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ギフト  作者: kkkkk
第1章 受取人
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受取人②

 前職が報道関係だった諸江は、取材中に何度も死体を見たことがある。一般人に比べると死体には慣れているはず。だが、スーツケースから死体が出てきたら、さすがに驚いた。


 その死体は、交際している奈那だった。


 奈那は体育座りの体勢でスーツケースに入っていた。お気に入りの黒いウールのワンピースを着ていた。


 諸江は奈那の死体の状態を確認する。ざっと見たところ、体に外傷は見当たらない。念のために少し着衣を捲って調べたが外傷はなかった。


 他の箇所に外傷はあるかもしれない。が、奈那をスーツケースから出さないとこれ以上は調べられない。死因は毒殺か窒息死だろう、と諸江は推測した。


 奈那の死体を前にして考える。警察に連絡するべきだろうか?

 宅配便で死体が送られてきた、そう説明しても警察は信じてくれない。奈那の死体が部屋にあれば、間違いなく交際中の諸江が被疑者として取り調べを受ける。

 死体を宅配便で送るような犯人が自首するとも思えない。真犯人を警察が逮捕するまでの間、被疑者として諸江は留置所に勾留される。疑いが晴れるまで、何年、何十年掛かるかもしれない。警察への連絡は、どう考えても諸江に不利に働く。


 宅配業者に回収を依頼したら、荷物に異常がないかを確認するだろう。もし、スーツケースの中を確認されたら、死体が出てくる。そして、宅配業者は警察に連絡する。諸江がスーツケースに死体を詰めたと考えるのが自然だから、警察は疑う。つまり、宅配業者に回収を依頼してはいけない。


 焦るな――諸江は状況を冷静に分析する。


 真犯人はなぜ奈那の死体を送ってきたのか?


 おそらくは、諸江に罪をなすりつけるのが目的だ。諸江に恨みがあって奈那を殺害したのか、奈那に恨みあって交際している諸江に送ってきたのか、そこまでは分からない。


 諸江に罪をなすりつけるのであれば、死体が到着したタイミングを見計らって「諸江の部屋に死体がある」と真犯人は警察に連絡するはずだ。


 タワーマンションはオートロックとエレベーターのセキュリティがあるから簡単に侵入できない。だから犯人は、死体が到着したかどうかを、宅配業者の荷物問い合わせシステムを使って確認する。システムに反映されるタイムラグが宅配から10分程度としたら、時間的な猶予はない。一刻も早く死体を部屋の外に持ち出さなければ。

 取るべき行動を決めた諸江は、スーツケースを引きずって地下駐車場へ向かった。


 エレベーターで地下駐車場に下りた諸江は車を目指してスーツケースを引いて歩く。地下駐車場の路面は滑らかなのに、キャスターはスムーズには動かない。不機嫌そうな音を立ててはガタガタと震えた。


 それにしても重い。痩せ型の奈那でも運ぶのには苦労した。世の中には奈那よりも重い人はたくさんいる。肥満の死体でなくてよかった。

 汗だくになりながら、諸江は車の前についた。Lのエンブレムの国産車。奈那がこの車の名称を死ぬまで知らなかったことを思い出す。


 駅のロータリーまで迎えにいったとき、「その車高いの?」と奈那が言った。

「まあ、一応、高級車だからね。何て車か知ってる?」

「知らない」と奈那はそっけなかった。このまま会話が終わるのも面白くない。諸江はヒントを出した。

「エンブレムがヒントだよ。Lで始まる車、何がある?」

 奈那は少し考えてから言った。

「ロールス・ロイス!」

 残念ながらロールス・ロイスはRである。正解を言っても知らないだろう、そう考えた諸江は「そうだよ」と答えた。


 きっと、奈那はこの車をロールス・ロイスだと思って死んだ。

「嘘をついてゴメン」今さらながら、諸江は奈那に謝った。


 車のドアを開けて、音をたてないようにスーツケースを助手席に乗せた。この助手席には奈那しか乗せたことがない。それに、奈那をラゲッジスペースに入れるのは抵抗があった。

 奈那は体育座りの体勢でスーツケースの中にいる。助手席に座らせたいけれど、それはできない。窮屈な格好をさせて申し訳ない。

 倒れないようにスーツケースにシートベルトを掛けた。奈那とドライブに出かけるように錯覚する。奈那といろんな場所に行った。


 エンジンを始動させ、地下駐車場から出た。

 焦っていたのだろう。出口でワンボックスカーと衝突しそうになった。今は事故を起こすわけにはいかない。

 

 行先を決めていなかった。目的地もなく彷徨うのは避けよう。行先を決めるため、諸江はコンビニに車を停めた。


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