すごいことに参加することになったという事は分かった。世界というシステム構築の実験。何をしてもよいってどの程度のことをしても良いのだろう?可能か不可能かはわからないけど、この世界を壊すとかそういったことも良いのだろうか?
「先ほど何をしても良いとおっしゃってましたが。この世界を壊したとしても良いのでしょうか?」
「かまいません。そういったことも含めての観察となります」
医療従事者からすると、生死を気にせずに治療行為をして良いということ。
システムエンジニアとしては、新しいプログラムをテストもせず導入し、壊しても良いということ。
とはいえ、そうすると俺がどうなるか分かったもののじゃない。ぽっくり逝くのはいいが、痛い思いや辛いことは勘弁である。
「この世界で死んだらどうなるのでしょうか?」
『あなたは元の世界の複製体です。魂や記憶を引き継ぎ、身体はこの世界に合わせて新たに作り出されています。亡くなったら消滅します』
もとから死後の世界なんて、あるのかわからなかったわけだし。消滅でも何ら変わりないのか。
それにコピーされていたとしても、感じ考えているこの体が今の俺にとっては本体以外の何者でもない。
前の記憶がしっかり残っているし、知識チートが出来そうだけどそれも想定内なんだろうな。
それからこの世界の概要説明を受ける。
この世界は剣と魔法のファンタジー世界であること。
彼女の名はアリシア。は神様の指示で、俺の従者として同行することを命じられたらしい。
そして彼女の背中にある荷物は異世界転生お約束の初期装備扱いとのこと。
「名前はどうしよう?」
『あなたの名前は健一さんですよね?』
「せっかく転生したわけですし、名前を変えるのも悪くはないかなと」
親がつけてくれた名前が嫌いなわけではないのだが、せっかくだし変えてみるのも良いかと思ったのである。
「というわけで、名前は「ジャン」。前世ではありふれた名前っぽくて呼びやすいと思う」
あえて和名をやめ、洋風のありふれた感じにしてみる。
異世界コピー転生者ジャンの誕生であった。
普通でいいんだよ普通で。




