親友のウワサ 余話
※今回法律についての記載がありますが、本作はあくまでフィクションです。
間違い等あってもゆるーく見て頂けると助かります。
「いやー、あの時は大変だったなぁ…」
瑛理は当時を振り返りながらしみじみとそう呟く。
しかし―――
「大変だったってもんじゃなかったでしょ。急な引っ越しに役所の手続き云々、あと養子縁組の話とか学校への説明とか…」
そう、結局いつも大変なのは後始末だ。
あの後、両親共に失踪扱いとなってしまった瑛理は一時的に親権者不在となってしまった。「それだと今後色々と不便だろう」と瑛理の祖父母は養子縁組を提案し、当然彼女はそれを受け入れた。しかしこれが法律的に中々厄介な問題だったらしく、弁護士も雇って色々手伝って貰ったらしいのだが、結局手続きが終わるまでは半年以上かかったそうだ。
あと意外と大変だったのは携帯電話の契約だ。瑛理は父親に家から連れ出された際にスマホを壊され外部との連絡が取れなくなっており、騒動後に新しい端末を購入しようと携帯ショップに行ったのだが、未成年だったため保護者の同伴が必要と言われてしまったらしい。しかし両親共に失踪扱いの彼女に保護者はおらず、そのせいで端末購入が出来なかった。その後に瑛理を訪ねてきた祖父母に頼み込み保護者として同伴してもらうことで無事契約は出来たのだが、私たちのような現代っ子にとっては1週間程度でもスマホを使えないというのは結構キツいものがあったようだ。
他にもアパートの退去やら住所変更やら学校への説明やら大小様々な問題が色々あり、当時の瑛理は受験勉強と並行して弁護士とのやり取りや色々な手続きをこなしていたため、毎日疲弊した様子だった。しかしそれでも当時の瑛理は
「あのクソ親父と縁が切れたんだもん。これくらいの苦労、なんてことないよ」
といつも前を向いて頑張っていた。その強さが何だか誇らしかった。
そんな風に高校時代の話をしていく内に、瑛理が1年間だけ居候していた駅前のタワーマンションが現在売りに出されているという話になった。当時はまだ新築で、内装も綺麗で設備も最新のものが揃えられていたなぁなんてことを2人して話していたのだが、その流れで私はある人物のことを思い出していた。
「そういえば…日高さんって今頃何してるんだろうね」
卒業まで瑛理にマンションの一室を提供してくれていた日高さんだが、彼女が卒業後どんな道に進んだかはよくわかっていない。クラス内でギャル系女子のリーダー的存在だった日高さんは交友関係も広かったはずだが、誰に聞いても卒業後の彼女については何一つ知らないのだという。あんな高級マンションにあの歳で1人で暮らしていたこともそうだが、色々と謎の多い人だった。
「真樹かぁー、高校卒業してから連絡もしてないなー」
瑛理も遠い目になりながらそんなことを呟く。
「今頃何してるんだろうね」
あの頃を懐かしむように口にした私に
「あの子のことだし、バリキャリみたいに働いてるんじゃない?」
瑛理は笑いながらそう口にした。
・・・・・・・・・・
同じ頃、ある古びたビルの一室。
小さな事務所の中で1人の若い女がソファに腰かけながら、ローテーブルに広げた数枚の書類を眺めていた。女の装いは濃紺のドレスにグレーのファーコートという、簡素な事務所には明らかに不釣り合いな恰好で、さながら灰色の世界に咲く一輪の花のようだった。
既に夜も更け、事務所には女以外の人の姿はない。事務所内はしんと静まり返っていたが、そこに突然コンコンとドアをノックする音が響き渡る。
どうぞー、という間延びした女の声にガチャリとドアが開くと、そこから現れたのは身長190センチはあろうかという長身で角刈りの男。紺のスーツをビッチリと着込みサングラスをかけたその姿は、相対した者を萎縮させるには十分過ぎる威容を誇っている。
「明かりが点いてると思ったら…まだいたのか」
「やあ、お疲れさん」
そんな男に対しても一切怯むことなく、女は気の抜けた返事をした。
女の態度には顔色一つ変えず、男はテーブルの上に広げられた書類に目をやる。
「こんな時間まで仕事か? 精が出るな」
「いや、仕事はとっくに終わってる。そろそろ帰るよ」
「帰るなら部下に送らせるが」
そう言いながらスーツの男は後ろに控えていた金髪の若い男を顎で指す。女は少し悩む素振りを見せた後、ニコリと微笑みながらスーツの男を指差して言った。
「せっかくだし、アンタが送ってよ」
女の言葉に金髪の男は「お前、誰に口利いてるのかわかってんのか」とガンを飛ばしてくるが、スーツの男はそれを片手で制すと口角をわずかに上げながら答えた。
「…まぁ、たまにはいいだろう」
男の運転で、黒のセダンが夜の街を滑るように流れていく。男は後部座席に座る女をバックミラー越しに眺めつつ言葉を投げかけた。
「例の件、上手くいきそうだってな」
「ああ、おかげ様でね。来期は前年度比10%利益増の見込みさ」
ふんぞり返りながらケラケラと笑う女を眺めながら、男はぼそりと呟く。
「…オヤジの見る目は確かだったみたいだな」
男の嫉妬交じりの言葉に、女はヤレヤレと肩をすくめる。未だに自分が任されるはずだった事業をオヤジが鶴の一声でアタシに振り替えたこと、恨んでいるのだろうか。コッチだってそのせいで人生設計が狂って迷惑しているというのに。
「まぁ何事も適材適所ってヤツさ。たまたまアタシにはアンタよりほんの少し商才があったってだけの話よ。アタシには大勢の舎弟の前で啖呵切るような度胸も無いし、腕っぷしにも自信ないから、そこはソッチに任せるよ」
そう言うと女はシートに体を沈ませながら不満げな声で続ける。
「本当はコッチの世界に関わる気はなかったんだけどねぇ。普通の会社に勤めて普通の男と結婚して、慎ましくも幸せに生きていくつもりだったのに」
「よく言う。その性格と金使いの荒さじゃ普通の男は寄りつかないだろ」
「何さ、性格も金使いの荒さもこの仕事がキツくてストレスが溜まるからそうなっただけなのに。失礼しちゃうね」
愚痴っぽい女の言葉を男はハッと鼻で笑う。
「そう言う割には仕事が楽しそうに見えるけどな? 今回の件だって、最初から随分乗り気だったじゃないか」
「…ま、ちょっと私なりに事情があってね」
「ほう?」
ばつが悪そうな女の態度に男は僅かに口元を緩ませる。
身内相手であってもこの女がこんな顔を見せるのは珍しい。
「冷血非道で通ってるお前が肩入れするなんてどういう風の吹き回しだ? 真樹」
「…別にどうでもいいだろ。それに冷血非道じゃないし」
頬を膨らませながら抗議する女の姿に男は思う。
(こういうところは可愛げあるんだがな…)
溜め息を吐く男の姿に苛立ちを見せながら、ぶっきらぼうに女が言う。
「とにかく、今回の件は上手くやってみせるから。あと来週のボディーガード手配の件、忘れないでよね? 兄貴」
ハイハイと答える男の運転で、セダンは夜の闇へと静かに消えていった。
これにて4話完結となります。今回も最後までお付き合い頂きありがとうございました!
急遽親友の話を捻じ込みたくなり短いながらも投稿することにしましたが、お楽しみ頂けましたでしょうか。
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次の話も並行して執筆しているので早めに投稿できると思います!
また読みに来て頂けると嬉しいです!
ではまた次回!




