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第1話『悪夢』


「……嫌な夢」


 時計を見ると朝の五時、空が白んできた頃に悪夢で目が覚めた。

 動悸と冷や汗で気持ち悪く、朝の目覚めとしては最悪なものだ。

 元から一時間後には起きるつもりだったし、大した問題はないが、やはり気分の良いものではない。


「シャワーを浴びるくらいの時間はあるかな」


 ぼうっと一人言を呟きつつも、いつもの習慣に従う。

 悪夢で目が覚めるのはさほど珍しい事でもなく、朝にシャワーを浴びるのも日課になってしまった。

 起きてすぐは鮮明に思い出せるのだが、もう既にどんな夢であったかも忘れている。

 こういう夢が一番気持ち悪い。




 私の名前は辺星憂希(ほとぼしゆうき)

 高校三年生。

 運の悪い女だと自認している。


 私は今日も憂鬱になりそうだという予感に、頭を掻き乱す。

 私は生きてきた中で十年間いじめられてきた、根っからのいじめられっ子だ。


 珍しい名前だとも、女か男の名前かも分からないとも言われる。

 そんな珍しい名前がきっかけでイジメられた事も、まぁ、少しはある。

 苗字に至っては誰一人として初見で読める人は居なかったし、揶揄われた事もしょっちゅうだ。


 イジメ? 最近は慣れたもので、大した問題では無い。

 いや、慣れるような物ではないのだが、名前が珍しいというだけでイジメられる事もある。というだけの話だ。


 ……だが、今回は別の理由でいじめられている。

 高校二年生の夏頃、とある事情で今の高校へ転校してきた初日の事である。

 一人の女子を押し倒してしまった。

 もちろん故意にやった訳ではなく、ただただ転んでしまっただけなのだが。

 あの時の冷ややかで嫌悪の混じった目線、あの背筋が凍るような感覚は一生忘れられない。


 辛かった一年間を思い出しつつ、私は少し浮かれたまま丁寧に身なりを整える。


 いじめられているというのに浮かれているのは変だろうか?

 そんな事はないと言い切れる。

 なぜなら今日は誕生日で、その上待ちに待った卒業式だからだ。

 まぁ、いじめられる可能性は大いにあるが、流石に今日くらいは平穏に過ごしたい。


「いってきます」


 憂鬱ながらも私は小さな写真に、小さく挨拶をして家を出た。




 卒業式という言葉に浮かれ過ぎているのか、はたまた緊張しているのか、不安なのか、いつもと少し違う雰囲気の通学路を歩く。


 「緊張したり、どうしようもなく不安になってしまった時はこれを握りしておくのよ。私の大切なお守りだから、憂希も大切にしてね」


 そう言った母の最期を思い出しながら、ペンダントを握りしめて歩く。



 閑静な住宅街を歩く。

 人も、車も、いつも見かける野良猫にも出会わない、珍しい状況に不気味さを感じつつも、私は歩く。

 そう、私は学校に向かって歩いている。

 もう学校は見えている。

 それなのに誰も、一人も人が見当たらないのはなぜだろうか?


 違和感を覚えた頃にはもう遅かった。

 視界が歪んだ。

 浮遊感を感じた。

 地面に穴が空いた。

 考える隙もなく、恐怖を残したまま意識が遠のいた。



 私が最後に見たのは、手元に握られていた青い宝石のみ。

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