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ギフト  作者: kkkkk
第1章 受取人
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受取人⑤

 ゲートは閉じられた。もう山には入れない。今日はもう、棒ノ嶺に奈那を遺棄できない。諸江はスーツケースを車の助手席に載せると、来た道を通って都内のマンションに戻った。


 捨てようと思えば、どこにでも捨てられる。それに、特大スーツケースで死体を運ぶから目立つのだ。もし、死体を切断すれば捨てやすくなる。でも……奈那の体を切断できるのか?


 部屋に戻った諸江はスーツケースを開けた。中には奈那がいる。傷一つない綺麗な遺体、今にも話し出しそうだ。


「奈那ちゃん、どうしてほしい?」


 奈那に問いかけるものの返事はない。微動だにしない奈那を見つめる。

 奈那は目を閉じている。笑っているのか怒っているのか、わからない。

 死に顔からは悲痛な表情は読み取れない。奈那が苦しまずに死んだことが、諸江には救いだった。


 奈那の遺体を傷つけたくない。奈那にはこのまま綺麗でいてほしい。

 そして、できることなら奈那とずっと一緒にいたい。

 諸江は混乱しながら奈那に問いかける。


「僕は君と別れたくないのかな?」


 さっきまで遺体を捨てようとしていたはずなのに、奈那と一緒にいることで安らぎを感じる。どうせ結婚する気がないのだし、奈那がいれば一人暮らしの寂しさを紛らわせることができる。


 答えは最初から分かっていた。諸江は奈那と別れたくない。


 諸江は質問を続ける。


「僕は君と暮らしていけるかな?」


 諸江が被疑者であれば、マンションに戻ったときに警察が接触しただろう。たしかに、警察が証拠を揃えるために、諸江を監視している可能性はある。

 でも、諸江が被疑者となっていない可能性は高い。理屈では説明できないけど、直感的にそう感じる。

 もしそうなら、いつまでも奈那と一緒にいられる。


 諸江は冷蔵庫の中身を取り出し始めた。体が腐食しないよう、奈那に中に入ってもらうために。


 ひとつずつ、棚に置かれた食品を手に取って、ゴミ袋に入れる。プラスチックのパックに入った半分食べかけのサラダ。コンビニで貰ったフォークを突き刺したまま残っていた。ビールの缶、調味料はパントリーに移した。

 中身を取り出した冷蔵庫をウエットティッシュで丁寧に拭いた。汚れはなくなり、臭いもない。


 諸江は奈那の体を持ち上げた。奈那はとても軽かった。スーツケースを引きずっていたときはあんなに重かったのに。

 角にぶつけて傷つけないように気をつけて、奈那を冷蔵庫に入れる。丁寧に、慎重に。


 奈那の身体は冷蔵庫にすっぽりと収まった。それはまるで、奈那のために作られた空間のようだ。

 冷蔵庫の冷気が漏れないよう、透明のビニール袋をハサミで切ってドアに付けた。透明のビニールは中の温度が上がるのを防ぐ効果があるから、冷蔵庫を開けたまま奈那を見ていられる。


 こうして、諸江と奈那の生活は始まった。


 **


 翌朝、諸江が出社すると、後輩の石倉が嬉しそうにやってきた。


「先輩。今日、食事会があるんですけど、一緒にどうですか?」


 石倉のいう「食事会」とは合コンのことだ。石倉は異業種交流会で知り合った女性との食事会を定期的に開催していて、人数が足りないときは諸江にも声が掛かる。奈那と付き合っていることを言っていなかったから、石倉は諸江に彼女がいないと思っている。


「今日はちょっと予定があって。ゴメン。また今度誘って!」

「何かいいことありました?」


 石倉は諸江の顔をまじまじと見ている。顔に何か付いているのだろうか?


「特にないけど。どうして?」

「先輩、今日は嬉しそうなんで。彼女ができたのかと思って」


 そうか嬉しいのか……今日は早く帰ろう。


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