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ウワサ話のウラ話  作者: 紺堂
第3話 アナタはどこにいるの

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38/46

猫のウワサ 11(終)

※今回法律についての記載がありますが、本作はあくまでフィクションです。

間違い等あってもゆるーく見て頂けると助かります。

 あの騒動から2週間後、私は瑛理と共に日向君が住む家を訪れていた。

 いや…正しくは住んでいた、と言うべきか。

 何故なら日向君は今日でここを去り、別の地へと旅立ってしまうからだ。


・・・・・・・・・・


 あの日、刑事たちが病室を去ってから数時間後に現れたのは、スーツ姿の壮年の男性と初老の男女…日向君の父親とその両親だった。彼らはバタバタと部屋に入るやいなや日向君に泣きながら縋り付き「大変な思いをさせてすまない」と謝り倒していた。

 少しして室内に私たちが居たことに気づいた父親は気まずそうに「貴方たちは?」と聞いてきたので、私たちは簡単な自己紹介と今回の事件のあらましを説明した。話を聞いた父親は慌てて「日向を助けて頂き、ありがとうございます」と我々へ深々と頭を下げた。


 日向君の父・川島(かわしま)隆弘(たかひろ)さんの話では、日向君の両親は生活のすれ違いを理由に約1年前に離婚していたらしい。圭子さんが親権を取り隆弘さんが養育費を払う形で話が付き、その後は月に一度面会を行いながら過ごしていたとのことだ。

 変化があったのは半年ほど前のこと。面会日の朝になって圭子さんから「やっぱ今日は無しで」と電話一本で碌な説明もなく面会をドタキャンされたらしい。以降も圭子さんは面会を一方的にキャンセルし続けているらしく、隆弘さんは近く圭子さんの取り決め違反について弁護士に相談するつもりだったという。

 その矢先に警察から「息子さんを保護している」と連絡があったため、両親を伴い急いでここまで駆け付けたということらしい。隆弘さんはそれまで日向君が圭子さんの実家で過ごしていると聞かされていたようだが、日向君が古い平屋(借家だったらしい)に1人残されネグレクトに近い扱いを受けていたことを知ると、両親共々怒りを露わにしていた。そして改めて私たちに


「あなた達がいなければ、私たちは日向を失っていたかもしれません。本当にありがとうございました」

 

 と3人揃って深々と頭を下げた。




 一方、母親の蓮田(はすだ)圭子(けいこ)さん――離婚して旧姓に戻っていた――について。

 彼女は警察に連行され取り調べを受けた後、保護責任者遺棄の容疑で逮捕されることとなった。本人は容疑を否定していたようだが、日向君本人の証言があったこと、日向君の健康状態のチェック結果から栄養失調や打撲痕が認められたことが決め手となったらしい。ついでに私への暴行と、連行時に警官を殴ったとかで公務執行妨害も刑に上乗せされたようだ。


 その後聞いた話だが、圭子さんが日向君の待つ家にほとんど戻らなかったのはなんと恋人の家に上がり込んで生活していたからだという。離婚後、水商売で生計を立てていた彼女は店で知り合った男性と懇意になりそこから交際に発展。以降はその男性の家で同棲生活を送っていたらしい。交際にあたって彼女は自身が子持ち&バツイチであることを隠していたが、それがふとしたキッカケで男性側にバレてしまい家を追い出されたため、仕方なく自宅に戻ったのだそうだ。ここ最近になって圭子さんが日中いつも家に居たのもそういった事情があったらしい。

 ちなみに隆弘さんへ「2人で圭子さんの実家で世話になっている」と説明していた件だが、圭子さんは離婚に際し両親と揉めており実家とは疎遠になっていたらしく、実際は親を頼ることは出来なかった。しかし隆弘さんから養育費を払ってもらうため、嘘をついていたそうだ。


 そして自宅に戻ったその日、圭子さんは破局の原因である日向くんにほとんど八つ当たりで衝動的に手を上げた。その時は彼女も少しだけ気が晴れたらしいが、しかし翌日になって日向くんの額の青あざを見ると嫌な考えが脳裏に浮かんだという。


「これが周囲に知られれば暴行で通報されるかもしれない。そうしたらいずれ育児をサボっているのもバレて、親権を取り上げられて養育費も貰えなくなるかも」


 そう考えた圭子さんは、日向くんの怪我の状態が良くなるまで家に閉じ込め誰にも会わせないようにすることを決めたそうだ。どこまでも自分本位な理由に、怒りを通り越して呆れすら覚えた。


 結局この事件が原因で、圭子さんは日向くんの親権も手放すこととなった。事件後、隆弘さんは弁護士を通じて「今回の件から圭子さんに養育能力はないと判断する」と日向くんの親権の譲渡を要求したからだ。ここでも圭子さんは抵抗を見せたらしいが、警察から連絡を受け彼女の引き受けに駆け付けた圭子さんの両親がこれに大激怒。隆弘さんに平謝りしながら親権を譲ることを約束したのだという。養育費も今後は圭子さんから隆弘さんへ支払うことになるそうだ。


