第3話『手足を失う』
私は気持ち悪い笑みを浮かべる男達に腕を引っ張られる。
「誰!? どこへ連れていくつもり!?」
「さあね」
それ以降は何も答えずに笑う男達、向かった先には一つの馬車。
馬車? そんなもの日本にはないはず、いや、そもそもこんな荒くれ者がいるわけ……なんて考えてた所で私は、石の混じる土へ押し付けられるように組み敷かれた。
私は組み敷かれたまま髪を乱暴に引っ張られ、土に顔から落とされる。
「あぐッ……!」
薄目で見上げると、私の髪が男達の手元へ。
あぁ、髪を切られたのか。
黒い髪は珍しいだとか、魔法だの魔力だの笑い声が響くが、私には雑音にしか聞こえない。
布切れで縛られる私の髪を見て、母が綺麗な髪だと撫でてくれたあの日を思い出して視界が歪んだ。
不運な事に、チャリと首元のお守りが音を鳴らす。
男達は黒髪から目を離しこちらを向く。
「お前……なにか隠し持ってんな?」
首元のお守り、生地から覗く青いアイオライト。
それを見つけ、ニヤける男。
あぁ、それは。
それだけは。
手を伸ばす男の手を掴み私は叫ぶ。
「クソ共やめろ! これはお母さんの大切にしてた私の……!」
左腕に形容しがたい痛みが走る。
次は、右腕、左足、右足。
「っ……ぁあああああ!!」
叫び声と下卑た笑いが森の中に響く。
この叫びは私のものか? 私はどうした? 何が? 痛い、痛い痛い痛い!!
経験したことの無い痛みに体を抱えて蹲ろうとして、ソレに気付いた。
両腕と、両足が、無い。
口汚く罵った事に腹を立てたのだろうか、私の手足は無くなっていた。
「ひっ、あ、はっ、はっ」
「おい!乱暴に扱うんじゃねぇよ、貴重な黒髪、それも異世界人だろうが」
「だってこのチビ、お頭に生意気な事したんだぜ? 躾は大事だよなぁ?」
「だからってそこまでやる必要は――」
頭の中がチカチカして、盗賊達の声など今の私には届かない。
腕の中が焼けるように痛く、全身に凍えるような痛みが走った。
左足も太ももと言える場所は半分に減ってしまった。
右足は膝の上で切断されている。
左肩に殴られ続けているような強烈な痛み。
右腕は肘から先がなく、脳みそは場違いなことに、肘があれば可動域が広がるなんて事を聞いた事がある、等と思い出していた。
私は一生立つことも出来ないのか? そもそも出血多量で死ぬだろう。
叫ぶことすら許さないその痛みを、私はガチガチと顎を震わせながら鮮明に目に焼き付ける。
出血と四肢の断面を、じっくりと。
目を、逸らせない。
殺せ。
脳内に私のものではない声が響く。
殺せ。殺せ!殺せ殺せ!!
この声は、誰のものなのか。
視界が暗転、最後に男達の叫び声。
「う……」
血の匂いと目の前の惨状に、私は嘔吐した。
男達は頭から爪先まで、見るも無惨に切り刻まれていた。
助かったと思う間もなく、私は再度意識を落とした。
夜が明けた頃に再び目が覚めた。
先程の気持ち悪さもなく、血の匂いに少し慣れた頃に私は改めて今の状況を理解しようと顔を上げた。
顔を上げられた事に違和感を感じ、手足を見ると手足の代わりに腕のような形の棒切れが生えている。
生えていると形容して良いのかは分からないが、生えている。
星が鏤められたかのような細かい粒子がキラキラと反射していた。
私は、朝日に照らされてキラキラと輝くその青い腕を動かそうとした。
「ッ……」
だが、痛みはある。
切断面は見えないが、無理やり棒切れに手足を突っ込んでるような状態で、まともに動かせる物ではなさそうだ。
私の手足はもう動かないのかと絶望していたら、棒切れがみるみる人の手足の形に変わっていく。
「これは……?」
《魔力結晶 Lv6》
目の前に現れる半透明の文字。
すっと文字の消えたそこから目を移し、私は痛みを堪えながら周りを見渡す。
状況を把握しておきたい。
一人生きている男を見つけた。
馬車の近くにいた一人の男。
その男は血と荒い息を抑えるように胸を押さえており、もう助かる手立てはないだろうと私は判断した。
痛む腕に力を入れ、ずりずりと這い寄り男に聞く。
「ここから人気の多い場所はどっち?」
「あっちの、東に村が……」
男は一つの獣道を指した。
「お前らはなぜこんな状況に?誰がやった?」
「お前だろうが、お前が魔法で――」
男は掠れる声でその先を喋ろうとしたが、何かを悟ったように口を噤んだ。
暫くして、男はこちらを憎らしそうに睨み、息絶えた。
誰も、いない。
自分の事さえ、この世界の事さえ分からないが、一つ分かったのは魔法のある世界であること。
もう一つ、自分は魔法が使えるらしい、ということ。
そして、異世界でも私の不運体質は健在ということ。




