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ウワサ話のウラ話  作者: 紺堂
第5話 かけがえのないアナタへ

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双子のウワサ 10(終)

 レストランからの帰り、駅への道を私と彩花は手を繋ぎながら歩いていた。

 太陽がすっかり沈んで暗くなった目抜き通りはクリスマスのイルミネーションによって煌々と照らされており、その下をカップルや家族連れが笑い合いながら歩いていく。夕方その風景を見た時は半年前のことを思い出して感傷に浸っていた私だが、今は大切な妹と素晴らしいプレゼントに囲まれ満ち足りた気持ちで通りを歩いていた。




 結局私たちはあの後もしばらくの間2人して個室内で揃って号泣していたのだが、少しして食器を下げにきた店員にその姿を見られてしまい大変気まずい思いをした。あまりの気まずさにあれほど止まらなかった涙も引っ込んだほどだ。その後は店員の気遣いで落ち着くまでそっとしておいてもらえたのは有難かったが、会計の際に同じ店員と顔を合わせた時は顔から火が出るほど恥ずかしかった。


 店を出ると強く吹いた冬の風が全身を撫でながら通り過ぎていく。いつもなら骨身に沁みるほどの寒さだが、今は熱くなった体を冷ますのに丁度良いとさえ思えた。そのまま駅まで歩き出そうとしたところ、彩花が駅前で合流した時と同様に左手を素手で差し出してきたので、私も同様に仕方ないなといった表情でその手を取った。繋いだ手から伝わる体温が嬉しくて、思わず笑みが零れた。




 それから私たちは駅前まで手を繋いだまま無言で歩いた。お互いに一言も発さず黙っているものの、気まずい雰囲気ではなく、むしろ黙っていても繋いだ手から体温と共に自分の想いが全て相手へ伝わるような感覚があった。

 彩花と一緒にいられる今が嬉しくて、ついプレゼントのオルゴールが収められた紙袋をニヤつきながら見てしまう。と、その時ふとある事に気付いた。


「あれ…?」


 よくよく見ると紙袋にある店名には見覚えがあった。ショッピングモールでの尾行劇の際、彩花と男性が最後に入った店だ。店名がかなり特徴的で強く記憶に残っていたのだ。

 ふと気になった私は自然に


「ねえ、これ彼氏と選んでたやつ?」


 と彩花へ語りかけたのだが、口にしたあとですぐに後悔した。

 彩花はあの日、私()()が彼女を尾行していたことを知らないのだ。


「へ? 彼氏?」


 突然のことに口を開け呆けた顔になる彩花。「実は尾行してました」なんて言えるワケもない私は、なんとか取り繕おうと早口で必死に言い訳を並べる。


「え、えーと、ちょっと前にふらっと郊外のショッピングモールに行った時、たまたま彩花が男性と歩いているのが見えたのよ。この紙袋のお店に入っていくところだったから、その時買ったのかなって」

「あー、そうだったんだ」


 私の咄嗟の嘘を信じたらしい彩花は「声掛けてくれれば良かったのにー」と軽い口調で笑っているが、男性と一緒にいたことは否定しないし、私の彼氏発言も訂正しようとしない。…ということは


(やっぱり、あの男性とお付き合いをしているのかしら…?)


 私はレストランでのことで浮ついていた心に冷や水を浴びせられたようで、スッと体温が下がったような気がした。しかし、今日は元々そのことを聞き出そうとも考えていたのだ。今こそ覚悟を決めて踏み込むべきタイミングだ…。


