第9話『緑の少女』
緑の髪をした少女は、震える体を抱えるように更に縮こまった。
そりゃあそうだ。
今目の前で起こった殺人は、少女にとって目を背けたくなるような惨状だろうし、手足が青い義肢の少女など不審なのは間違いない。
ボロボロではあるが、命に関わるような怪我は無さそうだ。
念の為に健康状態を確認してみる事にした。
《人間》
『個体名:フィーネ・ブランシェ Lv8
年齢:12歳
性別:女』
『栄養失調を引き起こしていますが、大きな怪我はありません』
七歳か八歳程度に見えたその少女、フィーネは十二歳らしく、今の私の二つ下だ。
ボロ布から覗く骨の浮き出たその体型と、足に嵌められた枷から、よほど酷い環境にいたのだと推測できる。
これ以上怯えてしまわないように、死体をアイテムボックスに片付けてから声をかける。
「大丈夫、悪い人達はもういないよ」
二年ぶりに出した声は掠れていて少し恥ずかしくなったが、言葉はちゃんと伝わったようで、少女は恐る恐る顔を上げた。
「あなたは……」
「私の名前は辺星憂希。憂希が名前ね」
「……ユーキさま」
「あなたの名前は?」
「フィーネ、フィーネです」
檻と枷を外し少女の状態をみようとしたが、特殊な細工がされているのか、中々枷が外れない。
手足に残る傷跡から、必死に抵抗したのが読み取れた。
フィーネの掠れている声を聞き、水すら飲ませていなかったのかと、盗賊達への怒りが少し湧いてきた。
もう殺してしまったので怒りの向けようはないが。
「村からお水取ってくるから待てる?」
暗い顔でこくりと頷くフィーネを置いて、廃村の井戸から水を汲みに行く事にした。
湧き水もあるにはあるが、今の状態で腹を壊すと命に関わりそうなので、なるべく安全な方を飲ませてやりたい。
水を汲み、廃村から帰ってくると、フィーネは驚いた顔でこちらを見ていた。
「どうしたの?」
「置いていかれると、思って……」
そう俯きながら話すフィーネは少し涙ぐんでいた。
もう夕方になってしまったし、少し時間をかけすぎたな。
「小さい子をひとり残して立ち去るほど冷たくはないよ」
そう言って水を渡す。
ついでに干し肉なんかもあげればちまちまと食べ始めた。
小動物の様で可愛らしい。
その間、手足に付けられた枷を鑑定する。
《隷属の枷》
『使用者に逆らうことができなくなる呪いの枷です。
使用者は既に死亡していますが、命令された事は破れません。
黒魔法で上書きしますか?』
なんて惨いことを。
死して尚隷属しろと、そういう呪いがかけられた枷らしい。
逃げるなと命令されれば、死ぬまで逃げられないだろう。
黒魔法がどういった魔法か分からない以上、リスクになり得る行動は避けたかったが……これを見過ごせるほど冷酷にはなれない。
「? どうかされましたか?」
「いや、何も」
不思議そうな顔で私を見つめるフィーネに少し笑いかけ、黒魔法による上書きを実行しろ、と魔力に命じる。
魔力は枷に流れ込み、既にある魔力を食い尽くしていく。
魔力が逆流してくる感覚が気持ち悪いが、最後のひと押しと言わんばかりに魔力を込めてやる。
全ての魔力を上書きが完了したようなので、鑑定をしてみる。
《隷属の枷》
『使用者に逆らうことができなくなる呪いの枷です。
使用者は辺星憂希に移っています。
呪いを解きますか?』
それはもちろん。
パキッ、と小気味よい音を立て、四つの枷は地面へ落ちた。
「枷が……これは、ユーキさまが?」
「そうだよ。これで君は自由だ」
「ありがとう……ございま……」
キラキラと緑の瞳に涙が滲んでいた。
声を上げず、静かに泣く少女の慰め方など、私には分からない。
分からないなりに慰めようと頭を撫でてやると、その目からは溢れんばかりに涙が零れるのだった。