・・・・・・・・・・


 そして今日、日向君はこの地を離れ、他県にある隆弘さんの実家へと引っ越してしまう。今後は向こうで父と祖父母と共に静かに暮らしていくとのことだ。法的な手続きはまだまだ残っているらしいが、早く向こうの環境に慣れた方がいいだろうと家族みんなで話し合った結果だという。


 私たちは最後のお別れを言うため、駅で待ち合わせてから一緒に日向君の家へと向かっていた。事前に夕美から日向君の引っ越しの日は聞いていたが、私は当初そこまで深い関わりもない事から行くつもりはなかった。しかし、事件後に日向君と何度かカウンセリングを行っているらしい瑛理から


「日向君から、最後にアンタにお礼が言いたいって言われてるのよ」


 と連絡が来たので、仕方なく向かうことになった。


 2人でアパートへ到着すると、家の前に停めた軽自動車に日向君と隆弘さん、そして翔太と夕美が手分けして荷物を積み込んでいた。翔太たちの足元にはいつかの不機嫌そうな顔をした三毛猫・ドラの姿もある。聞いた話では、日向君が引越し先に連れていき世話をすることになったそうだ。夕美からのメッセージで、文面からでも安堵しているのが伝わってきた。


 そうしてみんなで荷物を車へ積み終えると、ついにお別れの時間が来てしまった。

 もうすっかり人気がなくなった家の前で、子どもたちは別れを惜しむように向き合っている。


「絶対、絶対連絡しろよ」

「私からもお手紙送るからね」


 日向くんの両手をそれぞれ取りながら、翔太と夕美は2人して涙目になっている。

 2人の姿に日向君は目を細めながら何度も頷いていた。


「向こうに行っても2人のことはずっと忘れないよ。…それに、お姉さんたちのことも」


 そう言って私と瑛理にも笑顔を向ける。彼の肩を抱きながら、隆弘さんも私たちに深く頭を下げた。


「改めて、お礼を言わせてください。あの日、貴方たちがここに来てくれなければ日向はどうなっていたか…感謝してもしきれません。本当に、ありがとうございました」


 しかし私は隆弘さんの言葉に「いいえ」と顔を左右に振り

 

「私たちがここへ来たのは、彼らが必死に日向くんの身を案じて連れてきたからです。ですから、お礼はどうかこの2人に」


 そう言って翔太と夕美の背を押す。その言葉に静かに頷いた隆弘さんは、2人の前にしゃがみこんで彼らに目線を合わせてから


「2人とも、日向のために頑張ってくれてありがとう。君たちは私にとってのヒーローだ。日向に君たちのような友達がいて、とても誇らしい気持ちだよ。今日で住む場所は離れてしまうけど…これからも日向と仲良くしてくれると嬉しい。いつでもウチに遊びにおいで」


 そう言って2人とそれぞれ握手をした。2人は最初照れ臭そうにしていたが


「日向のこと、よろしくお願いします。あと、ドラのことも」

「絶対遊びに行きます。日向くんともドラともまた遊びたいから」


 そう笑顔で告げた。




 そうして日向君たちを乗せた車は走り去っていった。日向君は車が見えなくなるまで、リアウインドウからドラと一緒にこちらに向かって手を振っていた。

 残されたのは私と瑛理、翔太と夕美の4人。

 瑛理は車が走り去っていった方を見つめたまま涙ぐむ2人の頭を撫でながら


「すぐに冬休みになるし、また会いに行けばいいわ。離れ離れって言っても飛行機や新幹線が必要な距離じゃないんだから。お父さんもいつでもおいでって言ってたじゃない」

「…うん」

「…はい」


 瑛理にそう諭されると、2人とも涙を拭いながら答える。


「お姉さんたち、本当にありがとうございました。お姉さんは私たちのおかげって言ってたけど、私たちだけじゃ日向くんのこと助けてあげられなかったと思うから…お世話になりました」

「俺からも、ありがとう、姉ちゃんたち。日向が無事で本当に良かった。ウチと夕美の両親も、2人にお礼を伝えておいてって言ってたよ」


 2人は私と瑛理に向き直ると、夕美は満面の笑みを浮かべながら、翔太は恥ずかしそうに頬をかきながら、それぞれ私たちに感謝の気持ちを伝えてくれた。彼らの微笑ましい姿に、私たちは顔を見合わせて笑い合ってから


「「どういたしまして!!」」


 と揃って笑顔で答えた。

今回ももうちょっとだけ続きます。

最後までお付き合い頂ければ幸いです。

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