「ねぇ彩花、その…」


 躊躇いがちに話しかける声に「ん?」と首を傾げる彩花。私は意を決して言葉を捻り出す。


「…あの時ショッピングモールで一緒にいた男性とは、その、お付き合いをしているの?」


 ありったけの勇気を振り絞ってそう尋ねた私の発言に一瞬きょとんとした表情になる彩花だったが、すぐに大声で笑いながら


「あの人は彼氏とかじゃないよー」


 あっけらかんとそう答えた。 


「そ、そうなの? でも随分と親しげだったような…」

「付き合いそこそこ長いからねー」


 なんてことのないように言う彩花。確かに彩花からはあの男性に対して気が無いようだが…


「…実は向こうは気があるとかは…」

「ないない、あの人奥さんいるし」

「そ、そうなの!?」


 突然の情報に思わず声がうわずる。確かに彩花との婚約を疑いはしたが、まさかあの若さで既に結婚されていたとは…。


 聞けばあの日一緒にいた男性は大学時代の同級生とのことだった。そしてその奥さんというのも大学の1学年上の先輩で、彩花もよく知る女性らしい。在学中から交際を続け、男性の卒業に合わせて入籍したそうだ。若い時分での結婚ということで家族からの反対もあったのでは?と思ったが、男性側はシングルマザーで女性側は外国人とのハーフとのことで、あまりとやかく言う人はいなかったそうな。

 そしてあの日彩花とあの男性が一緒にいた理由だが、元々あのオルゴール店に行くのが目的だったようだ。男性が母親にプレゼントとして同様のオルゴール送った際に泣いて喜んでいたという話を聞いて、今回のプレゼントにピッタリだと考えたようだ。


「実際号泣してたもんねー、お姉ちゃん」


 してやったりと言わんばかりの彩花のドヤ顔に少しだけイラッとしたものの、彼氏疑惑が杞憂に終わったことに私は密かに胸を撫で下ろした。


「なーんだ、今日だっててっきり彼氏ができたって報告かと思ってたわ」

「そんなことでわざわざお高いディナーになんて誘わないよー」


 呆れたように笑う彩花。そして遠くを見ながら続ける。


「恋愛はしばらくいいかな。でも子どもはいずれは欲しいかも」

「へぇ、そうなの。ちょっと意外」


 私がそう言うと、彩花は眉を八の字に曲げちょっと困ったような顔をする。


「両親に孫の顔を見せてあげたいからね。…あ、でも家に彼氏連れて行ったりしたらお父さんはむしろ怒って血圧上がっちゃうかも」


 クスクスと冗談っぽく笑っている彩花だが、道雄さんの娘への溺愛ぶりを見ているとあながち冗談では済ませられない気もする。昔ラグビーをやってたとかで体つきもガッチリしているし「娘が欲しければ俺を倒していけ!」とか言いかねないような。

 私がそんなくだらない妄想を繰り広げていると、彩花は私の顔を覗き込むように首を傾ける。


「お姉ちゃんはどうなの? 彼氏とか、欲しくないの?」


 その言葉に一瞬ドキッとする。

 つい数時間前、私は道往くカップル達を見て人肌恋しいと思っていた。過去の恋愛を思い出して、ほんの少しだが『あの頃に戻りたい』とまで考えていた。けどそれは恐らく、彩花が私から離れてしまうと思ってその隙間を埋めたいがために願ったことなのだろう。そんな気持ちでまた恋人を作ったところで、健全なお付き合いは出来ないような気がする。つまり、私にはまだ大人の恋愛は早かったのだ。もう少し異性を見る目を養って、お互いに思いやりを持てるような相手が見つかったらその時は恋愛に向き合ってみよう。今ならそう思える。

 何より、今は20年ぶりに再会できた妹との時間をもう少し楽しみたい。こんなにも自分を慕ってくれる妹を大事にしてあげたいし、私自身彼女と2人でやりたいことが沢山ある。恋愛はそれらをある程度片づけてからでも遅くはないだろう…多分。


 自分の気持ちを整理してから改めて彩花の顔を見ると、何やらいたずらっぽい笑顔を浮かべながら私の言葉を待っているようだ。彼女の額を軽く小突きながら、私は溜め息交じりに言った。


「私もしばらく恋愛はゴメンだわ」

今回も(終)と付いていますが、もうちょっとだけ続きます。

最後までお付き合い頂ければ幸いです。

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