猫のウワサ 3
最初の野良猫の溜まり場訪問から数日経ったある日の午後3時過ぎ。私は再び工場裏の雑木林を訪れていた。理由はもちろん、野良猫に餌やりをしている犯人を見つけるためだ。
あの日の飲み会での須崎さんの推測から子どもが野良猫に餌やりをしている可能性があると考えた私は、小学生が放課後に立ち寄るであろう時間帯である15時頃にあたりをつけて、再度あの場所に足を運ぶことにした。安易な思いつきとも思えたが、上司に報告する前にそれくらいの調査はしてみてもいいかと思ってのことだ。
もちろんこんなところに用もなく行こうとしても上司に咎められるだけなので、印刷部の宮地さんにも協力を仰いだ。適当な用事を総務部に頼んでもらい、私がそれを上手く引き受けて工場まで出向く口実を手に入れたのだ。
そんなこんなで雑木林を踏み分け例の広場付近まで到着すると、そこには既に先客の姿が。
「やあ、待ってたよ」
身を屈めて茂みから広場の猫たちを観察していたのは、普段通りの紺色の作業着の上に防寒着を着込んだ宮地さんだ。
彼は事情を説明して私がここへ来る口実作りを依頼した際に「工場の衛生問題だから」と自分から同行を買って出てくれたのだ。私の説明に最初は疑いの色を滲ませた様子の宮地さんだったが、数回見回りに行くだけと説明したらそれならばと同行してくれることになった。
「しかし、本当に子どもが犯人だったとしてもそう上手く見つかるかね?」
「まぁすぐに見つかるなんて思ってないですけど、こういうのは地道な積み重ねですよ」
そんなもんかねぇ、なんて訝しげな表情を浮かべていた宮地さんだったが、広場で思い思いに過ごす猫たちの方に向き直ると途端に緩んだ顔になってしまった。
(本当に好きなんだなぁ)
私も動物は好きな方だと思うが、ここまで表情を崩すようなことはない…と思う。自分でペットを飼ったことがあるかないかの差なのだろうか。
宮地さんの緩みきった顔を見て、自分はこんな顔するようなことはないだろうなー、なんて考えたりもしたが、その時ふと染谷から言われた『旦那様の話の時はデレデレした表情で惚気まくっている』という言葉が脳裏をよぎった。
(もしかして、私も渉の話をしている時はあんな感じなのか…?)
今更そのことに気付き若干ショックを受けていたところ、広場を挟んで反対側の茂みからガサガサと物音がすることに気付き我に返る。宮地さんも音に気が付いたのか、さっきまでの緩んだ表情から一転して緊張した面持ちで茂みの方を向く。
2人して身を低くしながら固唾を飲んで茂みの方の様子を見守っていると…茂みをかき分け現れたのは、小柄な人影2つ。それを目にした宮地さんはギョッとした表情で息を飲む。
「…うそでしょ」
「…運が良かったですね」
自分の…いや、須崎さんの勘の良さに感嘆する。
何故ならそこに現れたのはなんと、ランドセルを背負った2人の子どもだったからだ。




