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ウワサ話のウラ話  作者: 紺堂
第5話 かけがえのないアナタへ

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双子のウワサ 2

(どうしてこんなことに…)


 麗華さんの相談を受けた翌日の昼休み。

 いつも通り午前中の業務を終えた私は、これまたいつも通り同じ部署の後輩である染谷(そめや)涼香(すずか)須崎(すざき)彩花(あやか)さんとの3人で事務所でお弁当を広げ昼食を取っていた。いつもは仕事や私生活のことなどを思いつくまま適当に話しながら和気あいあいと楽しく食事をする時間なのだが、今日の私には(何故か)重要なミッションが課せられていた。


(私にどうしろと…)


 ミッションの内容はズバリ『須崎さんに彼氏がいるのか、いたとしてどんな人なのか』をそれとなく聞き出すことだ。言わずもがな、依頼者は麗華さんである。

 そんなもん自分でやりなさいよとは思うのだが、彼女から拝み倒され最終的には私が根負けする形で承諾してしまった。自分でも甘いなとは思う。


 しかしこのミッション、いざやろうとするとどうにも難しい。いきなり面と向かって「彼氏とかいないの?」なんて聞くのは明らかに不自然だし、今のご時世でいきなり上司からそんな事を口にすればハラスメントとも捉えられかねない。

 自然な流れで彼氏について聞き出すにはどう切り出すのが最適か…なんてことを考えながら自分の弁当を口にしていると、今日もウワサ好きの染谷から


「そう言えば2人とも、あのウワサ聞きましたぁ?」


 なんてお決まりの言葉が飛んできた。

 気もそぞろな私は淡白な反応を返すのみだったが、須崎さんは興味津々といった様子で染谷に続きを促している。須崎さんの反応に気を良くしたのか、染谷は得意気に語り始めた。


「営業部の木下課長なんですけどぉ、どうやら婚約していた女性と昨日ついに入籍したみたいですよぉ。入籍日は奥様の希望で、交際開始の記念日に合わせたって話だそうですねぇ。

 あと木下課長が近々営業部副部長に昇進するってウワサもあったんですけどぉ、こっちも内定したらしくて数日中に正式な辞令も出るんだとか~。いや~色々と上り調子で羨ましい限りですよねぇ」

「えっ? それ本当なの?」

「わぁ! 木下課長ついに入籍されたんですね!」


 私と須崎さんはそれぞれ声を上げた。

 木下課長というのは営業部の方で総務部の私たちは普段それほど交流がないのだが、私と須崎さんは以前とある事情により木下課長と個人的にやり取りをする機会があり、婚約者がいるという話も本人から直接聞いていた。また結婚は以前から決まっていたものの、家庭の事情により入籍が予定より後ろ倒しになるというハプニングに見舞われていたという事情も聞いている。それだけに今回のニュースは非常に喜ばしいと思えた。


「そっかぁ…木下課長、本当に結婚されたんですねぇ…」


 そう漏らす須崎さんは、羨望とともに安堵のような表情を浮かべていた。

 そんな彼女の表情を見た瞬間、私の脳内に稲妻のような閃きが走った。


(もしかして…これって、例の話を切り出す千載一遇のチャンスなのでは?)


 今なら自然な流れで須崎さんに恋人の話を振れると思った私は、少々前のめりになりながら須崎さんに向かって


「す、須崎さんは、そういういい人いないの?」


 と少々噛みながら訪ねた。

 彼女は一瞬ポカンとした顔になってから


「あはは…残念ながら、今は彼氏ナシですねー。しばらくはそういうのいいかなって…」


 なんて言いながらちょっと気まずそうに苦笑いを浮かべる。そんな彼女の様子に何かを感じたのか、染谷も須崎さんの顔をまじまじと覗き込む。


「ありゃ、もしかして前に悪い男にでも捕まったぁ?」

「あー…まぁそんな感じですかね…あはは…」


 いつも元気でハキハキとした受け答えをする彼女にしては、随分と歯切れの悪い返答だった。表情も苦々しげで、あまりこの話題を快く思っていないのかもしれない。

 そんな須崎さんの様子を見てあまり踏み込むべきではないと捉えたのか、染谷は「ふーん」と興味なさげに反応し、それ以上この話題を続けるのを諦めたようだ。そして場の雰囲気を和ませるためか


「まぁ男なんて星の数ほどいるんだし、嫌な男のことなんてすぐ忘れた方がいいと思うけどねぇ~」


 なんて髪をかき上げながらイイ女風のことを言っていた。

 一方の須崎さんは芝居がかった動作で両手で胸を押さえている。


「えっ…染谷先輩カッコ良…めっちゃ良い女風でしたよ今…」

「良い女”風”じゃなくて、良い女なんでぇ~」


 コントのようなやり取りをする2人を流し見しつつ、私は考える。


(彼女の言葉を信じるなら、須崎さんには彼氏はいないんだろうけど…)


 でもなんだろう。さっき一瞬だけ彼女が見せた気まずそうな表情は。過去に男性関係で何かあったんだろうか。気にならないと言ったら嘘だが、流石に今はそこまでプライベートに踏み込んだことは聞き出しようがない。私もここが引き際と弁えるべきだろう。


(まぁ、麗華さんもそこまで聞き出せなんて言わないでしょう…)


 とにかく麗華さんへの義理は果たしたぞ、と内心で胸をなでおろす。とんだ無茶振りだと思っていたが、染谷のおかげで思っていたよりも簡単にミッションを達成することができた。

 胸が軽くなったからか気持ちに余裕が出来た私は、何が気に入ったのか未だに良い女風(?)のポーズを続けている染谷に、ちょっと意地悪な質問をしたくなった。


「…で、そんな良い女の染谷さんには、当然彼氏の一人や二人いるんでしょうねぇ?」


 そういえば染谷の浮いた話はあまり聞かないな、と思いつつ彼女の反応を待つ。


「え~、先輩、知らないんですかぁ?」


 そう言うと、流し目でこちらを見ながらニヤリと不敵な笑みを見せる染谷。

 なんだか腹立つな、なんて思いながら次の言葉を待っていたが


「良い女っていうのはぁ、男なんていなくても自立して生きていけるんですよぉ?」

「……………」


 その言葉を聞いて、私は溜め息を漏らし、須崎さんは気まずそうに笑っていた。

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