親友のウワサ 1
本日から4話公開です!
今回は短めですが、最後までお読み頂けると嬉しいです!
「―――これでお別れは嫌だと思ったから。だから気付いたら行動してた」
私は心に浮かんできた素直な思いをそのまま口にした。
それを聞いた彼女は少し顔を赤く染めながら
「やっぱアンタ、いいヤツだよ」
からかうような目でそう言った。
その表情に不意にドキッとしてしまった私は、負けじとばかりに
「私がこんなこと言うの、アンタだけなんだからね?」
と、そう言ってやった。
――――――――――――――――――――
「「乾杯!」」
そう言って私たち2人は黒ビールで満たされたグラスを合わせると、グラスの半分ほどを一気に飲み干す。しゅわしゅわとした炭酸の刺激と深いコク、そして香ばしい風味が混ざり合い独特な味わいを感じさせる。そこに店の名物だという大ぶりなハーブ入りソーセージを頬張ると、じゅわっと溢れる肉汁と爽やかなハーブの香りが口内を満たした。その余韻を味わいつつも再度黒ビールを口にすると、肉汁とハーブの香りが黒ビールの強い風味と混ざり合い複雑な旨味を生み、最後には炭酸の爽快感が口内をリセットしてくれる。
流石は店の名物と言われるだけあって絶妙な組み合わせだ。思わずビールもソーセージもいくらでも頼んでしまいそうになる。
(これはクセになる…)
顔を上げると対面に座る友人もビールとソーセージのマリアージュに感動しているのか、至福の表情を浮かべている。初めてきた店だったが、どうやら当たりだったようだ。機会があれば今度は渉を連れてまた来よう。
ここは都内のドイツ料理を扱うレストラン。以前SNSでたまたま見かけてから一度は行ってみたいと思っていた店で、口コミサイトでの評価も高く金曜日の夜ということも相まってか席はほぼ埋まっている。
そんな店の予約が運良く取れた私・秋本菜瑞は高校時代からの親友である春岡瑛理と共に、店の名物である本格派ドイツ料理と本場風の黒ビールに舌鼓を打っていた。
今日私たちがここに来たのは、先日私が彼女にある事件で瑛理にお世話になった際のお礼を兼ねた女子会だ。メールやSNSを通じて定期的に連絡を取り合っていた私たちだったが、こうして直接会うのは約1年ぶり。女同士、色々と話も弾むというものだ。
「前に会ったのって菜瑞の入籍前だったっけ?」
「だね。入籍が2月だったから、その前にご飯行こうって流れだった気がする」
「いやー、しかしあの菜瑞が人妻かー。ちなみに最近旦那とはどうよ?」
顔をニヤつかせながら瑛理はフォークでこちらを指してくる。
「それ、行儀が悪いからやめなさい。…そうねー、旦那とは普通に仲良いとは思うけど。週末は一緒に出掛けてるし、家事は分担してやれてるし、大喧嘩ってほどのトラブルはないし…」
私がフライドポテトを口に運びながらそう答えると、瑛理は「ほほぉ」と声を上げながら感心した様な声を上げる。
「…何よ、その反応は」
「いや、仲良さそうで何よりだなって。旦那さんって作家なんでしょ? 生活リズムが合わなくてすれ違ったりとかしないのかなーって心配でさ」
「他の人は知らないけど、ウチは”夜ご飯は一緒に食べよう”って決めてるからあんまりすれ違いはない気はするわね。旦那も一人暮らしの時は生活リズム滅茶苦茶だったらしいけど、同棲してからは私に合わせて規則正しい生活にしてくれているし」
「ほぉー、愛されてますなぁ」
またもニヤけ顔をする瑛理。何だかからかわれているようで腹が立ったので、こちらからも少々反撃してみる。
「瑛理の方こそどうなのよ。いい人とかいないの?」
「あーナイナイ。まず恋愛に割く時間がないわ。仕事が恋人ってヤツよ」
「ふうん。仕事、大変なの?」
「もう毎日大変だよー。普通の育児相談とかならいいんだけど、虐待通報の確認とかは何度家に行っても居留守使われることなんかザラだし。中には『虐待なんてしてない!言いがかりだ!』とか『誰がそんなこと言ったんだ!名誉毀損で訴える!』って逆ギレしてくる親もいるし」
「へえぇ…それは大変ね」
瑛理の職業は児童福祉司。子どもの育児や生活について市民の相談に乗ったり、児童虐待や非行といった問題解決のサポートを行う地方公務員である。子どもの健やかな成長に寄与する崇高な仕事だと思うのだが、他者とのコミュニケーションを主とした仕事故にトラブルも多いのだろう。毎日お疲れ様だ。
「…それでも、辞めたいとは思わないんだ?」
思わず意地悪な質問をしてしまう私だったが、瑛理はスッと真剣な目になると私の目を真っ直ぐに見ながら答える。
「…うん。私は、一人で悩む子どもの力になりたいから」
「…そっか。変わらないね。やっぱカッコイイよ、瑛理は」
カッコイイという言葉に、それまでの真剣な顔はどこへ行ったのか瑛理は照れながら顔を赤くしている。そんなところも変わらないなー、と私は目を細めて彼女の姿を見つめていた。
「思えば私たち、出会って結構長いと思わない?」
話が一度途切れたタイミングで、瑛理が突然そんなことを言い出した。
「初めて会ったのが高校1年の時だから、もう10年以上は経つわね」
「あれから10年かー、私たちもオバサンになっちゃったよねー」
「まだ20代でしょ。自分でオバサンって言い始めたら余計に老けるわよ」
そんな風に取り留めのない話をしながら、2人して当時に思いを馳せる。
「時間が経つのは早いなぁ、昔はスキンケアとか適当でもあんなにピチピチ肌だったのに…」
「私にスキンケアの講義をしていた人間とは思えない発言ね」
10年前の瑛理が今の彼女を見たらどう思うのだろうか。昔はギャルっぽいメイクやファッションを好んでいた瑛理だが、今はキレイめで落ち着いた雰囲気なので驚かれるかもしれないな。
そんなことを考えていると、瑛理が何かを懐かしむような穏やかな顔でこちらを見ていた。
「…ねえ、覚えてる? あの日のこと」
「あの日って…高2の3学期のこと?」
瑛理は「そうそう」とくすくす笑いながら頷いているが、あの日の出来事は彼女にとって人生の転換点となるほどの一大事で、私の記憶にも強く残っている。忘れられるはずがない。
「あの日の菜瑞、泣いてばっかりだったよね」
「言わないでよそれは」
「でも私、めっちゃ嬉しかったな。ありがとね」
「お礼を言われるようなことじゃないわ。あの時はただ…」
心に焼き付いたあの日の記憶を振り返る。
大声で教師に噛みつき、1人で勘違いから大泣きし、2人でお互いの存在の大きさを再認識したあの日。あの日の私は―――
「ただ、気付いたら行動していただけよ」
今回も毎日20時に数話ずつ更新の予定です。
お楽しみに!




