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ウワサ話のウラ話  作者: 紺堂
第3話 アナタはどこにいるの

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猫のウワサ 5

 猫の首輪につけられた「タスケテ」という不穏なメッセージ。

 それが意味するものとは何なのか。

 もちろんおふざけやいたずらで書かれただけということもある。

 それでも、こんなものを見つけたからには誰かに話さずにはいられないだろう。


「―――というワケなのよ」

「ははぁ…それはまた…」


 そういうワケで、私が話し相手に選んだのは旦那である渉だった。

 その日の夕食の場で今日起きた一連の出来事を渉に説明したのだが、渉の表情は優れない。普段はこういったミステリーっぽい話には食いつきがいいと思っていたのだが、今回の話は彼の琴線に触れなかったのだろうか。


「…こういう話好きだと思ったけど、あんまり興味なかった?」


 ストレートにそう聞くと、渉は顔を左右にブンブンと振って否定した。


「いや、めちゃくちゃ面白そうな話だと思うよ。でも、その…ゴメン、原稿の締め切りが近くてそれどころじゃないっていうか…」

「あー…」


 渉の職業はライトノベル作家だ。それも季刊誌で連載を持っている。単行本の発売以外でも収入があることはメリットだが、反面こうして締め切りに追われる頻度も多くなる。今回は進捗があまり優れないと数日前にも零していたので、本当にヤバイのだろう。


「ごめん、確かにそれどころじゃなかったわね。原稿あるなら、今週は私がご飯作ろうか?」

「悪いけどそうしてもらえると助かる…」


 申し訳なさそうに頭を下げる渉。普段は在宅ワーカーの渉が食事当番となっているのだが、締め切りが近いとこうして私が家事負担を多くする時もある。普段は渉の方が何かと家事をやってくれているので、この辺はお互い様だ。


「週末の買い出しも一人で行ってくるわ。渉はお仕事頑張って」

「何から何まですまない…今度埋め合わせするから」

「いいのよ。夫婦じゃない、私たち」


 頭を下げっぱなしの渉の額を軽く小突くと、渉は苦笑いしてから食事に戻った。


 そうして食事を終え、皿洗いを済ませると渉は早々に書斎に入っていった。きっと遅くまで執筆を続けるつもりなのだろう。


「そっか…今週末は一人行動か…」


 一人になったリビングで温かいお茶を飲みながらそう呟く。

 こうして締め切りの都合で渉抜きで週末を過ごすことも少なくはない。普段は家でのんびり過ごしたり、友人を誘って遊びに行くといったことも考えるのだが…


(丁度良いわ。例の件、一人で調べてみましょう)


 そう決心すると、私は早々に寝室に向かい眠りについた。


・・・・・・・・・・


 そうして迎えた週末、私は休日で閑散とした百代印刷の門前に立っていた。もちろん休日なので門は閉められており、敷地内にも人気は無い。


 本日の目的は例のメッセージの謎解きである。誰かがふざけて書いたものかもしれないが、本当に誰かのSOSだった場合は手遅れになった時寝覚めが悪い。


(染谷あたりには「暇人ですね~」とか言われそうだけど…)


 しかし、リアル謎解きゲームのような状況に若干テンションが上がっていることも確かだ。不謹慎かもしれないが、こういった謎解きは好きな部類である。気分はまるで探偵気分だ。


「さてと…まずは…」


 そう一人呟くと、私はポーチからあるものを取り出す。それはビニール製の保存袋に入った1枚のレシートだった。言わずもがな、裏面に「タスケテ」と書かれたあのレシートである。

 それの表面を見てみると、それはここからほど近い場所にある大手チェーンのコンビニが発行したものだとわかる。購入日は約1週間前で、購入したのは大量の弁当やお菓子、飲料など。


(これで何か分かればいいんだけど…)


 手掛かりとしてはあまりにも弱いが、何もわからないよりはマシだ。そう自分を奮い立たせ、私はレシートに表記された住所を目指し歩き始めた。




「…まぁ…そう上手くいく訳もないわよね…」


 力なく項垂れながら自動扉を潜り、コンビニを後にする。

 レシートに書かれたコンビニに到着した私は、レジに立っていた店員にレシートを見せながらそれとなく買い物客のことを聞き出そうとした。しかし店員からは「知らないし知っていても教えられません」とバッサリ断られ、やむなくすごすごと店を出ることとなった。

 まぁ入店していきなりそんなことを聞いてくる客なんて怪しいことこの上ないし、逆にペラペラと喋る店員がいたらそれもそれで問題だが。


 とはいえ、元々望み薄なのは分かっていたつもりだが、こうしてすげなく断られてしまうと気落ちしてしまう。


「ただでさえ手掛かりが少ないのに、こっちは完全に空振りとはね…」


 あとはもう一つの手掛かりに賭けるしか…とコンビニ前で肩を落としていると、足元に妙な感覚が。

 何やらデジャヴのようなものを感じつつ足元を見下ろすと、見覚えのある黒猫が私の右足にまとわりついていた。屈んで首元をよく確認すると、そこにはこれまた見覚えのある赤い革製の首輪がついている。間違いなくあの紙片を持っていた黒猫のようだ。


「おーよしよし、お前に会いたかったんだよー」


 思わぬ再会に嬉しくなり頭と喉元をスリスリと撫でてやると、黒猫は目を細めながら嬉しそうにゴロゴロと声を出しつつ、以前と同様に自分から頭を私の手に擦り付けてくる。やはりかなり人馴れしている猫のようだ。


「お前がどこから来たのか教えて欲しいんだけどねー」


 そう、もう一つの手掛かりとはズバリこの猫のことだ。あのメッセージが書かれた紙片を持っていたこの子ならば、メッセージの預け主を知っているはず。…とは言え、言葉も通じない猫に何を期待するというのか。この子が直接メッセージの預け主の元へ案内してくれれば楽なのだが、それは流石に期待し過ぎか…。


「…ん? あ、あれ?」


 ぼーっと考えを巡らせながら猫を撫でていたが、しばらくして黒猫は身震いを一つすると私の手をくぐり抜けてそのまま駆け出した。慌てて立ち上がり後を追おうとしたが、黒猫は数歩進んだところで立ち止まると私の方を振り返りこちらを見つめてくる。まるで何かを訴えてくるような黒猫の瞳に、吸い込まれそうな錯覚を覚えながらも


「ついてこいって言ってるの?」


 私がそう言うと、猫は前方に向き直り再びゆっくりと歩き出した。

 私の言葉を理解しているのか、いないのか。


「…いいわ、こうなったらトコトン付き合ってやるわよ」


 そう意気込むと、私は黒猫の背を追いかけ始めた。

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